「出来るようになった人」とは「出来ないことがわからない人」である!? : 職場のOJTにモヤモヤするときに考えてみたいこと
何かを「出来るようになる」ということは、「出来なかった時のこと」を「忘れること」でもあります。
何かが「できる」ようになった瞬間に、私たちは愉悦を感じるのと同時に、それが「出来なかったときのこと」ー苦労したり、試行錯誤したときのことを、「過去の出来事」にしてしまいます。「出来なかったときの悔しさや惨めさ」は、時に「甘美な思い出」に転化され、無化されます。
いずれにしても、人は「出来るようになった」瞬間に、「出来なかったときのこと」が「わからなくなる」のです。「出来る人」とは「なぜ出来ないのかがわからない人」でもあります。
▼
このことは、「仕事の現場」にも言えることです。
暦も5月に入り、そろそろ新入社員が新たな職場に配属され、OJT指導員、ないしは、マネジャーのもとで、仕事をはじめる瞬間でしょうか。
新入社員は、今、圧倒的な「不透明さ」の中におられるのだと思います。右を向いても、左を向いても、上を見ても、下を見ても、新しいことと驚きの連続。中には、こんなハズじゃなかった、とリアリティショックにうちひしがれておられる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、程度の差こそはあれ、みんな同じようなものです。
少しずつ少しずつ、さながら、洞窟の内部をさぐるように、壁に手をはわせ、カンテラであたりを照らしながら、前に進み、全貌を明らかにしていくことが、今は為しえることかもしれません。暗い洞穴の中で、視界がきかない中、爆走するような愚弄は避けることです。時に周囲の人々にヘルプをだしながら、少しずつ、前に進むことができれば、それでよいのではないでしょうか。
しかし、このときに、少しだけ「問題に」なることがあります。
それは、洞窟の少し先を颯爽と歩き、ヘルプを提供してくれている「先達」ーつまりは、職場の先輩や既存メンバーは、先ほどの話でいえば「出来る人」であるということです。
彼らは、みずから仕事を抱えながら、助言や指導をくれるかもしれません。しかし、既述しましたように「出来る人」とは「出来なかった時のことを忘れている人」でもあるのです。
彼らは、自らの仕事を抱えつつ、それでも、誠意をもってヘルプを提供してくれるかもしれませんが、時に「出来ないこと」がわからないことがあります。新入社員が「出来ない様子」を見て、これが、「なぜ出来ないのか」がわからないのです。なぜなら、彼らは「出来る人」だからです。
そして、さらにややこしいことに、新入社員はそんな既存メンバーの状況、「出来ないことがわからないという状況がわからない」のです。なぜなら、新入社員は「出来ない人」だからです。
かくして「出来ること」によって「出来ないことがわからなくなること」。そして「出来ないこと」が「わからないこと」が「わからない」という循環は、無限に連鎖します。誰かが、それを「断ち切ろう」としない限り。
ひとつの手段は、新入社員の方が、「出来ないこと」を詳細に語り、「出来る人」に「出来なかったときのこと」を「思い出させること」です。
もうひとつの手段は、「出来る人」が「出来ない人」を前にして、「出来ないことにまつわる困難や障害」を詳細に聞いていくことです。
結局、我々に為しうることは「語ること」そして「聞くこと」。
ぬるくて、かったるくて、めんどくさいことかもしれませんが、無限の連鎖を断ち切る方法は、それほど多く存在しているわけではありません。もしかすると、新入社員の方々は、後者の手段を期待したいかもしれませんが、まずは自分から動くことです。
「学校」では「先達は機会均等に人を育てることをよしとする」かもしれませんが、「社会」では「先達は見所のある前向きな人を育てる」のです。「ルールが既に変わっていること」に気をつけなければなりません。
▼
今日は、新入社員にまつわることを書きました。この内容をさらに「深掘り」したものは、近刊の雑誌プレジデントの連載「仕事の未来地図」に紹介される予定です。こちらでは、新入社員に求められる4つの資質とは何か。そして、OJT指導の際に留意したいポイントは何か。そのあたりについて、ゆるゆるとお話しています。どうぞお楽しみに。昨日、編集者の九法さんと井上さんと、その打ち合わせがありました。お疲れさまです。
新入社員の方々の中には、明日から休日だとホッとしておられる方もいらっしゃるかもしれませんね。お疲れさまです。もし、職場のOJTの局面で、モヤモヤしたことがあったら、一寸だけ、思い出してみるとよいかもしれません。
「わたしの目の前にいる、この人は、わたしが出来ないことが、わからないのかもしれない」と。
自分の状況を伝える必要がないのか、と。
Keep on going!
そして人生は続く!
--
追伸.
5月9日、拙著「駆け出しマネジャーの成長論」が中公新書ラクレにて刊行されます。AMAZONではすでに先行予約がはじまっておりますが、先だって、「瞬間最大風速」的に、カテゴリー「マネジメント・人材管理」1位を記録しました(笑)。ありがとうございます!
この本は、「実務担当者がいかにしてマネジャーになっていくのか」を扱った一般向けの新書です。人材育成研究の知見と、先達マネジャーの語りから、新任マネジャーが直面する7つの挑戦課題について、それをいかに乗り越えるかを考えています。玄人のみなさまにもお楽しみ頂けるように、脚注などを充実させました。どうぞご笑覧ください。
投稿者 jun : 2014年5月 2日 07:28
【前の記事へ移動: OJT指導員になるということ:「マネジャーへの成長」への序説 】【次の記事へ移動: 映画「アナと雪の女王」をワンワードでいうと!? : TAKUZOと映画を見に行く ...】