ワークプレイスラーニングと「身内化」
ワークプレイスラーニング、すなわち「研修(≒研修室での学び)と職場での経験学習(≒事業部での学び)の連携」を実現するためのコツは?
先日の「人を育てる科学セミナー」では、こんな内容を扱った。
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この問題には、いくつかの可能性があるんだろうけど、僕の方から提案したコンセプトのひとつに、「身内化(ミウチ化)」があった。事後アンケートを見てみると、どうも、これが研修受講者にヒットしたことのひとつであったようなので、意外だった。
僕のいう「身内化」とは「事業部の上司や育成担当者を、研修の利害関係者にしてしまう」ということである。喩えていうならば「そちらの人を、こちらの味方にしてしまう」ということ。
要するに、「研修と職場での経験学習をみすびつける」ために、モノゴトが全部終わってから「協力してくださいよー」と言いにいくのではなく、研修のプランニングや実施、そしてフォローアップに到るまで、積極的な「アクター」として事業部の人たちに参加してもらう仕組みをつくることをめざすということだ。
具体的には、研修プランニングにアドバイザリーボードとして入ってもらう、というのもありだろう。研修の参加申し込みのときに、上司のコメントを求める、というのもありえる話だ。
長期間の研修であるなら、その合間に、事業部で何らかの実践をしてみる、というのもあり。あるいは、合間に「上司と対話」して、何かをつくるという課題をつくるのもありだ思う。
めざすべきは人材育成部 vs 事業部というような二交対立を前提にして、「ここまではこちら、ここからはそちら」という風な役割分与を行うのではなく、研修を「shared enterprise(共同で達成されるべき事業)」として強制的に位置づけ、「事業部のステークホルダーを巻き込むような仕組み=身内化」を進めることが重要なのではないか、と思う。
「身内化」というネーミングは、研修中に僕が考えついたものであったけれども、もちろん、これはオリジナルがある。
「科学的知識や技術の形成プロセス」を社会学的視座から研究するアクターネットワークセオリーの研究に、「大きな試みを達成するためには、関係者をステークホルダー化して、アクターネットワークをつくる」というのがあったはずだ。この「ステークホルダー化」を「身内化」と呼んだ。
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人材育成部と事業部のあいだに横たわる「デスバレー(death valley)」を超えるためには、かなり戦略的に振る舞わざるをえない。「身内化」は万能な方法ではないが、ありうる選択肢のひとつであるように思う。