予測不可能・複雑怪奇な「現場」で「あと半歩踏み込む」

「君がいい写真を取れないのは、半歩"踏み込み"が足りないからだよ」
If your picture isn't good enough, you're not close enough.

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 先日、横浜美術館で開催されている「ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー 二人の写真家」展に出かけました。

「ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー 二人の写真家」
http://www.yaf.or.jp/yma/jiu/2012/capataro/

 ロバート・キャパは言うまでもなく、世界でもっとも有名な戦場カメラマン。1930年代から数十年にわたり、5つの戦争に従軍し、その様子を撮影した方です。

 一方、ゲルダ・タローは、1930年代にキャパのパートナーだった女性の、やはり戦場カメラマンですね。キャパが駆け出しの頃、2人で「ロバート・キャパ」を名乗り、作品を世に出していた時代があります。

 たぶん「ロバート・キャパ」の名前を知らない方でも、下記のような写真はご覧になったことがあるのではないでしょうか。教科書や多くのメディアでは、よく掲載されています。

ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー 二人の写真家展が横浜美術館で
http://www.asahi.com/event/AIC201301240008.html

 Googleで「ロバート・キャパ」と画像検索をすると、もっと、いろいろな写真がでてきますよ。

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 展覧会を見ていて、つくづく思ったのは、冒頭にあった「半歩の踏み込み」です。写真についても、戦争カメラマンについても、全くの「門外漢」なので、「しょーもない感想」ですが、そんな僕が、つくづく、思ったことは、

「戦場の、この現場において、自分は"半歩踏み込める"だろうか」

 ということでした。

 血が噴き出し、人の生き死に、怒りと悲しみが交差する、まさにその「現場」において「半歩踏み込む」というメタファの意味するところ、またその「リアリティ」や「難しさ」を、ひしひしと感じました。

 文化人類学者の小田博志さんによれば、現場とは「現在進行形」「具体性」「複雑性」「予測不可能性」「即興性」などの、5つのキーワードで彩られる場所だといいます(小田 2010)。

 要するに、現場とは「現在進行形で、個別具体的な物事・出来事が進行し、その様相は複雑きわまりなく、かつ予測不可能である場合」が多い。
 そして、人は、そのような場では、そのつど、そのつど、現場で流れる情報 - 現場粘着情報 - を駆使して、即興的反応、意思決定を行うことが求められるということです。

 キャパは、いつも、「現場」にいました。それも、究極の現場、「戦争という現場」に。

 特に、ロバートキャパの名前を一躍有名にした「崩れ落ちる兵士」の写真、「D-day(ノルマンディ上陸)の写真」などは、飛び交う銃弾の、まさにその「中」に、キャパがいたことを意味します。
 その「現場」で「半歩踏み込む」。そのことの意味を、とても考えさせられる展示でした。

 キャパは、後年、自身も地雷で命を落とします。
 が、彼が言ったとされる名言が、切なく胸に響きます。

「戦場カメラマンの一番の願いは、失業することなんだよ」

 ロバート・キャパ、40歳の若すぎる死でした。

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 今回の展覧会は、戦争カメラマンといった活動に興味のお持ちの方はもちろんのこと、少し想像を膨らませれば、「現場に身をおき、そのつど、そのつどの即興的判断」を行っておられる方々にも愉しむことができるのではないでしょうか。

 展覧会に込められた意図にそった、まっとうな見方ではないかもしれないので、まことに恐縮ですが、個人的には、今回の展覧会、そうしたパースペクティブから見つめておりました。

 予測不可能・複雑怪奇な「現場」で「あと半歩踏み込む」
 そして人生は続く。