ストレッチと即時フィードバックの困難さ
働く大人は、皆、日々、仕事の現場で学んでいる。そして、この「現場での学び」に強い影響を与えるのが、「上司」や「マネジャー」による「ストレッチ」と「即時フィードバック」であると言われている。
ストレッチとは、一言でいえば、「今現在の部下の能力を少しだけ超えた課題を与えること」。即時フィードバックとは、「課題の達成時に与えるコメントやアドバイス」のことである。
要するに、上司は、部下の能力を見極め、適切な課題を与え、その課題遂行をモニタリングしつつ、適切な支援をしなければならない、ということである。
かつて、ロシアの心理学者ヴィゴツキーは、「個人が独力でできること」と「他人の助けを借りてできること」の差のことを、最近接発達距離(Zone of proximal Development:ZPD)と呼んだ。
発達とは、「一人でできること」と「他者の助けを借りればできること」の間にある。他者の助けを借りながら、この差を埋めることこそが、「成長」に他ならない。
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しかし、アンタね。ストレッチと即時フィードバックとか、簡単に言っちゃうけどね。これらを「適切」に行うことがどんなに困難か、どんだけ想像を絶する苦労があるか、「生身の人間」をマジメに指導したことのある人ならわかっていただけると思う。
その困難は、下記のような理由から生じる。
【能力の不可視性】
1.他人の能力は「見えない」ので、そもそも「把握」が非常に困難である
2.人は自分の能力を高く見積もる傾向がある。仮に上司が部下の能力を正確に「把握」できたとしても、部下がそれを正当なものと受け入れない傾向がある。
【ストレッチ課題を与えることの難しさ】
3.どの程度の課題を与えると、ストレッチになるかわからない
4.どの程度の課題を与えると、部下が満足して仕事に取り組むかがわからない
5.課題は常に適当なものがあるとは限らない。偶然適当な課題が生じたときはよいが、それ以外のときは適切な課題を与えられない場合がある。
【フィードバックの難しさ】
6.いつフィードバックを与えてよいかわからない
7.フィードバックでどこまで言ってよいものかわからない
8.ストレッチ課題といえども、仕事には〆切がある。船長は血が出るまで唇を噛む、というが、どこまで待つべきかわからない
【上司の要因】
9.ストレッチやフィードバックを与える時間や心理的余裕が、上司にない
10.それなのに部下は「わたしに気をかけて欲しい」というメッセージを上司に送り続けており、上記の事柄すべてを「上司なんだからそれくらいやって当然」と心の奥底で思っている。
あー、書いてて涙がでてきた(笑)。上司といってもいろいろな人がいますので、一概には言えませんが、マジメにやろうと思うと、ざっと書いただけで、こんなに困難がありますね。
というわけで、実際には「ストレッチやフィードバックを与えることが重要であること」は、誰もがわかっていつつも、それは「永遠の課題」でありつづける、ということです。でも、やらなくてはならない。
このあたりの細かい支援のあり方まで、教育学がアプローチできるとオモシロイし、有益なのにな、と思いますけれども。