「OJT指導をする先輩側」は何を学んでいるのか?
いわゆる「OJT指導」というものは、指導する側にとっても「学び」をもたらすことは、経営と学習の研究領域において、随分前から言われていたことです。たとえば、Feldman(1985)は、組織社会化の影響は、組織社会化される側ばかりではなく、組織社会化をする主体・集団・組織に対しても影響が及ぶことを指摘し、組織社会化を「相互影響プロセス」として把握することを理論的に提案しました。
(余談ですが、Lave and Wenger(1991)の正統的周辺参加論を下敷きにして考えるのならば、「OJTの機会」というのは、「周辺参加の状況にいる若手世代ー古くから共同体に参加している先達」のあいだの「教育・指導関係」のような「ニュートラルなもの」として記述はできないような気もします。それは「若手世代ー先達世代」や「若手世代ー古参参加者」の葛藤を内包するものであり、中長期的視野にたてば「先達世代」「古参世代」の地位を脅かしかねない可能性も持ち得ているということになるのだと思います。ひと言でいえば、「抜き差しならない関係」。すなわち、新人の参入とは、場合によっては既存のコミュニティメンバーとの葛藤につながり、「コミュニティ全体の変化」にもつながりえる、ということですね。この世界観の違いが、興味深いことでした。以上、完全な余談です。)
話を本に戻して、このことを、ひと言で述べるならば、「新人や若手を指導すること」を通して学ぶ。それは、管理職手前のマネジメントの予備訓練、と言えるのかもしれません。
部下を動かすには、褒めなくてはならないんだな・・・
とか
部下と上司の間で仕事をするとは、どういうことなのか・・・
とか
自分の仕事で自信をもってわかっていることは何か・・・・
などなど、新人や部下への指導助言・仕事付与を通して、将来必要になるであろう、マネジメントの基礎を学ぶことは少なくありません。
先日、お邪魔させて頂いた、某社のOJT指導員の方は、その様子をこんな風に述べておられました。
(OJT指導は、今後やマネジメントのことも)意識しなきゃならないよな、と思うきっかけ?。褒めることが大切だ、とか。(中略)あと、後輩がついて、自分の役割が変わったかな、とか思うんでしょうね。自分のやってきたことを、アウトプットする役目になっちゃう?。そっから、あとは、どこからどこまでを上に吸い上げて、うえにあげるか、ですかね。真ん中にいて、すべてあげてたんじゃ、話にならない。(OJT指導をするようになって)そういう微妙なさじ加減ですね。
上記の発言において、この方は、OJT指導を「マネジメントを意識するきっかけ」になったと位置づけておられ、そのプロセスの中で、部下指導や上方影響力の行使の「微妙なさじ加減」を学ばれた、と発言なさっています。まことに興味深いことです。
もちろん、これら以外でも、「OJT指導は時間をつくって行わなくてはならない」ため、「タイムマネジメント」の要諦を学ぶということにもなりますし、場合によっては、ストレスコントロールを学ぶ機会にもなるのかもしれません。
今一度、先ほどの発言から妄想力をふくらましてみますと、「新人や若手指導」というものが、中長期的視野にたてば、「次世代のマネジャー層の育成」につながっている、ということに気づかされます。もちろん、「新人や若手指導、完全イコール、次世代のマネジャー層育成」というわけではないのですが、「後者に資する要因の一部」を「前者」が果たしているということは言えるのではないでしょうか。
だから、不幸か幸いか、「下がなかなか入ってこなくて、OJT指導を行う機会を逸してしまった世代」が、もし組織内にあるのだとすれば、中長期的視野にたてば、それは管理能力の伸張にネガティブな影響を与えうる、ということになるのかもしれません。
しかし、一般に、これらの二つは、「新人は新人、マネジャーはマネジャー」として全く異なるものとして多くの場合認識されていることの方が多いようです。前者の後者に対する影響は、ずっと、後になってでるものです。だから別物だと考えられます。
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こうした現状を踏まえ、研究室OBの関根さんと中原は、OJT指導員に関する研究を今年より開始しています。
この研究の趣旨にご賛同頂いたいくつかの会社で(心より感謝です!)、「OJT指導員の変化」を実証的かつ縦断的に追う研究を開始しているのです。反復測定をともなう縦断的研究は、私たちにとっても、はじめてで、それこそ「OJT指導員の研究」をしている私たちも、また、学んでいる、といっても過言ではありません。
研究知見が出てくるまでには、もう少し時間がかかりそうですが、もし、これが出てきますと、
どのような新人と出会い
どのようなOJT行動を行えば
どのようなアウトカムがOJT指導員にもたらされるのか?
がわかるようになってくるはずです(希望的観測)。
そして、これがわかれば、OJT指導にからむ若手・OJTする側の個々人の変化、すなわちOJTを媒介とした生態系が、もう少しクリアに描き出せるのではないか、と感じています。
先日は調査研究に御協力いただくN社さんにお邪魔させて頂き、担当者のTさん、Kさん、Fさん、Oさん、Nさんらからお話を伺う機会を得ました。本当にありがたいことです。心より感謝いたします。
なるべく早く研究知見を出せるよう、最大限努力する所存です。
そして人生は続く。
投稿者 jun : 2013年9月10日 05:44
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