岐阜に嫁ぐつもりでやってきました:鈴木哲夫著「政党が操る選挙報道」

「天竜川をわたって、退路を断ちました、骨を埋めます、戸籍も移しました」

「この岐阜に嫁ぐつもりでやってきました」

 これらは小泉首相の刺客候補が、数年前の選挙戦のさなか、連呼した台詞である。

 彼ら自身が、「自分の頭」でこの台詞を生み出したわけではない。。膨大なデータをもとに、候補者は巧妙に「振り付けられ」、「演出」されていた。中央の自民党コミュニケーション戦略本部(コミ戦)という「演出家」によってである。

 コミ戦の役割はそれだけではない。幹部らのテレビ出演の計画を立てたり、テレビ出演の前に「振り付け」をしたりもする。

 さらには、「この選挙が、何をとう選挙なのか」、その位置づけを立て直し、二項対立の図式を見直すことも、彼らの仕事のうちである。

 国民はわかりやすい言葉、二項対立の図式を好む。先の選挙では、自民党は「郵政民営化賛成か、反対か」を問い、民主党は「年金問題」を問うた。この二項対立がうまく国民の認識と合致すると、票がとれる。コミ戦は日々集まる膨大なデータをもとに、こうした問題に取り組んだ。

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 鈴木哲夫著「政党が操る選挙報道」を読んだ。参院選の開票速報がテレビで報じられているさなかの読書であったので、「この選挙では、コミ戦がどういう風に機能しているのだろう」と想像力をたくましく働かせながら読むことができた。

 僕は政治にはズブの素人であるから、詳しいことは全くわからない。が、もし万が一僕がコミ戦のディレクターであったら、きっと、今回の選挙では、下記の仕事が期待されていたのではないかと思う。

・選挙活動では、年金問題は積年の課題であることを強調し、その問題を解決する政権として現政権を位置づける

・憲法改正や教育再生など、本当に現政権が取り組みたいことは、あえて前面にださない。雇用創出などでイメージアップをはかる。

・選挙活動の終盤では、選挙で負けたとしても、政権交代しなくてもいいよう、首相の続投をイメージづける

 先の選挙ではコミ戦が機能し、自民党は大勝した。今回の参院選ではどうだったろうか。

「年金問題解決のエージェント」「雇用創出の立役者」としての顔をもって、票を集めることができただろうか。そして、首相の続投に反対する声を、何とか封じることができただろうか。

 決着は、明け方にはついているだろう。