講演依頼は難しい!?
僕は、他人に講演依頼をすることはたくさんあります。今年は、東京大学が学会のホスト校ですし、Learning barやワークプレイスラーニングなども企画・運営していますから、おそらく、1年間で20名以上の方に、講演依頼を行っていると思います。
もちろん、自分が講演依頼を受けることもあります。メールや電話で、お問い合わせが寄せられます。
というわけで、今日の話は、この「講演依頼」についてです。僕がいつも思うのは、「講演依頼ほど、真面目にやろうとすると難しいものはない」ということです。
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こういうと、
「そんなの"お願いします"というだけじゃないか、簡単じゃないか」
と訝しがる方がいるかもしれません。
確かにそれなら「簡単」です。「頭を下げれば終わる話」なのかもしれません。
しかし、中には、そういう「お願いの仕方」では、なかなか引き受けてくれない方もいらっしゃいます。「なぜ、自分なのか?」ということにこだわられる方が、一定数以上はおられると思います。特に忙しい方は、その傾向がありますね。
また、たとえ引き受けていただけたとしても、その方に、会の趣旨、会に来ている方の属性が伝わらず、適切な話ができなくなってしまう可能性もあります。
こう考えてみますと、おそらく僕が重視したいのは、単に「講演を依頼すること」ではないのですね。
むしろ、
「講演が、参加者にとって、学び・気づきの場になるか、ならないかが重要で、そのための講演依頼というものはいかにあるべきか」
ということなのだと思います。つまり、「オーディエンス志向」です。
単に、講演を依頼するだけなら、「お願いすればよい」のかもしれませんが、「オーディエンス志向の場(講演)を構成すること」を考えるのであれば、講演依頼というのは、結構、難しいものです。いつも頭を悩ませてしまいます。
そのためには、最低限、講演を依頼する人が(僕)が、こう考える必要があります。
「この人に話をしてもらうことで、依頼するわたし自身は、どのような問いかけを参加者に投げかけたいのか?」
「この人に登壇してもらうことで、依頼するわたし自身は、この場を、どのような場として構成したいと願っているのか?」
そのためには、依頼する側にも、講演内容に関してある程度の知識が必要ですね。そして、何より、依頼者側に「思い」のようなものが必要であるように思います。
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不肖中原も、講演依頼のオファーをいただくことがありますが、その時に、一番、面食らう言葉というものがあります。
それは、
「先生の好きなことをバーンと言っちゃってください」
「先生の思うところを聴衆に投げかけてください」
とお願いされてしまうことです(笑)。ニュアンスは異なりますが、思いの他、このような依頼は多いものです。
面くらう理由は、いくつかあります。
ひとつは、「学習を"伝達"と捉える考え方」を脱構築したい(それって違うんじゃねーのともの申したい)と願う僕にとって、それをやってしまうことは、「自分のあり方」「自分の研究の信念」を否定することになります。
でも、最大の理由は、それではありません。
最大の理由は、「このままお引き受けしても、オーディエンス志向の場にはならないだろうな」と思ってしまうことです。
依頼する側になると忘れがちなのですが、たいていの場合、登壇する側は、オーディエンスの属性や会の趣旨を知りません。
彼らは、何人いるのか?
何歳くらいなのか?
役職は?
男女比は?
既有知識はどのくらいあるのか?
何に興味・関心をもっているか?
なぜここに来ているのか?
何をしたいと思っている人が多いのか?
こうしたオーディエンスの情報を知っているのは、多くの場合「講演を依頼する側」だけなのです。また、会がなぜ開催されているか、その歴史や趣旨をしっているのは、やはり依頼者です。
つまり、講演者と依頼者のあいだには、「情報の非対称性」が存在するということです。講演内容に関しては、講演者がよく知っているかもしれません。しかし、反対に依頼者はその会に来ている人、会の雰囲気や目的や成り立ちを、よく知っているのです。
ですから、「オーディエンス志向の場=よい気づきの場をつくる」には、講演をする側はもちろんのこと、講演依頼をする方も含めて、「共同で講演を創造する」、というスタンドポイントにたつことが重要なのではないかと思います。
メタフォリカルにいいますと、こういうことですね。
講演は、"依頼されるもの"ではない
講演は、"依頼者と共につくりあげるもの"である
もちろん、上記は僕の「信念」です。ですので、他人にあてはまるかどうかは、僕は知りません。
でも、「学びの場」を研究する僕にとっては、そういうこと(ディテール!?僕にとっては、それこそがキモ)が、とても気になることです。
特に、僕が依頼する講演ですから、その内容は「学びに少しは関係するもの」であるわけですよね。ですので、余計に気になるのかもしれませんね。