「教える経験の少ない人」が、他人に何かを教えるときに、ついつい、陥ってしまう3つの罠:「詰め込み」「バラバラ」「一方向」

「教えること」にあまり経験のない人が、他人に何かを教えなければならないときに、最も陥りやすい罠は、「詰め込み」「バラバラ」「一方向」の3つです。

 仕事柄、僕は、企業の研修・ワークショップを人よりも多く参与観察しておりますし、また、大学院生に教えることを教えるプログラム「東京大学フューチャーファカルティプログラム」にかかわってもいます。

 これまでたくさんの授業事例(症状!?)を見てきましたが、「教えることのノービス」がついつい陥りやすい症状としては、この3つといっても、過言ではありません。
 現在3月年度末、数日たてば、新年度。日本各所では、新人研修・新学期の授業がはじまるということもあり、今日は、自戒をこめて、このお話をしたいと思います。

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 陥りやすい罠のひとつめ、「詰め込み」とは、そのものズバリです。やたらと学習内容が多すぎる。
 たとえば、1時間しか時間がないのに、パワーポイントが100枚ある! 1分に1枚めくったとしても、時間が足りない。だから、パワポをめくりまくる。

 これでもか、これでもか。
 ひー、まだめくり終わらん。
 おぬしできるな。

 ほとんど、状況は「ひとり相撲」です。もちろん、そんな枚数では、もちろん、学習者は、板書をノートに書き写すこともできません。ひーこらパワポをめくるまくる教授者の前には、「お地蔵さん」か、ないしは「ハニワ」のように固まっている学習者がいるだけです。

「バラバラ」も、そのまんまですね。学習内容が多すぎる上に、扱われている学習内容の相互の関係があまり見えない。話す内容、伝える内容の構造が示されておらず、ただ散漫に情報提供を行っているように見える。

 なんで、ここで、この話がでてくるんだろう?
 この話、さっきの話と、どんな関係あるんだろう?

 このような結果、最後の罠「一方向」が、必然的に生まれますね。だって、時間がないわけですから、とにかくしゃべくり倒すしかないんです。

 おのれ、こしゃくな、耳の穴かっぽじってよく聞けい

 かくして、授業は、「ひー、お代官さま、カンニンしておくれやす的な展開」に(!?)、もれなく陥ります。

 つまり、この3つは独立なようでいて、実は、相互に密接に関連しています。

 最大の問題は、

「限られた時間の中で、私は、あなたに、"何"を、最も伝えなければならないのか?」

 この問いに対する答えが、見出し切れていないということです。
 究極「何」はひとつに敢えてしぼってもよいのかもしれません。どんなに絞ったとしても、どうせ、膨らむことの方が多いですので(笑)、いったんは絞りにしぼった方がいい。

 いずれにしても「この時間にめざすもの」「この時間の目的」「伝える内容のフォーカス」が決め切れていない場合には「多大な情報」を扱わざるを得なくなる傾向があり、ゆえに学習内容が膨大になり、ひたすらしゃべくり倒すことになる可能性が高まる、ということですね。自戒をこめて注意したいものです。

 あべし。

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 しかし、このような状況は、頭ではわかっていても、ついつい、生まれてしまうものです。

 ひと言でいうと

 わかっちゃいるけど、やめられない(笑)

 目的はフォーカスしているつもりであっても、いつのまにか、善意で、ついつい、あれよあれよ、という間にこうなってしまう。

 ですので、今日は最後に、僕の経験上、教材やパワーポイントをつくっているときに、頭に浮かんだら注意が必要な3つのワードをあげておきましょう。

 この3つの言葉が、脳裏に去来したならば、パワーポイントをつくる手をいったん休めて、もう一度、「目的」に立ち返った方がよいように思います。

 ひとつめの言葉は「もったいない」

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(ドヘタすぎて、自分でも卒倒しそうになりましたが、僕の記憶の中にある「もったいないおばけ」は、こんな感じ。嗚呼、小生、図工2)

