「ヒアリングの極意」をワンセンテンスで述べるならば!?

 Give your partner a good time.
 (相手に"よい時間"をプレゼントする)

 これは、即興劇(インプロ)の祖のひとりである、キース・ジョンストンさんが、「インプロの極意」として、よく引用する言葉だそうです。
 演劇教育がご専門の、東京学芸大学の高尾隆さんからうかがいました。高尾さんからは、いろいろなことを教えて頂いています(感謝!)。同期、いいねぇ。

 Give your partner a good time.

 この言葉を伺ったとき、僕の脳裏には、真っ先に、自分がいつも研究で行わせて頂いている「ヒアリング」を思い浮かべました。

 僕が考える「ヒアリングの極意」も、この言葉にまさに、ひと言で表現されると思ったのです。
 ま、「極意」って言ったって、小生みたいな「はなくそ」みたいな「研究者」のいう「極意」なんだから、それは、それなりに、割り引いて、それなりのものとして、受け止めてほしいのですけれども(笑)。真に受けなくていいよ。

 ヒアリングとは、「ヒアリングされるもの」と「ヒアリングするもの」のコラボレーションによって行われる即興的な行為でありますので、この言葉の意味するものが、ある程度あてはまるのは、あたりまえのことなのかもしれませんが、この言葉をきいて、まさに、「我が意を得たり」のひと言として、今でも非常に印象に残っています。

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 Give your partner good time!

 これがなぜ、ヒアリングにとって大切だと思うのかと申しますと、それは、僕の信念にも似た「人間観」が影響しているのかもしれません。

 人は、本当は、自分のことを
    語りたい生き物なのではないか

 人は、本当は、自分のことを誰かに
    伝えたい生き物なのではないか

 人は、もともとは、自分のことを
    表現したい生き物なのではないか

 これらの命題の「真偽」は検証不能ですが、僕は、この3つの命題をいわば、信念のように考えているところがあります。ま、信じるものは救われる、ということで(笑)

 人は、機会があれば、
 しゃべりたいし、伝えたいし、表現したい

 しかし、そういう、いわば、「あたりまえの状況」「自然の状況」が、様々に駆動する「社会的圧力」「抗しがたい権力」によって阻害されている状況が、世の中では、生まれます。
 そういう状況では、人は「鎧」をかぶって生きています。本来の自分を隠して、警戒して、悟られないように、人は生きています。そのような状況では、自分のことを表現しようとはしません。
 だって、危険でしょ。油断大敵、火がボーボーだからよ。

 しかし、もし聞き手が、「安全な時間」「よい時間」を提供することができるのだとしたら、「変テコなテクニック」「即物的なヒアリングのテクニック」などを使わずとも、人は思い出すこと、考えること、話すことを自然と行ってくれるのではないか、と思います。楽観的すぎるかもしれませんが、本当にそう感じるのです。

 ヒアリングでは、そういうアタリマエに生まれるよう、いつも努力したいと思いますし、Good timeが提供できるよう、考えているつもりです。
 小生、まだまだ修行中ではありますけれども。

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 Give your partner a good time.
 
 うまくいったときのインタビューというのは、面白いもので、いつも似たようなお言葉を、インタビュイーの方からいただきます。

「今日は、すっかり雑談ばかりしてしまいましたね。。。本当にこれでよかったのでしょうか」
「今日は、あっという間でしたね。。。本当に、これで研究のたしになるのでしょうか」

 という感想をいただくことがあります。
 そういう感想を頂いたとき、少し、僕はホッとします。
 そして、たいがい、そういうときには、ヒアリングとしての聴かなくてはならないことは、きちんと聴けているものです。つまり、ヒアリングを通した「情報収集」には成功している。

 いまだ小生修行中ですが、自分が行うヒアリングにおいて、そういう「あっという間におわる雑談」をつくれたとしたら、うれしいことです。

 そして人生は続く。