学習者中心主義!?

 学部時代の指導教員だった佐伯先生からのご依頼で、辞書の項目のひとつを執筆している。僕が担当するのは、「学習者中心主義(Learner-Centered)」。

 しかし、これがなかなか苦労する。つーか、もう締め切りはとうに終わっているんだけど、まだ片付けることができないでいる。
 というのは、学習者中心主義とは、いろんな価値や考え方を含む考え方であり、学会として「定訳」がないからである(言い訳)。

 少なくとも僕が知っているLearner-Centeredには、3つくらいの意味があるように思う。

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 まずひとつめの意味は、Communications of ACMでの「学習者中心の教育特集」での定義。
 この定義において、Soloway & Pryor(1996)らは、コンピュータと人間の関係(human-computer interaction)を下記の3つに分類している。

1.技術中心主義(technology-centered)
2.ユーザ中心主義(user-centered)
3.学習者中心主義(learner-centered)

 彼らによると、これからのコンピュータと人間の関係に求められるのは、人間が技術の進展の恩恵を一方向的に享受する「技術中心主義」でもなければ、技術を使いこなすことを要求する「ユーザ中心主義」でもない。

 これからのコンピュータと人間のあり方は、「学習者が相互に学びあうことを媒介するあり方」に変わるべきだとしている。これが「学習者中心主義」ということになる。

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 もうひとつの定義は、いわゆる「子ども中心主義(Child-Centeredness)」にスカーダマリア&ベライターの「知識構築(Knowledge building)」をかけたような定義である。佐伯先生の「新・コンピュータと教育」に書いてあった定義も、ほぼこれに同じである。

 この定義においては、学習者中心主義は、「知識は人から与えられるのではなくて、学習者自らが作り上げるものなのだ」といったような教育価値として理解される。

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 最後の定義は、認知心理学風というのか、学習科学的というのか - この定義によれば学習者中心主義とは「学習者がすでにもっている知識や技能を十分把握しつつ、学習環境を組み立てなければならないよ」というデザイン原則として理解される(Bransford, Brown and Cocking 2000)。

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 うーん、悩ましい。

 辞書なんだから、素直に、こんな風にいろんな定義がありますよ、と書けばいいんだろうか。ともかく、今日には原稿をあげなくては。