コメンテータとは「コメントする人」ではなく、「つなげる人」である:話者の受容ー自分の土俵ー聴衆への問いかけ!?

 仕事柄、よくコメンテータとか、ディスカッサントというのを依頼されることがあります。コメンテータとディスカッサントの違いは、よくわかりませんし(笑)、あまり興味もないのですが、要するに、僕に社会的に期待されていることは、

「他のどなたかの発表やプレゼンを聴いて、大勢の聴衆の方々の前で、何らかのコメントをすること」

 です。具体的には、100名くらいの聴衆の方々がいらっしゃって、どなたか第三者がプレゼンをなさって、それに僕がコメントをさせていただくような場面でしょうか。たまにそうした場にお招きいただくことがあります。
 
 今でこそ、あまり緊張せずにできるようになりましたが、若い頃は、これが滅法苦手で、いつも自分のコメントの番が回ってくる度に、シドロモドロになっていました。
 だって、何を言っていいか、わからなかったんです。
 依頼者の方に聴いてみても

「そこは、中原さんが、自由に思ったことをご発言ください」

 とか

「中原さん、まだ若いんだから、自由闊達にバーン、ドカーンといきなさいよ」

 くらいしかアドバイスはなく(泣)。

「突然、自由に発言してもいい」と言われると、「急に自由に話ができなくなる」んですよね(笑)。で、あさってのことをしゃべって、引かれちゃったりとかして。まぁ、今でもそういうことはありますが、昔は、もっと、僕もそんな感じでした。

 ところで、ちょっと前のことになりますが、まだ若い駆け出しの研究者の方が研究質にやってきて、

「コメンテータってどうやるんですか? 僕、先日、ある会からコメンテータを頼まれたんですけど、何を話していいか、わからなくって・・・」

 という質問をいただきました。「うーん、どうするんだろうね、まぁ、悩んでよ」と思いつつも、「でも、僕も、以前は、悩んだことがあったな」と思いつつ、「数多くの修羅場で血みどろになって、何とかかんとか、自分で、つかんだコツ」を共有させていただきました。それが、それが今日の記事です。ま、血みどろのコツとかいっても、たいしたことじゃないよ。

  ▼

 最初に言っておきますが、コメンテータといってもいろいろなタイプがありますし、専門分野や会の趣旨による違いがあるので、下記の話は、僕の領域に関連するお話だとお考えください。また、僕のやり方はあくまで経験談で、絶対の方法だというわけではないので、あしからず。イメージとしては、100名くらいの実務をなさる方の前で、どなたか第三者があるプレゼンを行い、それに僕がコメントしなければならないといったコンテキストで、お話をすすめます。

 ともかく、僕が、時には血を流しながら、経験則でつかんだコメンテータとしての振る舞い方は、こうです。端的に述べると、

 コメンテータとは「コメントをする人」ではない

 ということにつきます。

 むしろ、

 コメンテータとは「つながりをつくる人」

 なのです。

 もちょっと具体的にいうと、コメンテータとは「話者の話題ー自己の専門性ー聴衆への問いかけという3つを統括する人」といっても過言ではありません。今日は、この仮説に基づき、コメンテータの役割行動を細分化すると、下記のようになります。

1.話者受容モード
 まずは話者を受けいれて、彼 / 彼女の言葉の要旨を、自分の言葉で、その要旨を言い直す

2.自分の土俵モード
 1を踏まえて、話者の内容に最も関連の深い、自分の専門分野の中の知識等を述べる

3.聴衆問いかけモード
 1と2を総合したうえで生まれてきた、新たな可能性や新たなものの見方を、今度は、聴衆に問いかける

 もう少し詳しく見てみましょう。
 まず、1は話者の話した内容を、まずは、徹底的に受容するモードです。ただし受け入れるわけではコメンテータにならないので、話者の話した内容を、自分の言葉で簡潔に、かつ、忠実に言い直してみることをこころみてみます。具体的にセリフをつくりますと、こんな感じでしょうか。

「○○さんのお話は、僕の言葉でいいますと・・・・話であったと思います」
 
 次に2の「自分の土俵モード」に入ります。ここで大切なことは、1をきっかけにして、「自分の専門分野の中の関連知識を述べること」です。この段で最も留意すべきことは「自分の土俵に引き込むこと」であり、「自分の土俵以外で相撲をとらないこと」です。
 このモードでは、自分の専門性に徹底的にこだわり、自分の専門分野の専門知識、関連知識を素早く検索し、1に関連づけて話します。たとえば、こんな感じになるでしょうか。

「これに関連する話としては、僕の領域ですと・・・・・や・・・・・がありますね。かつては・・・・なことも試みられていました」

 最後3の「聴衆問いかけモード」です。3では、1と2を総合して、新たな議論の可能性や、新たなものの見方を聴衆に返します。具体的に言葉にしてみますと、こんな感じでしょうか。

「○○さんのお話と、僕の話を総合して考えますと、新たに・・・・なこともいえそうですね。また・・・・なことも考えられそうですね。皆さん・・・・・に関しては、いかが思われますか? 皆さんの日常は・・・なっていますか?」

 要するに言いたいことは、コメンテータに求められていることは、「話者からはじまり、自分の味付けを語り、みんなに返すこと」だということです。あくまで経験即ですが、これを為したときが、もっともしっくりくる感じがいたしました。
 個人的には、コメンテータとは、「話者ー自己ー聴衆のあいだにつながりをつくること」「つながりをつくることを通して、問いかけること」が求められている、のではないか、と感じています。

 ▼

 今日はコメンテータの作法を述べてみました。
 
 よくシンポジウムなどでは、「罵倒系」とか、「ちゃぶ台がえし系」とか、「自慢系」とか、いろんなコメンテータを目にしますが、願わくば、みんなが気持ちよくなり、かつ、元気になるコメントをしたいものです。

インプロ(即興劇)の言葉に「Give your partner good time!」という言葉がございますが、願わくば、話者にとっても、聴衆の方々にとっても、「Good time!」を提案したいものです。
 まだまだ、小生も、修行中の身ではありますが。

 そして人生は続く