 学習内容を「盛ること」は、多くの場合、「よかれ」と思ってやってしまうものなのです。「限られた時間」であり「コストが多大にかかっている時間」だからこそ、有効に活かしたくなる。あれも、これも、それも、どれも、扱いたくなる。
 特に「軸」が決め切れていない場合には、そのリスクが高まります。ついつい、よかれと思って、「盛ってしまう」のです。

 しかし、

「もったいない」と思って、「盛り込んだ内容」は、もれなく「伝わりません」

 悲しいかな、そういうものです。

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 ふたつめ「あとですね・・・」
 この言葉は、自分が「これまで話してきた内容」に「追加」して、何かを話すときに使われます。ただし、「前後の関連性」は薄く、「ちょっと追加してみようかな的」な「プチつながり」のときに、この言葉が脳裏に浮かぶものです。

 あとですね・・・・これについてもお話しちゃおうかな
 ・・・ということなんですよ

 あとですね・・・・あれについてもお話しようかな
 で・・・ということなんですよ
 
 最後にですね・・・せっかくなんで、これもお話しようかな
 ・・・ということなんですよ

「あとですね病」は、このように無限ループに陥りやすいから、注意が必要です。

「あとですね・・・」のあとに追加した情報は、もれなく、伝わりません。

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 最後は「話は元に戻りますが・・・」
 この言葉は、その日の話題が「複線化」していることの証左です。
 ここまでは、あるライン(話題)で話してきたのだけれども、ちょいと、それとは「並列」ないしは「脱線」するラインのお話をして、また元のラインに戻ろうとする。そういう、プチ脱線、プチ浮気的なマインドのときに、この言葉が脳裏に浮かぶはずです。

 しかし、教授者は、それを「話題は複線化」していることには自覚的であっても、それが学習者に伝わっているかは、微妙であることの方が多いように思います。学習者の側からみると「話題の複線化」というものは、なかなか認識が困難なのです。

 ここでも、マーフィーの法則的?に、ひと言で申しますと、

「話を元に戻そう」と思った場合は、もれなく「戻らない」

 多くの場合、学習者は、本筋のラインが何かを見失うこともあるから、注意が必要です。

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 今日の話は、やや「自爆テロ」的な内容でした(泣)。かくいう僕自身も「人に教える立場」ですので、こうした状況に陥ることがゼロではありません(ごめんなさい)。他人に物事を教えようと思うときに、陥りやすい罠と、そういう罠に陥ってしまうときの思考パターンについて、自戒をこめて、お話しました。

 3月も、残すところあと数日。新年度がついにはじまります。企業では、新人研修の準備、大学では新学期の準備に奔走しておられる方が多いのではないでしょうか。お疲れさまです。

 そんなとき、「もったいない」「あとですね・・・」「話を元に戻しますと」が脳裏に浮かんだら、要注意かもしれませんよ。

 「伝えること」とは、「伝えないこと」を決めること
 「伝えること」とは、余計なものを「捨てること」

 そして人生は続く

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追伸.
 近い将来教壇にたつことを願う東京大学の大学院生に「教えることを教える」プログラム、「東京大学フューチャーファカルティプログラム」は、4月11日のプレワークショップの募集がすでにはじまっています。
 2013年度は100名募集ですが、すでにプレワークショップのお申し込みは90名弱になっております。ご希望の方は、ぜひお早めにお申し込み下さい。

東京大学フューチャーファカルティプログラム
http://www.todaifd.com/ffp/

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追伸2.
 慶應丸の内シティキャンパスで中原が主担当している、人材開発担当者向けの授業「ラーニングイノベーション論」(定員25名)ですが、現在、20名弱のお申し込みがございます。もしご希望の方は、お早めにお申し込み頂けますと幸いです。

ラーニングイノベーション論
http://www.keiomcc.com/program/lin/