出会いでコケれば、みなコケる!? : あまりにも静かな、不可視の闘い
先日、ある方から、
「今週、研修で、人前で、話をしなくてはならないのだけれども、今から工夫できることは何かないか。研修は悉皆なので、参加者の中には、いろんな人がいる・・・あべし」
というご相談を受けました。
あまりたくさんご助言させていただいても、「今からすべてを工夫できるとは限らない」かもしれないので、僕は、少しだけお話しました。
「もし、気合いを入れるのだとしたら、一番"最初"、つまり「出会いの瞬間」に気合いをいれた方がよいかもしれません。一番最初の、出会いのタイミングで、3つをしっかり理解してもらっていただくとよいかもしれません。それは価値づけ、効力づけ、支援づけの3つです」
「価値づけ」「効力づけ」「支援づけ」というのは、僕の造語で、「3つの異なる意味づけ」をあらわす言葉です。
たかが「意味」かもしれませんが、されど「意味」です。人は「意味」だけで生きているわけではないのですが、「意味が浮遊するもの」に、なかなか耐えられません。
僕は、とくに、大人のモティベーションを考える上で、これら3つの意味づけに配慮することが大変重要だと考えています。
繰り返しになるかもしれませんが、大人は「意味づけ」の曖昧なものに耐えられない。「意味づけ」の部分を「位置づけ」といってもいいかもしれません。
逆に「意味づけ」や「位置づけ」がいったん明確になったものに対しては、自律的に振る舞い、行動することができます。
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さて、早速、第一の「価値づけ」とは何でしょうか?
「価値づけ」とは、
何がめざすべきところで、なぜめざすのか?
学び終えると、どんなメリットが生じるのか?
ということに関する「意味」です。
第二の「効力づけ」とは、ひと言で述べるのならば、学習する不安(Learning Anxiety)の低減です。学ぶことには、負担感や不安がつきまといます。
ですので、「効力づけ」とは
やればできるんじゃないだろうか?
負担や失敗する不安はそれほど高くないんじゃないだろうか?
ということに関する意味づけです。
第三の「支援づけ」とは、「自ら律するものを支援する」という意志です。
「支援づけ」とは、
もし立ち上がるのなら、最大限支援します
最大限、あなたを受容して、物事をすすめます
という意志の表明です。
これらは、特にティーチングの最も最初に表明される必要があります。途中で行ったりすると、あまり効果はないかもしれません。
これら3つの観点から意志を示し、学習者といわば心理的な学習コントラクト(Psychological Learning contract)に近いものを結ぶことが重要かもしれません。
僕の場合、たとえば、自分が担当しているコースでは、最初の45分はこれらのコントラクトに、じっくりと時間をかけます。
ここはどんな場なのか? どんなことをめざすのか? そこでは、どのように振る舞って欲しいのか。これから、何が起こるのか。僕にできることはなにか。
それらを十分、参加者の方々にご理解いただいたうえで、
「それでは質問はありますか? 僕は、このように場を、すすめたいと考えていますが、それでよろしいですか?」
とアプローチすることにしています。この瞬間がもっとも緊張する瞬間であり、勝負です。
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月並みな言葉ですが、「何事も最初が肝心」です。もっと砕けた言い方が許されるならば
「出会いでコケれば、みなコケる」
です(泣)。
たとえば、教育現場では、クラス担任をまかされた場合、「最初の7日間」が勝負だともいいます。この7日間で、学級づくりの方針をしめし、規範をつくることができるかどうか。
その成否が、その後の1年を決めると、先日お逢いした志ある先生はおっしゃっていました。
ちょっと前にお逢いしたマネジャーの方は、海外赴任の際には、最初の7日間は緊張するとおっしゃっていました。
そこで大きな方針を示し、信頼してもらえるようにつとめる。そこで失敗すると、海外の場合は「マネジャー自身が見限られる」とも。
そのように考えると、「物事の最初」、出会いの瞬間とは、「目に見えない闘い」のようなものかとも思えてきます。
出会いとは、「あまりにも静かな、不可視の闘い」
そして人生は続く