ホープレスなアメリカ:堤未果著「ルポ貧困大国アメリカ」を読んだ!

 お金持ちは、さらに豊かに。
 フツーの人は、知らないうちに貧しく。
 貧しい人は、どん底に。

 ---

 堤未果氏による「ルポ貧困大国アメリカ」(岩波新書)を読んだ。

「医療」や「教育」など、これまで政府が担うべきと思われてきた公共機能を極力縮小し、その多くを「民営化」してきたアメリカ。

 アカデミクスからは、この政策のもつ裏の側面 - 「社会階層の二極化の拡大」 - がかねてより指摘されていたが、その勢いはグローバリゼーションの進展とともに、加速することはあっても減速はしなかった。

 本書は、煌びやかな一部の富裕層の生活の背後で、貧困のデフレスパイラルに入り込んでしまった人々の暮らしを丹念にルポしている。
 富裕層が使うクレジットカードの宣伝のコピーは「プライスレス」。反面、貧困から抜け出せない彼らの生活は「ホープレス」そのものである。

 ---

 教育に関しては非常に印象的だったのは、ブッシュ政権が2001年から実施してきた「No child Left behind(落ちこぼれゼロ政策)」の裏の意味について。

「No child left behind」は、一般に

1.全国一斉学力テストの義務化
2.学力テストの結果によって、よい成績をだした学校には助成金を支給。悪い成績をだした学校には、ペナルティを課す。
3.再三にわたって改善が見られない場合には、教師の異動、降格、学校は廃校などを検討する

 といったような政策として理解されているけれども、実はそこには「裏の意味」があるのだという。

「落ちこぼれゼロ法は、表向きは教育改革ですが、内容を読むとさりげなく、こんな一項があるんです。全米のすべての高校は生徒の個人情報を軍のリクルーターに提出すること、もし拒否したら助成金をカットする」
(同書より引用)

 もちろん裕福な学校はリストなど出さない。貧困地域の学校は、助成金ほしさに個人情報を軍に提供せざるを得ない。かくして、貧しい子どもたちが、リクルータのあの手この手の勧誘によって、軍に「自ら望んで」行くのだという。
 軍がつくったシリアスゲーム「アメリカズ・アーミー」で遊んでいるうちに、軍に親近感を覚えた子どもたちが。

 本書p177の言葉が印象的だった。

「もはや徴兵制度は必要ないのです。政府は格差を拡大する政策を次々に打ち出すだけでいいのです。経済的に追い詰められた国民は、黙っていてもイデオロギーのためではなく、生活苦から戦争に行ってくれますから。ある者は兵士として、またある者は戦争請負会社の派遣社員として、巨大な利益を生み出す戦争ビジネスを支えてくれるのです。大企業は潤い、政府の中枢にいる人間たちをその資金力でバックアップする」

「教育」の名を借りて、蠢く黒いものの存在を、そしてその「意図」に、背筋が寒くなった。

 ---

 我が国では、このところ「医療」や「教育」などの市場化、民営化の議論がおこっている。
 やはりアタリマエのことであるけれど、国や地方公共団体が責任をもって国民に保証をしなければならないものは、何としても守らなくてはならない、と強く思った。

「役人のやることがひどいから民営化」
「もっと選択肢がたくさんあった方がいいから民営化」

 という、非常にわかりやすい短絡的なスローガンもいいけれど、守るべきは守らなくてはならない。

 この国は、アメリカの轍を踏んではならない。