企業で働くビジネスパーソンの「大学時代」をさぐる:新刊「活躍する組織人の探究」(俗称:芝生本 しばふぼん)が刊行されます!!
活躍する組織人の探究 大学から企業へのトランジション(AMAZON)
http://ow.ly/uJuEa
3月27日、東京大学出版会より「活躍する組織人の探究 大学から企業へのトランジション」という(ガチ!)学術専門書が出版されます。主に大学のキャリアセンターの研究・関係者、就職の関係者、人事関連の研究をなさっている方で、大学ー企業の移行過程に興味がある方には、おすすめの内容です。
本研究は、電通育英会のご支援をうけ(心より感謝です!)、京都大学の溝上慎一研究室と東大中原研究室の有志が3年くらい前から進めていたものです。
当時、企業で働いている1000人(章によっては3000人)の振り返り調査のデータを用いて、「大学から企業・組織への適応」が、いかにして起こっているかを分析しました。高等教育研究と企業人材マネジメント研究の「香ばしい融合」?をめざしたつもりです。ダバダー(笑)。
本書に対して、著者それぞれにいろいろな思いはあるとは思いますが、僕が、本書にかけた思いは、「育成と採用の連動」でした。僕の研究の観点なので、その視点は「企業」によってしまいますが、僕は
「育成前のプロセスを見ることで、育成のアウトカムをいかにあげることができるか?」
を強く意識して書いたつもりです。
一方、溝上先生はおそらく「大学のアウトカムとして企業への適応」をみていらっしゃると思います。両者の視線が交差するところが、本書の面白さ?であり猥雑さかもしれません。
書籍の中でも書きましたが、激化する競争環境のなか、社会化(組織が新人を育成すること)に関する資源は、非常に限られたものになってきます。
素早い社会化(Swift socialization)をめざすのであれば、社会化以外(社会化以前)のプロセスに目配りを行う必要がでてきます。
具体的には、採用ー育成ー配置という一連の人事プロセスをいかに設計していくかが、おそらく、今後、さらに問われることになると思います。その際に、大学時代にどのような経験をしていたか?というデータは、有望なデータのひとつだと思います。
昨今、実務の世界でも、大学の成績の厳密化の結果、もう少し大学時代の成績を採用プロセスに用いよう、という動きがはじまっています。そのような内容に少し関連する研究かと思います。
僕たちとしては、この研究を最初の契機として「大学ー採用ー内定ー育成ー配属」を一気通貫する研究を行っていきます。僕の興味はあくまで「企業の育成」の観点からみた上記プロセスの探究ということになります。おそらく溝上さんは「高等教育のアウトカム」からみた探究をなさっていくことでしょう。
今日・明日・あさってで、これに続く、またひとつの新しいデータセットができあがる予定です。この研究は、地道におこなっていきたいと思っています。
本書は研究書ですので、記述は大学院レベルです。実証的な分析に加えて、「大学ー企業の移行プロセス」に関する理論に関しても言及されていますので、ご興味のある方はどうかご笑覧ください。
ちなみに、今回の装丁は、東京大学出版会・編集者の木村素明さんの一球入魂です。有機性あふれる緑の「芝生」が印象的ですね。「活躍する組織人の探究 大学から企業へのトランジション」は長いので、これからは「芝生本(しばふぼん)」とよびましょう(笑)。
この芝生の作品は、日常ありふれたものを、抽象的なイメージに用いる写真家 安村崇さんのものです。そんじょそこらの「芝生」ではありません(笑)。
本書がテーマにしている「大学ー企業のトランジション」も、多くの人々が経験するものですね。本書は、それをより抽象的、かつ理論的に考察しています。その本書のモティーフが、安村さんの作品に似ているところがあります。木村さん曰く、そういう意味で、「芝生本」になっちゃいました、とのことでした。木村さんの伴走には、いつも感謝しております。ありがとうございました。
最後に「目次」と「前書き」と「後書き」を下記に転載します
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■目次
第1章 活躍する組織人の探究:大学時代の経験からのアプローチ(中原 淳)
第2章 「経営学習研究」から見た「大学時代」の意味(中原 淳)
第3章 大学時代の経験から仕事につなげる:学校から仕事へのトランジション(溝上慎一)
第4章 大学生活と仕事生活の実態を探る(河井 亨)
第5章 就職時の探究:「大学生活の重点」と「就職活動・就職後の初期キャリアの成否」の関係を中心に(木村 充)
第6章 入社・初期キャリア形成期の探究:「大学時代の人間関係」と「企業への組織適応」を中心に(舘野泰一)
第7章 初期キャリア以降の探究:「大学時代のキャリア見通し」と「企業におけるキャリアとパフォーマンス」を中心に(保田江美・溝上慎一)
第8章 総括と研究課題(中原 淳・溝上慎一)
