上田信行先生の「プレイフルシンキング」を読んだ!

 楽しく学ぶということではない
 楽しいことの中に、学びはあふれている。

(Nobuyuki Ueda)

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上田信行先生(同志社女子大学)の待望の新刊が刊行されました。「プレイフル・シンキング」(宣伝会議)です。

 これまでの、上田先生の無数の実践(歴史)を振り返りつつ、ワクワクドキドキしたマインドセットをもちつつ、「仕事」に「学び」に取り組むことの可能性を論じています。

上田信行先生(同志社女子大学)
http://www.dwc.doshisha.ac.jp/research/data/811.html

 背景にある理論群は、実は、めちゃくちゃ深いのですが、記述は一般向けで非常に平易です。所々にイラストがあって、なごみます(プレイフル君)。おすすめの一冊です。

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 本書は、いろいろな読み方ができる本であるように思います。

 第一には、本書のメインの読み方、すなわち自己啓発の本として。

 モティベーションの維持は、現代を生きるすべての人々にとって、非常に重要なことですが、それを自ら考えるための素材として、非常に重要な指摘を行っています。

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 第二に、専門書へのガイドとして。
 本書はモティベーションの問題を扱っていますが、その背景にあるのは、キャロル=S.=ドゥエック(スタンフォード大学教授)のFixed Mindset, Growth Mindsetの理論です。

 ドウェックは、学習者が自らの学習や能力に対して抱く信念が、学業成績に強く影響を与えることを明らかにした研究者として、知られています。

 上田先生は、大学院時代、ドウェックに薫陶を受け、そのモティベーション理論と、MITのシーモア=ペパートの構成主義をミックスした実践を、これまで実施してきました。
 本書は、ドゥエックの研究や、パパートの構成主義に入る前の入り口として、非常に適切な本だと思います。

 ちなみに、最近ですと、ゲイリー・レイサムの「モティベーション研究の教科書の決定版」ともいえる「ワークモティベーション」が翻訳されています。

「ワークモティベーション」は、モティベーション研究の歴史を丹念に記述した非常によい本です。
 上田先生がプレイフルシンキングで扱った内容は、「ワークモティベーション」では、目標志向性理論、自己調整の理論の部分に触れられています。

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 第三に、ワークショップの実践家のバイブルとして。

 今でこそ、ワークショップという言葉は、どこでも流通する言葉でしたが、わずか10年ほど前までは、誰も使っていませんでした。(教育工学会の大会の申し込みカテゴリーに、ワークショップというカテゴリーが設けられたのは、わずか数年前!)

 上田先生は、その時代から、ドウェックやパパートの理論的背景をもとに、「ワークショップ」の可能性を信じ、自ら実践してきました。
 奈良県吉野に、NeoMuseumというワークショップのための空間も設計・建築なさいました。

NeoMuseum
http://neomuseum.org/

 彼が実践したワークショップは、多くの人々に強い影響を与えました。ちょっと前ですと、MITのジョン前田さんとのコラボのワークショップ「Human powed computing」などが有名です。

Human powed computing
https://secure.kanshin.jp/chizai/?mode=keyword&id=213280

 今年の夏には、NTTのICCで、展覧会「プレイフルラーニング」の監修をなさっています。

プレイフルラーニング
http://www.ntticc.or.jp/Exhibition/2009/Kidsprogram2009/index_j.html

 現在、いろいろな方が、ワークショップを実践していますが、その源流のひとつとして、彼が、創始したものは非常に大きいと思います。僕も、ワークショップをやることがありますが、そのほとんどは、先生から学びました。

 場づくりやインフォーマルラーニングに興味をお持ちの方にも、おすすめです。人が出会い、交歓する場を、どのようにデザインすればいいのか? 上田先生の実践は、非常に多くのインスピレーションを与えてくれます。

 ちなみに、昨日、ちょうど、美馬のゆり先生が研究室にいらっしゃったのですが、僕が、上田先生の本を差し出したら、

「ついに、こういう時代が来たんだね。十数年前は、誰も、使っていなかったのにね」

 とおっしゃっていたのが、印象的でした。

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 上田先生とはじめてお逢いしたのは、今から13年ほど前のことです。当時、東大を卒業し、大阪大学大学院に進学した僕は、学部時代の指導教員だった佐伯先生から、

「大阪に行ったら、上田信行先生という、非常に面白い先生がいるから、ぜひ逢ってお話を伺うように」

 と言われておりました。

 はじめてお逢いしたのは、当時、上田先生がお勤めになっていた甲南女子大学です。上田先生は、今と全く変わる様子なく、ワークショップ型の授業をなさっていました。
 上田先生と僕は、実は、父親と息子くらい年が離れているのですが、全くそんなことを感じさせない方でした。自らエナジェティックであり、まわりをエナジャイズしておられました。

 それから10数年・・・上田先生は、10数年前も、そして今も、常に、「時代」をつくってきたラーニングアーティストでした。

 楽しく学ぶということではない
 楽しいことの中に、学びはあふれている。

 上田先生の、このメッセージは、当時も今も、常に一貫していたように思います。
 上田先生は、僕が最も影響を受けた研究者の一人です。そして、社会に影響を与えた、いいえ、これからも社会をエナジャズしつづける教育工学研究者の一人ではないでしょうか。

 ぜひ、ご一読いただければと思います。
 おすすめです。