キャロル=ドゥエック著「やればできるの研究」を読んだ!

 スタンフォード大学心理学部教授キャロル=ドゥエックの書いた一般向けの著書である「やればできる!の研究(原著はMindset)」を読んだ。

 ドゥエック博士といえば、教育心理学の教科書には必ず出てくる「固定的知能観」「拡張的知能観」の研究で、とても著名な研究者である。2000年には、その研究成果をまとめて「Self-theories」という著書を書いている。

 ドゥエック博士の主張を端的にまとめるとこうだ。

・自分の能力は固定的で、もう変わらないと「信じている人」- 固定的知能観をもっている人は、努力を無駄とみなし、自分が他人からどう評価されるかを気にして、新しいことを学ぶことから逃げてしまう

 対して

・自分の能力は拡張的で変わりうると「信じている人」 - 拡張的知能観をもっている人は、人間の能力は努力次第で伸ばすことができると感じ、たとえ難しい課題であっても、学ぶことに挑戦する

 つまり、「自分の能力や知能に対する信念」=「知能観(マインドセット)」こそが、後続する学習のあり方、その後の人生のあり方を決めてしまうのだ、という説である。
 本書の中では、拡張的知能観を「Growth-mindset」、固定的知能観を「fixed-mindset」とよんでいる。

 本書では、マインドセットを変化させるにはどうするか? マインドセットを変化させるワークショップなどについても紹介してある。
 また、「褒めて伸ばすという近年の子育てのあり方」に対しても警鐘をならすなど、一般の方が興味をひきやすい話題についても、述べられている。
 専門家から見ると、やや話がシンプルすぎるところ、そこまでいえるのか、と思わないところがないわけではないけれど、それはそれ、これはこれ、である。

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 ちなみに、僕が企業の研究に着手しはじめた5年くらい前、取材と称して、現場のマネジャーの方とお逢いしたり、お話しする機会をたくさん得た。

 当時会社のことは何一つしらない僕が、真っ先に思ったのは、「どうもマネジャーというポジションには2種類の人がいるらしい」ということである(実は、大学教員にも2種類の人種がいるが、そのことはまた別のところで)。

 つまり、

「マネジャーは"あがり"であり、これ以上、自分の能力は伸びないと思っている人」

 と

「マネジャーは"プロセス"であり、まだ自分の能力は伸びると思っている人」

 である。

 彼らが何気なく発する言葉の端はしから、僕は、それを感じた。直接関係あるわけではないのだけれども、僕は、ドウェックの研究を頭に思い浮かべていた。

 著名な社会学者であるベンジャミン=ハーバーはこう述べたという。

 私は人間を弱者と強者、成功者と失敗者とにはわけない。
 学ぼうとする人としない人にわける。

 ドウェックは巻頭でいう。

 わたしの研究テーマは、人間の信念の力を証明するという、心理学の伝統的テーマのひとつであり。人間の信念は、本人が意識しているといないとにかかわらず、その人が、どんなことを望か、そして、その望みがかなうかどうかに大きく影響する。

 そういうことなのかもしれない、と思う。

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追伸.
 最近、下記の本も読んだ。学校組織について、様々な立場からなされる教育心理学的研究、社会心理学的研究が概観できてとても勉強になった。