できるだけいいものを、今残す : ウィスキーブレンダー輿水精一さん

 先日に続き、またまたNHK番組「プロフェッショナル」の話題です。全く「暇人」なわけではないのですが、先日、何本もまとめてビデオレンタルしたのですね。で、話題がつづくわけよ。

 今日は、ウィスキーブレンダーの輿水精一さんの回を見ました。その感想を。

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 輿水(こしみず)さんは、サントリー山崎蒸留所のチーフブレンダーを勤める方です。サントリーの主力銘柄である「山崎」「響」などは、彼のブレンドによるものです。海外でもたくさんの賞を受賞なさっています。とても有名な方ですね。

 何百種類もの原酒を「樽」に仕込み、10年、20年、30年と長い時間寝かせる。発売されているウィスキーは、そうした原酒を何十種類もブレンドして、つくられています。

 要するに、ウィスキーとは、多種多様な「原酒」が「響きあう」ようにヴァッティングされたお酒なのです。

 輿水さんの言葉の中で、印象的だったのは、下記の言葉です。

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 今つくっている商品というのは
 10年前に原酒を仕込んでくれた人
 20年前につくってくれた人
 そういう人たちの積み重ねの上ですよね

 私自身は、将来10年先、20年先
 もっと先を含めて

 その時代の商品でできるだけ
 いいものができるために
 できるだけいいものを、今残す

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 輿水さんが、今、仕込んでいる「原酒」が、ブレンドされ、「ウィスキー」として発売されるのは、今から数十年後。その姿を、彼は自分の目で見ることはできません。当然のことながら、そのとき、彼は既に現役を退いています。

 自分の仕込んだ原酒が、どういう酒になり、世の中に何をもたらすかはわからない。でも、「その時代の商品ができるだけよいものとなるため」に、輿水さんは仕事をします。

 未来のために「今、できるだけいいものを残す」と。

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 人間の「育ち」や「成長」を「お酒」に喩えるのは不謹慎というお叱りをうけるのかもしれません。

 でも、僕は、この言葉に、どうしても、自分の専門である「教育」を重ね合わせてしまうのです(何でも、教育とか学習の話に引きつけて考えてしまうのは、ビョーキかもしれません)。

 彼/彼女は、自分が引退したあとに世にでるものかもしれない。活躍する姿を自分は見ることができないかもしれない。そして、当の本人は、かつて面倒を見た自分のことや、遠い昔の記憶など、既に忘却の彼方にあるかしれない。

 でも、「それにもかかわらず」、自分が見ることができない「将来」「未来」のために、「今、できるだけよいものを残したい」。

 そういう考え方に、教育に携わり、教育に関係するものとして、僕個人は、共感してしまいます。

 そして、さらに思うのです。
 短期的な教育的介入の結果、どんな金銭的メリットが得られるのか、というセコイ話 - 投資対効果 - の話を聞くたびに、こう思ってしまうのです。

 樽に入れて数週間しかたっていない、原酒にすらなってないものを、あなたは、値段をつけろというのですか。よもや、それをバーで、味わおうとはしないですよね?

 その原酒は、他の原酒にもまだ出会っていません。響きあう関係も見つけてもらっていません。そもそもブレンダーにも出会っていません。

 それで、真価を測るのですか?

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 夜になりました。
 今日も、僕は、シングルモルトを味わっています。

 このウィスキーが仕込まれたのは18年前。その頃、僕は、まだ15歳。

 黄金色に輝くウィスキーには、遠い記憶が透けてみえます。