ストーリーをつむぎだせ!:ASTD2007に行ってきた

 ASTD2007、はじまりました。今年も70カ国から「組織で人を育てること」に従事している人が集まってきています。

 ざっとみたところ、ほとんどは北米からの参加です。そりゃそうだよ、American Societyなんだもん。でも、結構アジアからも来ていますよ。

 目が悪いので、どこの国の人かはわかりませんが、中国、韓国、日本などのアジアからの参加者もちらほら見かけます。ちなみに、アジアで今、一番参加が多いのは、韓国だそうですよ。今年は300名の参加があったそうです。

 「今、韓国ではASTDバブルなんだよね」

 ある人がそんなことを言っていました。

 閑話休題

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■ストーリー、ストーリー、ストーリー

 昨日いくつかセッションに出ましたが、一番気になった言葉は「ストーリー」という言葉でした。これが何度となく繰り返されていた。

 組織のストーリーをつむぎだせ
 組織全員が、ひとつのストーリーを共有する
 リーダーならば、ストーリーを語れ

 なんて感じで使われています。組織を活性化するためのリソース、部下を動かしていくための資質のひとつとして、ストーリーを語ること、ストーリーをつむぐことが注目されているということでしょうか。

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 ストーリーといえば、僕などは、すぐに心理学者ジェロム=ブルーナーの「ナラティヴ」「パラディグマティック」のコンセプトを思い浮かべてしまいます。

 解説をするのは「今さらジロー感」もありますが、一応しておきましょう。

 ブルーナは、人間の認識には、「論理-科学的様式(Paradigmatic Mode:パラディグマティックモード)」と「物語様式(Narrative Mode:ナラティヴモード)」という二つの思考様式があるんちゃうの、と指摘しました。

「論理-科学的様式」とは、普遍的な真理性と論理的一貫性をもとめ、簡潔な分析・理路整然とした仮説を導く思考様式ですね。「キッチリ、カチッと言う」感じがしますね。

一方、「物語様式」とは、「もっともらしさ(迫真性)」をもとめ、人間の意図や行為、人間の体験する苦境やドラマを含む出来事の変転を取り扱う思考形式のことです。こちらの方は、どちらかというと、「緩くノル」みたいな感じでしょうか。

 人間が「わかったり」「腑に落ちる」するときには、これら2つの思考形式が相互補完的に補うことが重要なのです。

 でも、一般に前者の形式が学校教育をはじめ、教育の文脈にのりやすいわりには、後者は軽視されている・・・。ブルーナーは、かつて、そう指摘しました。

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 さて、今のはブルーナーのお話でしたが、これをふまえて考えますと「組織を活性化する」「組織のミッションをわかる」「リーダーがフォロワーを説得する」・・・そんなとき、ストーリーを重視するという考え方が、多くのセッションで語られているように感じます。

 ストーリーをつむぐにはどうしたらよいか
 ストーリーを共有するにはどうしたらよいか
 ストーリーを創るにはどうしたらよいか

 そんな問いかけが人々に膾炙すると同時に、それに親和性の高い概念、たとえば「組織文化」「エンゲージメント(組織への感情的関与)」「価値」「Appreciative Inquiry」といったような言葉を冠したセッションが比較的人気です。

 要するに、

 組織文化を継承するにはどうすればよいか?
 人々の職場へのエンゲージメントを高めるためにはどうすればいいか?
 組織がかかげる価値と、社員の働く価値を同期するためにはどうしたらよいか

 といった具合ですね。

 それに対して「組織階層」「ジョブディスクリプション」「問題解決」「論理力」といったような、いわゆるパラディグマティックな方は、セッションにもなっていないような感じです。

 カンファレンスに併設されたブックストアをのぞいていたら、ジョン・シーリー・ブラウンが、「Storytelling in organization」という本を書いていました。思わず買ってしまいましたけど。

 ジョン・シーリー・ブラウンといえば、泣く子も黙るCognitive Scientistですよね。ジョン、オマエもか、といった感じです。

 まだ全部読んでいませんけれど、「Organizational storytelling」という研究領域があるそうです。懐かしのOrrのコピー機修理屋さんたちの研究とかが引用されていました。

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 よく教育業界にある「振り子」ではないか、と思います。僕も、教育の世界に身をおいて長くなっているので、何となくそんな臭いを感じてしまいます。ブルーナーも指摘しているように、ナラティヴとパラディグマティックは、相互補完的なのですよ。

 でも、オモシロイですね・・・ストーリーね。実は僕のはじめての論文は、このストーリーに関するものでした。ちょうど、教育学の理論に「ナラティブターン(物語的転回)」がくるちょっと前のことですね。

 ある小学校のある先生が、「コンピュータをストーリーメイキングのツールとして使っていたこと」を参与観察して、論文にまとめたのですね。今から考えれば、赤面モノですけど。楽しかったなぁ。

 ストーリーか。まさかアトランタでまた逢うとはね。
 ここであったが100年目・・・じゃなかった、10年目という感じですね。

 そして人生は続く。