Learning barが終わった!:みんなで「やる気」を科学する

 本日、4月のLearning bar「みんなでやる気を科学する」が開催されました。

lb01.jpg

 本日のLearning barは、

  ■やる気の「常識」を問う

   株式会社JTBモチベーションズ
   代表取締役社長 大塚雅樹さん

  ■ミドルの「やる気」を科学する

   株式会社リクルートマネジメント
   ソリューションズ
   石井宏司さん
 
  ■ワークモティベーションの測定
   近畿大学 経営学部
   山下 京先生(社会心理学)
   
   国際経済労働研究所
   八木隆一郎さん(社会心理学)

  ■社会的構築物としての「やる気」
   産業能率大学 情報マネジメント学部
   長岡 健先生(組織社会学)

 という豪華講師陣で、企業・組織における「やる気」の問題を論じていただきました。

 ▼

 おかげさまで、本日のLearning barも満員御礼!!

 なんと、、、今回は、Learning bar最多の477名の方々からご応募をいただきました。ありがとうございます。

 抽選の結果、企業人材育成担当者、官庁の方、大学研究者、大学院生などから約250名程度の方々の参加者を得ることができました。
 皆様、仕事を終えた!?5時から9時まで、みっちりと濃密な4時間、本当にお疲れ様でした。

 最近、Learning barは満員御礼が続いており、参加登録いただいても、すべての方々の御希望にはお応えできないケースも生じてきています。
 限られたスペースと人的リソースの中で運営し、かつ、参加者のバックグラウンドの多様性を確保する必要がある関係上、すべての方々のご要望にはお答えできない可能性があることを、なにとぞご理解下さい。

 ▼

 冒頭は、中原から趣旨説明です。

lb02.jpg

 何度かLearning barにご参加いただいた方には、既におなじみ(水戸黄門の印籠状態!?)になっていますが、懲りずに、また説明します。

 Learning barは、

 1.聞く
 2.聞く
 3.聞く
 4.帰る

 という場ではなく、

 1.聞く
 2.考える
 3.対話する
 4.気づく

 ような場であるということをご説明いたしました。
 Learning barは「答えを提供する場」ではなく、「良質の問いかけを通して、参加者の皆さん自身が考える場」です。講師の先生方には、そのことをお願いしてあります。講演の最後には、仮説や問いかけをしていただいているのです。

 その上で、モティベーションの問題に関しては、アカデミックでフォーマルなセオリーに対置して、いわゆる「素朴モティベーション論」というものが人口に膾炙していること。その特徴は、下記のようなものであることを説明いたしました。

①モティベーションの高低は生得的に獲得され、なかなか変化しない人間の資質である

②モティベーションは短期間の介入で向上させられる

③モティベーションを向上する科学的に確立された手法がある

④すべての問題は「モティベーション」で解決可能である

 モティベーションは、上記のように人々に語られていますが、こうした「典型的な語り方」を超える必要があること。

 いわゆる

「思索なきモティベーション落ち!」
「思索なきモティベーションロマンス!」

 に陥らないように、慎重な内省を深めることが重要であることを述べました。

 ▼

 大塚さんからは、「やる気の常識を考える」というテーマに基づく、ご講演をいただきました。

otsuka.jpg

 JTBモティベーションズの調査データによれば、一般に流布するような下記の常識、すなわち、

1.ハイパフォーマーはモティベーションも完璧である
2.プライベートで仕事をするのはKYである
3.不景気環境下において組織は「意欲統一」して目標達成することが重要である

 ということは、間違いである可能性が高い、というお話でした。

1.ハイパフォーマーだって悩むことはある
2.プライベートと仕事は対立しない
3.組織のモティベーションは足並みを決してそろえる必要はない

 とのことです。

 非常に興味深かったのは、

「モティベーションの高い人は、自分の仕事を、聴き手に応じて多彩なボキャブラリーで語ることができる」

 という指摘でした。社内にいるだけでなく、社外に飛び出し、様々な人々と出会い、話すことことできる人は、モティベーションが高いというのは、昨今の研究知見にも近いところはありますし、個人的に面白いな、と思いました。

  ▼

 リクルートMSの石井さんには「ミドルのやる気を科学する」というテーマでご後援をいただきました。

lb04.jpg

 リクルートマネジメントソリューションズが2007年9月に実施した1000名規模のミドル調査をもとに、

 1.ミドルはやる気があるのか
 2.ミドルのやる気とは何か?
 3.ミドルでやる気がある人、ない人の差は何か
 4.ミドルのやる気はあげられるのか

 についてご講演いただきました。

lb05.jpg

 個人的には、

1.ミドルの動機は、着任後3年をめどに低下する
2.ミドルのやる気を維持するためには彼らに成長経験を積ませることが重要である
3.ミドルの成長経験とは、1)組織の目標を達成することであり、2)部下の成長を促すことである、

 というご指摘が興味深かったです。仮に、ミドルのやる気が、部下のやる気と相関するものであれば、何とかして、「やる気のカスケード」をつくることはできないものか、と思いました。

 ▼

 山下先生のご発表は、冒頭、

 1)ワークモティベーションの測定の難しさ
 2)内発的動機付けの理論、外発的動機付けの理論

 からはじまりました。

lb06.jpg

 その上で、ワークモティベーションと企業業績の関係を調べる研究についてご発表をいただきました。

 山下先生のご研究によりますと、

・30歳従業員の年収格差を100万円つけると、外発的動機付けが8.9ポイント上昇する

・内発的動機付けをあげ、外発的動機付けを下げる要因は、賃金の年功制、組合関与の高さ、長期借入金の比率、内部留保率、新卒採用重視である

 といったことが明らかになったそうです。その上で、日本型の経営、すなわち、短期利益によらず、ヒトを重視する経営が内発的動機付けの確保には重要であることをご指摘なさっていました。

 ▼

 最後に長岡先生のご発表。

lb07.jpg

 長岡先生は、組織社会学の立場から、

・「やる気があるかないか」という意味づけ(ラベル)は、上司(会社)- 部下間の政治的交渉(駆け引き)によって決まる

・本人はやる気があるが、会社の上司の意図にあわない場合は、「やる気がない」とされる

・ゆえに、やる気があるないを論じるときには、上司の判断、会社の判断が妥当なのか? もしかして、本当は大切にしたいものを「やる気がない」と判断してはいないか?

