それは英語力の問題だけじゃない!
大学院授業「組織学習システム論」は、第一クォーター「経験と学習」を終了しました。
1.経験は学習にとって、重要なリソースである。
2.経験したままでは、人は、自分にとって重要な「何か」をつかむことはできない。
3.経験とともに、自己を振り返り、自分なりの教訓やストーリーをつかみとることが重要である
4.そのためには、常に自分の鏡となってくれる他者のネットワーク - 「発達支援ネットワーク(Developmental network)」を、自分のまわりに多層的につくることが重要である
第一クォーターのポイントを話せば、上記4点にまとめることができるかな、と思います。
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ところで、この授業をしていて、いつも心の中で考えていたのは自分のことです。大学院生が「経験学習」のプレゼンテーションをするたびに、僕にとっての「経験学習」とは何であったか、を考えていました。
僕は、まだ自分の仕事で、つまりは研究で何かを成し遂げた気がしていません。それは今まさにOngoingであり、まさにその渦中にいるといった感じです。ですので、大変情けない限りなのですが、今の僕は「一皮むける」という言葉からは、ちょっとほど遠い状況にあります。
そんな心許ない状況ではありますが、自分が仕事をしていくにあたり強烈に影響を与えた経験がないわけではありません。いくつかありますが、2004年のボストンへの留学は、そのひとつかもしれません。
ボストンへの留学。それは2004年1月から10月の9ヶ月間でした。とはいえ、こちらも誠に情けないことに、留学中に、僕は、何かを成し遂げられたけではありません(泣)。もちろん、ハナクソほじって寝ていたわけではないですが、9ヶ月間という時間は、何かを達成するには、僕にとっては、あまりに短い時間でした。
でも、重要な経験がなかったわけではないのです。留学という機会は、「自分とは何か」について考えさせてくれる、本当によい機会になりました。
留学中は、様々な人に会いました。一攫千金を夢見て南米からでてきた人、いまだ見ぬ「材料」の開発に昼夜をとわず取り組んでいる研究者、子ども相手の英語での診察に苦労していた小児科医。
彼らとの会話は、僕にとって楽しいものでしたが、同時に困難をともなうものでした。彼らは僕と背景知識をほとんど共有していません。また、僕のことや、これまで僕が行ってきたことを彼らは何一つ知りません。
そんな彼らとカフェテリアやレストランで出会い、お互いが何者かを理解し合うためには、「自分がこれまでやってきたこと」を短い時間で伝えなくてはなりません。それも、限られた英語力で。
留学当初、僕は、本当に四苦八苦していました。自分のことを語ると口ごもったり、同じことを繰り返したり。おそらくこの時期に僕にあった人は、「こいつは何にも考えてないやつなんだなぁ」と思ったことと思います。僕は、最初、心の底から、自分の英会話能力のなさを呪いました。
しかし、しばらくすると、だんだんわかってきたことがありました。確かに、自分の英語力はないことは事実なのです。それは動かしがたい事実なのですが、僕は、そもそも日本語でも、自分のやってきたことを、誰にでもわかる言葉で、短い時間で伝えることはできていない、のではないかということです。
というか、そういう機会を僕はあまり持たなかったのですね。なぜなら、日本で出会う人々は、その多くが研究仲間であったり、僕のことを既に知っている人であったので、敢えて「自己説明」を行う必要がなかったのです。
ところが、いったん世界にでれば、そうはいかない。「自分が何者であるか」「自分が何を成し遂げてきたのか」「自分はこれから何をするのか」を、誰にでもわかる短い言葉で、説明しなくてはならないのです。
そして、そもそも日本語ですらできないことを、英語でできるわけがないのですね。
そこで僕は2つ学びました。
ひとつめ、それは「自分の研究を説明することの重要性」。ふたつめ、「誰にでも説明できるような社会的意義のある研究をしなければならない」ということです。
この経験が、僕の今の仕事にとって、重要な影響を与えていることは間違いないようです。
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今日はちょっと話が長くなりました。ですが、他者に語ることが、結局、自分を考えることになるという事例になるかな、と思って敢えて書きました。
もしよろしければ、ぜひ皆さんもトライしてみてください。
1.あなたのことや、あなたが所属する組織のことすら全く知らない人をつかまえてください。
2.あなたの仕事、あなたが成し遂げてきたことを、1分くらいで説明してみてください。
3.相手がどのような理解をしたのか、確かめてみてください。
単なる思考実験、短いエクササイズではありますが、結構、気づくことは多いのかな、と思いますが、どうでしょうか。自分の会社・組織にどっぷりつかると、自分のことが時にわからなくなるものです。また、敢えて人は自分を考えません。自分にとってのアタリマエを問うエクササイズとして、トライしてみてはいかがでしょうか。