おもてなしの心をどう伝えるか:ホテルの人材育成
1) 組織の中でノウハウや知恵は、どのように共有されているのか?
2) 1)のプロセスの中で、「その組織らしさ」はどのようにつくられているのか?
この2点を明らかにするために、引き続き、ダイヤモンド社の前澤さん、石田さんにご支援をいただきながら、ヒアリング調査を行っている。今、必死こいて書いている本の「取材」である。
今日は、日本の超有名老舗ホテルに訪問させていただいた。非常にありがたいことである。
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ヒアリング前、僕は、ホテルの人材育成の多くは、マニュアルに基づいてなされているのだろう、と思っていた。
しかし、事実は、ほぼ「逆」に近い。
数年前までは、人材育成は、レストランや宴会といった職場単位で実施されており、非常に属人的に暗黙知が蓄積され、それが長い時間をかけて共有されていた、のだという。
しかし、近年、正社員だけでなく様々な雇用形態の社員が雇用されるようになってきた。そうすると、長期雇用を前提とした暗黙知の伝達が、なかなか難しくなってくる。また、老舗が誇る「おもてなし」の意味や価値を共有するのが難しくなってくる。
本日ヒアリングさせていただいたホテルでは、数年前に、人材育成部を新しく立ち上げ、暗黙知の形式知化を進めていた。暗黙知による伝達を否定するのではなく、それを補う形で、形式知による共有をはかろうとしているのだという。
また、「おもてなし」とは何か、「心地よさ」とは何か、といったことをそれぞれの経験を持ち寄ってダイアログする機会を、なるべく設けるよう、様々なツールを整備したり、研修を実施したりしているのだという。その試みの詳細は、まだ書けないけれど、非常に興味深いものであった。
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2007年は、「東京ホテル戦争」勃発の年と言われている。様々な外資ホテルが日本進出をはたし、競争を激化させている。
本日、ヒアリングさせていただいた人材育成部長の方のお話によると、外資ホテルの人材育成は「ツールが豊富なこと」「従業員をその気にさせる技術」に長けているのだという。
例えば、アセスメントツールの充実は目を見張るものがある。また、ギデオン=クンダではないけれど、「組織文化」をエンジニアリングする仕組みが、非常に巧妙にしかけられていることも、その特徴、とのことであった。
それに対して、日本のホテルは、「不器用かもしれないが、策は労さない」。そして、社員に「温かい」のだという。
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今日訪れたホテルは、僕もよく打ち合わせなどに利用する。そのホスピタリティには、感動を覚えることもある。
先日は、ラウンジで仕事をしている際、コンピュータの電源が切れそうになって困っていたら、わざわざテーブルタップを持ってきてくれて、充電させてくれた。仕事柄、取材や打ち合わせなどでホテルを利用することは多い。しかし、こんなことをさせてくれるホテルは、なかなかない。
日本のホテルが誇る「おもてなしの心」をぜひ世代継承していってほしい、と心の底から思った。