クルト=レヴィンという思想
よい理論ほど実践的なものはない
ひとから成り立つシステムを理解する最良の方法はそれを変えてみることである
(Kurt Lewin)
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クルト=レヴィンの著作、伝記などを古本屋で見つけて読んでいる。
クルト=レヴィンといえば、グループダイナミクスの創始者にして、組織開発・ワークショップ・感受性訓練・Tグループの原型をつくった人でもある。晩年にはアクションリサーチという研究手法を定式化し、社会問題にもチャレンジしようとした人であった。
レヴィンは、優秀な研究者にして、教育者でもあった。フェスティンガーやマクレガーなど優秀な弟子にも恵まれ、後世の人文社会科学に多大なる影響を与えた人でもある。組織文化論、組織行動論でよく知られるエドガー・シャインやウォーレン・ベニスらも、レヴィンの流れをくむ研究者である。
あまり知られていないことだが、成人教育学にも影響を与えている。
成人教育学の創始者のひとりとして数えられることの多いマルカム・ノールズは、NTL(National Training Laboratory)においてクルト=レヴィンのワークショップに触れ、大いに知的興奮を受けた。のちに、マルカムノールズは、成人学習のプリンシプルを、成人教育の実践の中からつむぎだしている。
様々な人々と、様々な事を立ち上げ、様々な成果あげ、様々な影響を与えた人である。生涯においてひとつの業績をあげることすら、通常の研究者にとっては難しいのに、レヴィンに関しては、それが多すぎるが故に、その人物像を捉えるのには苦労する。「クルト=レヴィンとは何であったのか」という問いには、なかなか答えようがない。
しかし、敢えて無理を承知で、彼の生き様を一言で要約しようとするならば、「現場・実践の中で生きること」と「科学者として探求すること」の間を、何とか往還しようとすることではなかったか、と思う。
同書には下記のような文言がある。
一科学者としての生活は、一市民としての生活と統合されていなくてはならないと信じ
る人にとっては、(クルト=レヴィン)は理想的であった
レヴィンを語ることは難しい。
しかし、あくまで、僕にとってのレヴィンはこうだ。
クルト=レヴィンとは「アカデミアに根付きつつ、一方で、アカデミアを超えること」である。