相手に「考えること」をうながす「問いかけ」の技法
仕事柄、僕はたくさんのインタビューをします。つい先日も、あるIT企業でヒアリングをさせていただきましたし、来週も一件、ヒアリングが入っています。
実は、今、次の研究(昨年から仕込んでいたのですが、なかなか遅々として進まなかったのです)として「海外に赴任した日本人マネジャーの研究」を企画しています。それに必要な定性データを取得させて頂く予定です。
というわけで、いつもインタビューをしている僕は、つねに、どのように人に「問いかけ」、何を「聞き出すか」を考えています。できるのであれば、自分自身、そういう「問いかけ」がうまくなりたいな、と思っています。
また、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、僕の専門である経営学習論(Management learning)の重要なキーワードに「内省(reflection)」という概念があります。「内省をなすことのできる個人が、熟達・成長することができる」というかたちで、よく紹介されたりしますね。
「内省が何か?」とは、掃いて捨てるほど定義があります(失礼!品がなくて)。
人生いろいろ、リフレクションいろいろ
http://www.nakahara-lab.net/blog/2010/04/post_1679.html
ただ、ざっくり言ってしまうのなら「自分が過去に経験した出来事を描写し、そのことから自らのあり方を反省し、現在・未来を構想すること」です。
リフレクションは、アクション(行動)がともなってこそ、意味があります。リフレクションは過去にさかのぼり、未来に拓けているものです。
内省は個人で担うものですが、その際のきっかけになるのが、「他者からの問いかけ」です。ですので、やはり「問いかけ」が重要になりますね。他者からの何気ないひと言に「うーん」と唸ってしまったこと。これまでの人生の中で、皆さんにもないでしょうか。
・
・
・
Anyway・・・こんないくつかの背景があり、「問いかけること」には興味をもっています。いったい、どんな「問いかけ」をすれば、人は考えてくれるのか、内省してくれるのか、そして、他者に語りかけてくれるのか、ということに興味があるのです。
ところで「問いかけ」にはどのような種類があるのでしょうか。「問いかけ」のタキソノミー(分類)は、こちらも掃いて捨てるほど(失礼!品がなくて)、先行研究が存在しますが、例えば、Tomm(1988)の介入的インタビューの技法というものがあります。
これはもともと、クライアント-セラピスト間のインタビュー技法についてまとめたものですが、なかなか興味深いものです。
1.線形的質問(Lineal question)
Who When Where What Whyを聞くようなダイレクトな質問です。誰と、何をしているとき、いつ、どこで、何が起こったのか・・・出来事の「描写」に関わる質問ですね。内省サイクル論では「描写」は、内省の最も基礎的なエレメントになります。
基本的な質問に思えますが、実は、経験上、働く大人が意外に苦手なのは、この質問だったりします。「皆さん、クソ忙しいので、いちいち、憶えてない」んですね。なかなか出てこないです。
2.循環的質問(Circular question)
物事の関連性・かかわり・つながりを問う質問です。1で得られた情報をもとに、関連・つながりをつけ、比較・吟味していく質問です。
「Aさんは、あなたをどのように見ていますか?」
「BさんとCさんは、どのような関係ですか?」
「Aという出来事とBという出来事は、どのようなつながりがありますか?」
といったかたちですね。
3.戦略的質問(Strategic question)
インタビューが「行き詰まったとき」にする質問です。敢えて「〜すべき」を多用し、対立的、かつ挑戦的なスタンドポイントにたって語りをひきだします。
「そのとき、あなたは〜すべきだったんではないでしょうか?」
「Bさんは〜すべきだと、あなたは思いませんか」
「Cさんは〜すべきじゃなかったんだと、みんなは思っているんじゃないでしょうか」
4.省察的質問(Reflexive question)
最後は「省察(内省)」ですね。
自分が通常見ている風景・慣れ親しんだ物事を、敢えて「別のコンテキスト」に導いて、相手に「考えること」を迫り、ひいては物事を変化させること、自己を変化させることにつなげようとします。仮定法の形式を取る場合が多い。
「もし、あなたが〜を失うのだとしたら、どうなりますか?」
「もしBさんが、これを妨害してきたら、あなたには何がなしうるでしょうか?」
「もしこのままいけば、あなたはどうなりますか?」
「この出来事がまた起こったのだとしたら、あなたには何がなしうるでしょうか?」
以上です、なかなか面白いですね。
こういうタキソノミーをちょっと知っていて、自分のヒアリングやインタビューを振り返ってみると、自分がどんな「問いかけ」をしていたかが、気になってきますね。
皆さん、もし、今日、面談・インタビューなどが入っていたら、ぜひお試しになられたらいかがでしょうか。
じゃ、今日はここまで。
今日も一日ごきげんよう!
---
■2011/12/07 Twitter
- 23:23 かつて哲学者の鶴見俊輔さんは「祭りの準備こそが"祭り"である」という言葉を残しました。今週末開かれるREMIXでは、主催者・参加者の方々が、皆、「祭り」を創り上げるべく、今まさに、facebook上で「祭り」を体験なさっています。http://t.co/MC3aDjNK
- 17:53 ちょっと前のことになりますが、企業人材育成のウチとソトの協働については、リクルートWorks誌が示唆に富む特集を組んでおられましたね。ひそかに活動理論なども登場して、ワクワクしました。 http://t.co/0wZa4PLx
- 17:45 ブログ更新。人材育成の「内製化」について思う : ウチかソトかの二分法を超えて: http://t.co/msJYuzfB
- 15:39 「職場学習の探求」(生産性出版)・・・各章の分析・編集は、何とかメドが見えた。来週、全体を通しての最終編集に入れそう。
投稿者 jun : 2011年12月 8日 06:46
【前の記事へ移動: 人材育成の「内製化」について思う : ウチかソトかの二分法を超えて ...】【次の記事へ移動: 人生は「坂の上の坂」なのか?: あの坂を登れば、海が見える!? ...】