カーナビと運転手さん
昨日タクシーに乗車した際、運転手さんがこんなことをおっしゃっていました。目的地までの20分間、いろいろと根ほり葉ほりヒアリングさせていただきました(笑)。
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「GPS(カーナビ)がタクシーにつくようになってから運転手はじめた人は、本当に大変だと思いますよ。どこに客がいるかわからないし、道もよく覚えていないでしょうから。GPSで、運転手はアホになっちゃうんですよ。
GPSが導入されて、本部と他の運転手のタクシーとの交信を全員が聞くことはなくなりました。
でも、この交信が運転手にとっては、いい勉強になったもんなんです。無線を聞いていると、この時間には、どこに客がいるのか、段々とわかってきますから。客がいる場所がわかってくれば、そこにいけばいいわけです。
あと、GPSは細かい裏道を教えてくれないですよね。だから、今の運転手さんは、大きな道路ばかりをとおってしまうんです。たまにお客さんから指摘されますが、まぁ、ほとんどの人はいいませんね、何も。
昔は、そんなものがなかったから、自分で試行錯誤して、必死に道を探しました。えっ、ここ通れるのか、というような裏道を必死に探した物です。
今は本部の配車も、GPSを見てやりますから。お客さんから一番近い人をモニタでみて、「はい、おまえ、そこいけよ」と言われるわけです。
昔は違いました。売り上げをあげるためには、多少、自分から遠くても、無線にでて、お客さんをとりにいったんです。「おれ、行きます」と自分で名乗り出たんです。で、必死で「裏道」をかけめぐって、お客さんのところに行きました。お客さん待たせるわけにはいかないんで、「裏道」は必須だったんですよ。
そんなことをやっていれば、GPSがなければ、だいたい5年くらいで東京の道はある程度わかると思います。でも、GPSがあったら、どうかな・・・わかるようになるのかな」
一言一句同じではないですが、運転手さんがおっしゃっていたのは、こんな類のことです。今年で60歳になる、運転手歴30年のベテランさんでした。
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人間の認知や行動は、常に、テクノロジーとともにあります。
新たなテクノロジーの導入は、今までの仕事のあり方、ひいては学習のあり方を根本的に変えてしまう可能性をもっています。活動理論家のエングストロームならば、組織や組織間の関係も変わるというかもしれません。
しかし、常に「ベター」と思われる方向に、「仕事のあり方」「学習のあり方」が変わるわけではありません。本当は知っていなければならないこと、出来なければならないことも、時に失われてしまう可能性があります。
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しかし、面白いですね
いろいろな方から、仕事の話を聞くのが、僕は好きです。
そこには、必ず、当のご本人は気づいていない「学び」が隠れています。