 ということを主張なさっていました。

 やる気を個人の資質、個人の中にある構成物として見なす立場に、いつものように鋭く切り込んでおられました。

(感想の中に、長岡先生の鋭い切り口の熱心なファンの方が何名もいらっしゃいました!)

 ▼

 その後は、Learning bar恒例のディスカッションタイムです。

lb11.jpg

lb12.jpg

lb13.jpg

 今日も、非常に熱いディスカッションがかわされていました。本当に、福武ホールの温度が上昇しました。何人かの方が、スーツを脱いでおられました。びっくりですね。

lb10.jpg

lb15.jpg

lb16.jpg

 最後は、質疑応答を終え、中原によるラップアップ。
 ラップアップの最後では、いつものように、先ほどの4つに加えて5つめをお願いします。

 ①聞く
 ②考える
 ③対話する
 ④気づく
 ⑤Bar外で語る

 何人の方が、このLearning barの出来事、ここで得た気づきを、ここにいない他者に語っていただけるでしょうか。他者に語ることで、人はリフレクションをします。Barの外で他者に語ること、あるいは、他者に向けて書くこと、自分の頭でもう一度リフレクションすることが、何よりも重要なことだと、僕は思います。

lb17.jpg

 講師の方へのわれんばかりの拍手の中、無事終了です。

 ▼

 今回のLearning barで、ある一人のご参加者の方から、中原に投げかけられた問いが、新鮮でした。

「中原さんは、なぜ、Learning barをやるんですか? そのモティベーションは何ですか?」

  ・
  ・
  ・
  ・

 うーん、、、、、、、なんでだろ?
 なんで、やってんだ?
 一瞬わかんなくなってしまいました(笑)。
 (こういうのを良質の問いかけというのですね)

 少し考えてみれば、そこにはいろいろな理由、動機がありますよね。

 ひとつは、やはり「自分の研究」のためですね。
 僕の研究は、企業の方との共同研究、あるいは協力無しでは、絶対に達成できません。ヒアリングを行うことひとつにしても、事例を教えていただくことにしても、また調査や共同研究や共同開発するにしても、すべては、企業の方とのコラボレーションなのです。
 ですので、素直に、ここにいらっしゃる方の中で、そういう可能性と志をお持ちの方と、僕は一緒に仕事がしたい、と思います。そして、僕自身の研究をご理解いただきたい、と思います。

 あとは、最先端の講演を通して、僕自身、自分自身が勉強したい、というものがあります。
 Learning barは、僕自身にとっても、学びの場なのです。講演にお呼びする方は、自分自身が、この先生のお話を聞いてみたい、と思う方しかお呼びすることはありません。企画するのにもお勉強をします。
 たとえば、今回、モティベーションをやるにあたり、最新の動機論、論文は、専門家からご紹介いただいて、読み込みました。結局、これを機会に、僕自身が知識をアップデートしているのですね。
 Learning barは、僕自身が最も学んでいる場であり、僕自身が参加者の中で最も愉しんでいる場なのです、、、おそらく。

 もうひとつは、こういってしまうと「ウソこけ、何すかしとんのじゃ、われ!」と言われるかもしれませんが(笑)、いや、本当にですね、僕は「人と人が語りあいながら、何かに気づいたり、学んだりする光景を見ること」や、そうした場をつくることが、好きなんだと思います。
 本当に、いや、本当に。
 「協調学習」「対話による学習」は、学部時代以来の研究のメインテーマです。そういう学びのありかたが、ぼくは、好きなんだと思います。

 確かに、Learning barの企画は、シンドイこともあります。
 ですが、参加者の方々が悩んだ顔をしていらっしゃったり、議論に白熱しているような様子を見ると、「こういう光景が見たかったんだ、これだ、これ!」という風に思います。そういう光景にLearning barで出会ったとき、僕は、やりがいや働きがいを感じてしまうのですね・・・。

 といった感じです。
 良質の問いかけをありがとうございました。

  ▼

 最後になりますが、大塚さん、石井さん、山下先生、八木さん、長岡先生、本当にありがとうございました。

 Learning barの開催をいつも支援してくださっている大学院生諸氏に心より感謝いたします。事務局の坂本君もありがとう。

 そして、議論にご参加いただいたすべての方へ。
 感謝を込めて。

 本当にありがとうございました。

 次回のLearning barは、6月12日を予定しています!
 テーマは「リーダーシップ開発」です!。
 リーダ論でもなく、リーダーシップ論でもない、リーダーシップ開発論!
 リーダーシップ開発に取り組んでいる企業の方、また、経営学の若き俊英も登場する予定です。
 
 ぜひ、お楽しみに!
 
Learning barへのご参加は下記メルマガからどうぞ!
http://www.nakahara-lab.net/learningbar.html

---

"学習・成長する個人"から"変化する組織"へ
ダイアローグ・チェンジ・・・

中原淳・長岡健著「ダイアローグ 対話する組織」発売中!
職場単位でご購読いただいているようです!

様々なブログに、読後の感想が掲載されています! ありがとうございます!