成人教育学(アンドラゴジーの夢):マルカム=ノールズを読む
アメリカ、ボストンに、かつて、マルカム=ノールズ(Malcolm Knowles)という教育学者がいた。
教育学のメインストリームを歩いた研究者ではないので、知っている人は少ないかもしれない。
教育学の中には、「子ども」を対象とした理論体系が多い中で、彼は「大人の学び(adult education)」に注目し、それを体系化しようと試みた。
彼の整理した理論体系は、いわゆる「アンドラゴジー(Andragogy」とよばれている。子どもを中心にした教授理論が、「pedagogy(ペダゴジー)」と呼ばれるのに対応した言葉である。
アンドラゴジーの要旨は下記のとおりである。
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1.人間は成熟するにつれて、その自己概念が依存的なものから、自己決定的(self-directing)なものに変化する。
2.人間は成長にしたがって多くの経験をもつ。この経験こそが、学習のための貴重な資源となる。
3.成人の学習へのレディネスは、社会的な発達課題、社会的役割を遂行しようとするところから生じる。
4.成人への学習の方向付けは、問題解決中心、課題達成中心の学習内容編成がより望ましい。
5.成人の学習への動機付けは、自尊心、自己実現などがより重要になる。
(以上、「成人教育の現代的実践」p554より引用)
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これだけ聞くと、「はー、そうですか・・・そりゃ、そうかもしれませんね」という感じだけれども、ノールズはこれらを「成人教育者としての現場の経験」から抽出してみせた。
ノールズは教育学者である一方、成人教育の実践者であった。だから、彼の「現場への関心」は並々ならぬものがあった。彼の「現場への関心」は、常にディテールにとんでいる。
成人教育は、何曜日に行うのがよいのか?
部屋の照明はどの程度明るいものがいいのか?
成人同士の年齢差をどのように扱うか?
飲食物によるもてなしをどのように行うのがいいのか?
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「成人教育の現代的実践」「The adult learner : The Neglected Spicies」などの彼の著作を読むと、彼がいかにこうした類のディテールにこだわり、実践を進め、かつ理論体系をつくりあげようとしたかが、その執拗な記述から理解できると思う。
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ここ3週間ほど、僕は、故あって、ノールズの理論を読み返している。一番最初に読んだときには気づかなかったことが、今回はわかりかけてきた。
けだし、ノールズの理論体系は、「学習環境デザイン」「状況的学習」などの考え方のエッセンスを先取りしていたのではないか、と思うようになりはじめている。
僕が、来年一年かけて書こうと思っている本のアイデアの中には、ノールズに30年も前に、すでに提唱されているものもあった。残念!
しかし、今から30年も前に、現代に通用するような考えを提唱していたこと自体が、素直に驚きである。
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やはり、古典は重要である。
何が新しくて、何が新しくないのか。自分はどこからきて、どこへ向かおうとしているのか、を知るために、それを読むことは欠かせない。
さて、何をはじめようか。