「研究」と「事業」のあいだの「死の谷」

 今年春から、僕らの研究成果の実用化検討が、密かに行われている。僕は監修者としてこのプロジェクトに関わり、自分たちの研究成果をなるべく事業として結びつけられるよう、知恵を絞っている。

 どのようなプロダクトが生み出されるかは、まだ内緒だ。プロダクト云々より以前に、僕自身、このプロセスの中で、かなり多くのことを学んでいる。

 一般に、

 事業と研究のあいだには、デスバレー(死の谷:The Valley of Death)が横たわる

 と言われている。「魔の川」という人もいるらしい。要するに、「研究」から「事業」に結びつける困難さをたとえた言葉である。

 一般に、研究されたものが事業化されることはマレであるし、事業が要求するものが研究開発の現場から生まれることもマレである。その深い溝は、「死の谷」に似ている。

 なぜ死の谷が生まれるのか? それは、「研究」と「事業」で追求されるクオリティ、フォーカスポイントが、それぞれビミョーにズレているからである。さらにタチの悪いことに、このフォーカスポイントやクオリティには、それを生み出す「人」がからむ。

 研究としての論理や筋は通っていても、いざ、事業として位置づけるためには、コストや工数などのこと、いろいろ勘案しなければならない。しかし、コスト削減を重視しすぎて、研究の知見を見失ってはいけない。要するに、これら両者の関係は、とてもビミョー。用意周到、かつ丁寧なマネジメントが求められる。

 自分の研究は、かなり実用に近いと思っていたけれど、それでも、まだその溝は深い。しかし、僕の研究で、多くの人々に使われたり、知られたりすることを夢見ない研究はない。だとすれば、これは、僕が渡らなければならない「谷」であろう。

 まだまだ学ぶべきことが多い。