「キラキラ社会人」の溢れる就活・採用場面を超えて:「残念な社会人」ワークショップ!?

 中原研究室の大学院学生有志と、いろいろな研究プロジェクトに取り組んでいます。

 そのひとつが、去年から取り組んでいる「大学ー企業のトランジションプロジェクト」です。編著「活躍する組織人の探究」(東京大学出版会)に続くトランジションプロジェクト第二段で、研究室OBの舘野さん、博士課程の木村さん、高崎さん、保田さん、吉村さん、修士課程の田中さん、浜屋さんらと、これまで取り組んできました。2年間かけて、ようやく論文や書籍を執筆する段に入ってきています。


(活躍する組織人の探究は「芝生本」と呼ばれています)

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 論文の方は、代表者の方が苦労なさって投稿し、こちらは今結果待ちの状態にありますが、今、もっとも問題になっているのは書籍の方です。
 いわゆる「調査報告書的」ではない、わたしたちにしかできないような「本」をつくれないかと画策しています。

 そこでわたしたちが思いついた案が、「わたしたちの調査結果の知見を生かしたワークショップレシピと実践報告を掲載した本」でした。

 おそらく、うちの研究室の強みは、「サーベイをしながら、実践もできる」という「二足のわらじ的な研究者(悪くいえば、どっちつかずのプラプラ研究者)」を自信をもって(勘違いしながら)もって養成することです(笑)。
 アカデミズムにおける伝統的問いである、

 あんたがめざすのはリガー(科学的厳密性)か、プラクティカルレリヴァンス(実践関連性)か?

 と問われれば、僕は、躊躇なく「そんなの、どっちもじゃん。愚問は頭を悪くするよ」と答えるでしょう(笑)。

 というわけで、今、書いている本は、

 大学から企業へのトランジションを扱った本で
 しかも
 ワークショップ実践+レシピをのっけたサーベイ本

 という本になりました。
 ていうか、先の文章では「今、書いている本」としましたが、実際には「1文字」も書いていないことは内緒です(笑)。いまだ、脳内執筆中。

 というわけで、今、大学院生の皆さんで、いろんな大学生向けのワークショップを考えては、実践し、あーだこーだ議論しているところです。
 ワークショップの開発というのは、まずコンセプトが必要です。今は、コンセプトをひねり出し、実践に落とし込み、数名を対象にした実験を行い、ブラッシュアップするということを繰り返しているのです。

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 昨日は、研究室の田中さんが、面白いアイデアをもってきてくれました。彼が対象にしているのは、企業への就職活動を終えた大学生に対するワークショップで、組織への適応を早めるものを考えておられます。

 田中さん、曰く、

 学生が「就活」で出会う社会人というのは、企業の中でも最もキラキラしており、かつ、エネルギッシュな人々である

 といいます。というか、正確にいいましょう。その方々の個人的資質がどうかはわかりませんが、採用・就活の局面では、否が応でも、「キラキラ」「エネルギッシュ」を演じなければならない局面が存在することは否定できないでしょう。
 そりゃ、採用場面の実務にたたれる方は、企業の顔・イメージを背負います。初期リクルータ研究が明らかにするように、リクルータの個人的イメージから、採用応募者は、その企業のイメージを推論し、応募を決めるのです。このような条件下では、どんよりとした人がアサインされること、ないしは、グダグダな自分しか演じられない人が、その職にアサインされることは希でしょう。
 
 研究室の浜屋さんによりますと、

「人は、若い頃には、自分より遠くて、ポジティブな人を探してロールモデルとする傾向があり、年をとると、自分に近くて反面教師となる人を反・ロールモデルにする傾向がある」

 という研究知見があるそうです。

 この知見を考えるなら、やはり採用場面には、自分より少しお兄さんで、彼らがロールモデルになりえるようなキラキラ男子・キラキラ女子がアサインされるということになるのでしょうか。あるいは、そうした役割演技が期待されることになります。

 しかし、実際、わたしたちが組織に参入後、出会う人々は必ずしもそうではありません。モティベーションも、能力も、ルックスも様々な人がいます。彼らは、敢えて「キラキラ」を演じることを、社会的に要請されてはいません。

 いいえ、組織参入後、就活のときに出会った、先のキラキラお兄さん・キラキラお姉さんですら、仕事に疲れているかもしれません。

 「つーか、やってられるか、このボケナス!」

 と居酒屋でぐだをまいていたり、

 「オレもツレーんだよ、やってらんねーんだよ!」

 と後輩に絡んでいるかもしれません。いえ、そこまでいかなくても(?)、人知れず、キラキラを演じることに後ろめたさや悩みを感じているかもしれないのです。
 つまり、採用・就活というのは「特別に仕立て上げられた舞台」なのです。それが必ずしも「組織のリアル」を反映しているわけではありません。

 組織のリアルは「キラキラした社会人」ばかりではなく「残念な社会人」や「残念な状態の社会人」も溢れています。
 正しく言えば、「キラキラした社会人にも終わりなき日常があり、日によっては、(少なくとも学生の目線からみれば)残念な状態で仕事に取り組んでいる場合も少なくないということです。

 ここで大切なことは、「残念な社会人」や「残念な状態」を糾弾することでは、断じてありません。
 自戒をこめていいますが、社会で仕事をしていれば、かなり「残念な状態」もあり、しかし、ごくごく希に、オケイジョナリーに(なんで英語?)「キラキラすること」もありうるかな、くらいが、「組織の中で働くということのリアル」ではないかと思います。

 そして、今はまだ経験が浅くキラキラしている学生ですら、少し時間がたてば、あっという間に「残念な社会人」になりうる可能性はゼロではありません。だから、ここではやや極端に「残念な社会人」と書きましたが、そう考えるならば、「残念な社会人とは、キラキラ社会人ではないフツーの社会人」と考えることもできます。

 こうした「組織のリアル」との出会い、それにともなう激しいリアリティショックは「特別に仕立て上げられた舞台としての採用・就活」を華々しく通り過ぎて来た人ほど、大きくなることが予想されます。だからこそ、残念な状態を事前に知り、しかし、真に受けるのではなく、「笑いとばさなければなりません」。

 田中さんが提案してくださったワークショップの詳細はここでは述べませんが、この「キラキラ」「残念」「ロールモデル」「反ロールモデル」ということをキーワードに、ワークショップを今後、浜屋さんと一緒に実践なさるそうです。楽しみですね。

 この本は、いまだ出版社が決まっていないので、出るかどうかすらわからないのですが、わたしたちとしては、ぜひ、ワークショップレシピ+サーベイ結果もご覧頂き、実践に役立てていただけたらなと考えています。大学などで実践できるよう、90分 / 100分くらいの枠でできるワークショップを考えているところです。

 そして人生は続く

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追伸.
「耳」を養うアナウンサーの学びの現場!? : TBSアナウンサー加藤シルビアさん、笹川友里さん、清水大輔さんにお話を聞く(ダイヤモンドオンライン:中原淳の学びは現場にあり!、本日公開されました!)。当時、取材をアレンジして頂いたTBSテレビ藤田さん、矢田さんには心より感謝致します。

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「耳」を養うアナウンサーの学びの現場!?
http://diamond.jp/articles/-/66194

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追伸.
 ただいま「現場マネジャーの抱えるディレンマ」を絶賛募集中!です。えーい、どないせーちゅうねん系悶絶ディレンマ、どうかお寄せください!

「現場マネジャーの抱えるディレンマ」を絶賛募集中!
http://www.nakahara-lab.net/blog/2015/01/post_2347.html