「他人の育成」を手がけることで「自分の能力」を伸ばすこと

 現在、自分の研究の9割は「ビジネスの領域」に関するものですが、たった1つだけ「教育関連」をフィールドにした研究があります。
 それは3年にわたって横浜市教育委員会と東京大学中原研との間で行われた「初任者教員の熟達」に関する共同研究です。
 思い起こせば、3年前。志高いある教育委員会の先生、M先生が、僕の著書「職場学習論」をお読み頂き、研究室に訪れて下さったきっかけに、この研究は、はじまりました。

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 横浜市では、年間900名ー1000名をこえる初任教員が、学校現場で教鞭をとりはじめます。校種にもよりますが、団塊世代の大量退職のため、今、首都圏等では、若手教員の大量採用が続いています。初任教員の中には、就職を機に地方から横浜まで出てこられる若い方もいらっしゃいます。

 しかし、初任教員の熟達をめぐる状況は、年々過酷になっています。学校を支えるはずの中堅教員(ミドル)が各学校において圧倒的に少なく、現在、教育現場の中には若い教員と50代の教員に分断されている学校も少なくありません。教員の業務は多忙。さらには、保護者対応や困難を有する生徒への対応などで、なかなか初任教員の育成に手が回らない状況が増えているのです。

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 共同研究は、横浜市の教員を対象にした「調査研究」(全市の初任教員、2年次、5年次、10年次教員)と、その調査データを活用した「研修の実践」の2つに別れていました。

 調査のパートでは、中原研OBの脇本君、そして教育学研究科の町支君(2年目までは讃井君)が、分析を行ってくれました。

 そのうえで、横浜市のデータの分析からわかってきたこと、具体的には「どういう環境であれば初任教員が育つのか」を研修教材に埋め込み、現場の先生方にお返しすることをめざしていたのです。

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 横浜市は、チームメンタリングの制度を用いて、初任教員の育成に中堅教員がかかわりつつ、中堅教員の成長をもめざすという方針で研修が組まれています。
「上が下の面倒を見る」、そのことを通して「上も伸びる」という、このシステムを垣間見て、まっさきに思いつくのは、ドラッカーの言葉です。

「他人の育成を手がけない限り、自分の能力を伸ばすことはできない」
(Drucker 1973)

 「他人の育成」を手がけることは、それは「大変な側面」もあるのでしょうけれど、しかし、それは同時に「自分の能力を伸ばすこと」にもつながります。横浜市の教員研修は、この考え方が色濃くあるような気がしています。

 具体的には、10年次研修の中のコンテンツに、「初年次教員の育成」に関する内容があり、その必要性を学んだうえで、ファシリテーションなどの技術を学び、各学校において、それぞれの先生が「初年次教員の育成に資するような場をつくること」を求めています。

 10年次研修は毎年7月に実施されます。僕たちのチームも、この研修の一部を担当させてもらい、1回250名近くの先生方に数時間のワークショップを実施させて頂きました。「伝達型の研修」を拒否し、徹底的に「対話型研修」にこだわりました。様々なエクササイズを用いつつ、現場へのアクションを促す、いわゆるアクションラーニング型の研修を開発しました。

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 その上で、僕は研修の最後にこう申し上げました。

「この研修は、これでは終わりません。どうか、これまで以上に、各学校において、初年次の先生方の育成に資するような場をおつくりください。今度は、県立音楽堂でまたお逢いしましょう。そのときには、皆さんで、実践事例を持ち寄る会にしましょう。

 実際に10年次研修が終わるのは、年をあけて1月、すなわち昨日です。「県立音楽堂」という1000名規模のホールで、10年次の先生方500名と、現場の副校長先生500名を対象に、合同研修が行われました。
 横浜市の全校が事例発表をすることはできませんので、校種の異なる3校を選び、3校の10年次の先生に、実践事例に関するプレゼンテーションをしていただくことになっていました。

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 会は2時にスタートしました。

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 冒頭、僕は、夏の10年次研修の様子を密かに撮影していた4分もののリフレクションムービーを先生方にご覧頂き、研修の要点をおさらいしました。

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 夏の10年次研修は、もう数ヶ月の前のことです。
 まずは課題について思い出してもらう必要があります。

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 つぎに10年次の先生方のプレゼンテーションがはじまります。プレゼンに際しては、10年次の先生方に

1)スティーブン・ジョブスになったつもりで、パブリックスピーキングのようにプレゼンをして欲しい

2)立ち位置はスクリーンの横にして、ワイアレスリモコンを用いてプレゼンをしてほしい

3)プレゼン冒頭で「わたしのような若輩者が・・・」といったような謙遜をせず、自信を持ってプレゼンをして欲しい

 と御願いをしました(笑)。

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 10年次の先生方は、それぞれの校種にあった初任教員の育成実践をご紹介いただきました。ありがとうございました&お疲れさまでした。

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 10年次の先生方の出番が終われば、つぎは会場にご参加の1000名の皆さんの出番です。お近くの方3名程度のチームをつくってもらい、相互の学校の育成に関して、ゆるく対話をしていただきました。

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 最後は3名の10年次の先生方にくわえ、各校の副校長先生もはいっていただき、いわば「徹子の部屋」?風に僕とやりとりをしていきました。
 10年次のミドル教員の動きが学校運営にとって大切なことは言うまでもないですが(日本の組織にとっては、ミドルの役割が大きいと言われていますね)、学校内で様々な施策を立ち上げていくためには、管理職の理解やサポートが不可欠です。副校長先生には、10年次の先生方にどのようなサポートを行っていたのか、などについてお話いただきました。

 研修はこのあと岡田教育長のご講演となりましたが、僕のパートはここで終了です。
 
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 共同研究は3年の予定でしたので、今年度の試みで、一区切りを迎えるものと思います。今後は、脇本君や町支君ら、教師教育研究を志している若手の皆さんが、研究の成果を論文にしたり、書籍としてまとめていくようです。

 3年間この研究を行って思うのは、自分の強みである企業を対象にした「調査研究」また「ワークショップ型研修」といったものを教員研修の中に組み込めたことは、よかったのかな、と思っています。本当に微力であったとは思いますが、今はやり終えたことで、ホッとしています。
 そうした試みが、教師教育研究のどこに位置づくのかは、脇本君や町支君ら若手のご専門のみなさまにお任せしたいと思っています。

 最後になりますが、今回の試み、横浜市教育委員会の北村さん、木村さんらのサポートのおかげ、また脇本君、町支君の活躍のおかげで、何とか、終えることができました。ありがとうございました。心より感謝いたします。

 そして人生は続く