片桐卓也著「クラシックの音楽祭が、なぜ、100万人を集めたのか」: ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンの挑戦
「クラシック音楽はすばらしい。しかし、あまりにもごく一部の人だけが愉しむものになってしまっている。クラシック音楽を民主化し、その楽しさを一人でも多くの人と分かち合いたい」(ルネ・マルタン)
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片桐卓也著「クラシックの音楽祭が、なぜ、100万人を集めたのか」を読みました。
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ゴールデンウィーク、東京国際フォーラムで年に1度開催される音楽の祭典「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」。この風変わりな名前のコンサートは、私たちがよく知っている通常のクラシックコンサートとは全く異なっています。
通常のクラシックコンサートといえば、
・夜7時からひらかれる
・着飾った一部の人たちの社交の場
・演奏時間は2時間から3時間
・高額なチケット
対して「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」は、
・複数の会場で同時多発的に、コンサートが開かれる
・毎年、コンサートのテーマとなる作曲家が決まっている
・ひとつのコンサートの演奏時間は45分
・一流の演奏を低料金で
・0歳児からたのしめるコンサートもある
なのです。
このイベントを提唱したプロデューサーは、フランス人の「ルネ=マルタン」。本書では、ルネ=マルタンの軌跡をおいつつ、実現に至るまでの紆余曲折を紹介した本です。
ルネ・マルタンがフランスの都市「ナント」で開催した「全く新しい音楽祭のコンセプト」が、東京で「イベント」として結実するまでには、どのような困難や葛藤があったのか。多様な人々を対象にした幅広い取材のもとに、このプロセスを明らかにしています。
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僕はアートマネジメントの世界、プロデュースの世界は全くの門外漢ですが、本書は、非常に興味深く読むことができました。
読んでいて改めて思ったことは、
「人が集まる場所には、人が集まるなりの、ちゃんとした理由があるんだな」
というごくごくアタリマエのことです。なんじゃ、そら、と言われるかもしれませんが、実は見落としてしまいがちなことではないでしょうか。
僕も比較的、コンサートやショーが好きで、クラシックコンサートはよく出かけます(子どもが小さい頃は無理でしたが)。でも、クラシックにしても、演劇にしても、いつも気になるのは、その「年齢層の高さ」。中には、本当に「人が入らないもの」も少なくありませんでした。
ルネ・マルタンがプロデュースしたという「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」は、演奏している中身は、「正真正銘のクラシック」です。つまり、「コンテンツ」はこれまでのものと、そう大差があるわけではない。
しかし、何が違うかというと、「オーディエンスの参加の仕方」「オーディエンスのアクセシビリティの良さ」が決定的に異なっている。そして、そこが「100万人の人を集める秘訣なのか」と感じました。
一般に「人が集まらない」とき、わたしたちは、その理由を人に求めてしまいがちです。「クラシックを愉しめない人が増えたらから、人が集まらないんだ」などなど。しかし、その正否は別にして、実は、「人が集まらない」のには、「オーディエンスの参加の仕方」「オーディエンスのアクセシビリティの良さ」なども非常に大きな理由なのかな、と思います。逆にいうと、そこを見直せば、異議のあるイベントをもっとつくりだすことができるのではないでしょうか。
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「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」は、今年のテーマは「ショパン」。丸の内エリアでは、4月28日から。東京国際フォーラムでは、5月2日からコンサートが開催されるようです。今年は、僕も家族で出かけてみようと思っています。
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン
http://www.lfj.jp/lfj_2010/