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■前書き
大学の卒業、そして、企業への就職 - この接続・移行空間には、様々な言説が跳梁跋扈している。それらは、ある時は共振し、別の時分には共犯関係にすら発展し、そうかと思えば鋭く相対立することもある。多種多様な「声」が、今日も、様々なステークホルダーによって、発せられている。
「大学時代の勉強など、企業に入ってから役に立たない。だから企業には白紙で入社してくればいい」
「大学は一体何をしているのだ。企業に入る前から、企業で必要になる様々な知識や能力を身につけてこさせるのが大学の責務であろう」
という企業内部の「複数の声」。
「企業に入ってからは役に立つことしか学べないのだから、大学時代は役に立たないことこそ、学べばいいのだ」
「企業に入ってから必要になる能力を早期に獲得させ、学生の就業力を高めるのが大学の仕事であろう」
という大学内部の「複数の声」
多種多様な「声」が響き合う言説空間に「仁義」はない。
拮抗しあう声、結びつく声。
それらは、大学と企業の狭間を漂い、学生を、ステークホルダーを、今日も「翻弄」している。
本書で筆者らは、これらの多種多様な声の存在をいったんエポケーする。
本書が目的とすることは、「大学時代の個人の経験(意識と行動)」と「企業に参入したあとの個人のキャリア・組織行動」の二項関係を、多角的な視点から実証的に探究することにある。我々自身が取得したデータから着実に、かつ、実証的に、大学と企業という2つの機関を移行しつつ生きている個人に接近することが、本書のめざすところである。
本書で紹介される数々の知見は、「教育機関での学習・経験 - 採用・選抜 - 組織社会化 - キャリア発達」という、今後、さらに注目が集まることが予想される「縦断研究のモティーフ」を、いわば鉛筆画のデッサンのように、粗描するだろう。
近い将来、このモティーフのもとに、筆者らを含めた数多くの、多種多様なディシプリンを有する研究者が、彩り豊かで鮮やかな各研究知見を持ち寄り、実証的で、建設的で、未来志向的な議論が生まれることを願う。
2013年11月吉日 真夏のような暑さ残る晩秋の本郷
著者を代表して 中原 淳
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■後書き
「企業の人材開発を研究してきた研究者」と「大学生研究を行ってきた研究者」が、お互いの専門性を持ち寄り、新たなプロジェクトを遂行する。この数年、共編著者一同で集い続けてきたプロジェクトは、最も知的にエキサイティングな時間であった。
このプロジェクトに関係して下さった関係者の方々、貴重な時間を質問紙の回答にあててくださったビジネスパーソンのみなさま、そしてプロジェクトをファイナンシャルな側面から支援して下さった、公益財団法人 電通育英会のみなさま、アシスタントを努めて下さった中原研究室の阿部樹子さん、そして本書の編集にあたってくださった東京大学出版会の木村素明さん、営業をご担当いただいた角田光隆さん、心より感謝申し上げる次第である。
私たちの、決して未だ完成系とはいえない知的探究は、月並みな用語で述べるならば「学際研究」と呼べるものになるのかもしれない。しかし、当然のことではあるけれど、「学際研究を第三者的に語ること」と「学際研究を自ら実践してみること」は、全く違っている。
このたび集まった共著者は、プロジェクト当初、お互いに、それぞれの研究のコンテキストを踏まえているわけではなかった。それぞれの研究領域の常識や専門用語をまずは学ぶ必要があったし、分析のやり方なども、微妙に異なっていた。このコラボレーションに取り組んだ数年間は、そうした違いをひとつひとつ確かめ、確認しつつ、また、相互の研究領域の知見を学びつつ過ごした日々であった。この共同研究は「研究すること」が、即、「研究者自身の学び」であるプロジェクトであったように思う。
しかし、私たちの知的探究は、いまも途上である。追加の研究余地は莫大に残されていることは否めぬ事実である。また、分析上の不備・方法論的検討の必要性も枚挙に暇がない。この広大な研究領域は、単一のディシプリンでは解決不能であるし、高等教育と企業研究の両者からの歩み寄りやアプローチが必要である。将来の若い研究者とともに、私たち自らも、この広大な研究領域のディテールを、より詳細な方法論で、描き出していくことに邁進していきたい。
この数十年、日本企業は様々な艱難を経験してきたし、これからも、きっとするだろう。
一方、日本の大学も法人化以降、様々な変化にさらされてきたが、おそらく、これからもそうだろう。
本書の知的探究が、両者の連携や協力につながること、さらには、我が国の将来を支える人材の育成につながることを願い、今は筆をおく。
投稿者 jun : 2014年3月21日 07:00
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