組織開発とは言わない組織開発:「リーダーによる職場開発」と「組織開発が埋め込まれた研修」

 昨日は、組織開発の定義や概要についてお話をしました。
 ブログであることをいいことに、ここぞとばかり、定義のディテールの差異をレビューすることをぶっ飛ばし(学術論文では、こうした暴挙はしませんよ)、ざっくり・ばっさり・要するに、組織開発の定義を、

「組織の目的を達成するために、"組織メンバーが協働できるようにする"ための介入・努力」

 ととした「ひと言」で述べたうえで、もうちょっとだけ、それを具体化しました。

 たとえば、

 1.人が「組織」としてまとまりをもって
    働けるようにするための介入プロセス
 2.組織の中のコミュニケーション
    を円滑にする努力プロセス
 3.組織の中にネットワークや信頼
    といった社会関係資本を発達させるプロセス

 などの諸力が、組織開発と呼んでも差し支えないものであると、僕は、昨日、述べました。

 さて、昨日は、何とかかんとか、ここまで到達したのですが、さて、ここまでを聴いて、皆様はいかが思われたでしょうか。

 「そんなのわかってるよ、アホンダラ」
  という方から、
 「ふーん、そうなのね、だから?」

 という方まで(笑)、いろいろいらっしゃるとは思うのですが、今日は、実装(インプリ)編です。

 こうしたことを、じゃあ、どう実現しようか、やってみようか、と一寸思ったときに、わたしたちは、いったい、何からはじめればいいのでしょうか。

 人事や人材開発の知識や経験をもっている人が、「組織開発」といいますと、よく思い浮かべるのは、中規模の人数を対象としたチームビルディングのワークショップや、組織全体を対象にした組織改革や組織理念系のワークショップなどです。
 経験と専門性を有する社内外のファシリテータが、組織開発を目的に集められた人々の場、「非日常の場」を仕切り、人々のあいだに上記の1・2・3がうまく醸成されるように、アクティビティやコミュニケーションを統御していきます。
 また、人事の専門誌や、海外の人材マネジメント事例などで取り上げられるのもの、この類のものです。その特徴は、やはりひと言でいいますと、「非日常性」にあるのでしょう。
 こうした「本格的な組織開発」は、我が国の組織構成員が、さらに多様化することを考えると、今後、さらに必要になってくるものと思われます。実践の社会的意義は増しつつある、というのが僕の見解です。

 しかし、一方で、こうも思います。
 上記のような「ハイエンドな場」を、最初から創ることにチャレンジせずとも、もう少し「日常のレベル」で、上記のような目標を達成することも、可能なのではないのか、と一寸思います。

 たとえば、わたしたちがふだん仕事をしている、職場ではいかがでしょうか。
 これは予想なのですが、経験と志ある現場のマネジャーの方が、先ほどの上記の1、2、3を聴いたとしたら、人によっては、

「そんなもん、毎日やってるよ」

 と答える方もいらっしゃるのではないか、と思います。
「組織」とはいかなくても、「職場」のレベルでは、人々をコラボさせるための、様々な介入や努力は、職場のマネジャーによって担われているからです。
 なぜなら、目標を掲げ、それを腹におとし、さらに人々の協力や参加を促すことこそ、リーダーシップとよばれる社会現象そのものですし、リーダーの役割だからです。つまり、リーダーの職責を全うするするためには、「職場開発」の役割を担うことから、遠ざかることはなかなかできるものではありません。

 というわけで、職場レベルでは、組織の意をくみ取った現場マネジャーが、現場レベルの「組織開発、つまりは「職場開発」を日常レベルで実現すること。別の言葉でいうならば、職場開発の意図を日常のマネジメントの中に埋め込んでいくことが、まず大切なのかな、とも思うのです。

 職場とくれば、研修ではいかがでしょうか。
 近年、ヒアリングをしていて、とみに増えているな、と実感するのが、「ななめをつなげる意図を密かにもった研修」と「多職種参加型の研修」です。
 要するに「組織開発の意図を裏側にもった研修」が増えているな、と実感するのです。

 前者とは、つまり、具体的に申しますと、3年目と5年目のフォローアップの研修の際、それぞれの社員を同一の場に集めて、一緒に活動を行ったりするようなことをさします。要するに「仕事をしていても、ふだんは、あわない人同志を集めて」繋げるわけですね。

 1年目と2年目や、3年目と4年目といった明確な上下になりますと、新人研修や職場などで、わりあい顔をあわせる機会も多い。そうではなくて、3年目と5年目といった「同じ年代で、同じような興味関心・思いをもって仕事に取り組んでいるのだけれども、少し目線が違う」人々を集めて、つなげることが、興味深いところです。「同じ - 違い」のズレをうまく学習に結びつけるのですね。

 後者「多職種参加型の研修」も同じようなかたちです。
 組織の規模にもよりますので、一概にはいえないですが、組織の中には、様々な職種・専門性をもった人々が集まって、協力して、ひとつのプロダクトやサービスをつくっている例が少なくありません。

 たとえば、そうした人々が、それぞれの職種から、一同に介して、たとえばキャリア研修をする。ふだん考えない仕事のこと、キャリアのこと、自分の未来のことを考える。
 多職種からの参加ということになると、当然、最初は、話がかみあわないこともある。自分としては「常識」だと思っていたことが、同じビルで働く違う職種の人々にとっては、全く「常識」ではないこともある。

 要するに、この「同じ組織で働き、同じものをつくっていつつも、違う職種で違った働き方」をしているという「同じ - 違い」のズレをうまくつかって、研修を行い、学習を深化させ、さらには副次的に人々のつながりをつくっているということになります。

 今日は組織開発の実装について、少しだけ王道を踏み外して、お話しをしました。
 くどいようですが、いわゆる「ザ・組織開発」といった特定の手法や手続きによる場の創出やファシリテーションは、今後、我が国の組織が迎えるであろう、本格的なダイバーシティ労働環境においいては、必要なものです。

 しかし、今日の話題は、そこまで洗練されているとはいえなくても、既存の物事に「組織開発の意図を埋め込んで」実践することは可能だよ、ということを申し上げました。比喩的に述べるならば、こうした機会は、

「組織開発とはいわない組織開発」

 ということになるのでしょうね。

 本格的な場の創出にいく前に、まずはスモールスタートからという場合、こうした実践のあり方も検討されてもいいことなのかな、と思います。
 具体的には「職場レベルでのリーダーによる組織開発」、すなわち「職場開発」は行えるし、すでに行われています。
 また、研修においても、「組織開発の意図をひそかに隠した学習の場の創出は可能」ですし、すでに行われている、ということでした。

 ふぅ。
 2日間にわたって続いた、組織開発のお話、これにて終了。
 何とか間に合ったか。あと2分くらいでTAKUZOが起きてきます。
 
 そして人生は続く。