医師と教育学者のコラボレーション

 昨日の大学院講義「デジタル教材設計論」では、聖ルカ・ライフサイエンス研究所 臨床実践研究推進センターの大出幸子さんに、「医学教育における教育工学の活用と臨床研究」というタイトルでゲスト講義をいただいた。

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 大出さんによると、2004年に施工された新医師臨床研修制度をきっかけに、今、日本全国の病院では、研修医のカリキュラム設計が進んでいるそうだ。

 従来は、徒弟的に医局で場当たり的に行われていた医師の人材育成を、体系的にかつ後から評価可能なかたちで、カリキュラムとして実施できるようにすること、これこそが新医師臨床研修制度の眼目である。

 病院の中には、ブルームのタキソノミーの原理を導入し(教育学研究者ならば、わからないで生きることを許されないくらい有名)、カリキュラム設計をするところ多い、とのことだった。医学教育では、今、教育学に熱い視線が注がれているそうだ。

 現在急ピッチでつくられているカリキュラムの中には、シムマンとよばれる「患者シミュレータ」や「eラーニング」、あるいは「ナレッジマネジメントシステム」などの「ITを活用した学習」が準備されているところもあるのだという。発表最後の方では、そうしたテクノロジの可能性を紹介してくれた。

シムマン
http://www.laerdal.co.jp/document.asp?subnodeid=17828552

 大出さんは、ご講演の中で「教育学を学んだ人がもっと医学の世界に来て欲しい」と何度も繰り返しおっしゃっていた。医師と教育学者のコラボレーションがきっかけになって、すぐれた医療、すぐれた医療従事者が生まれるのだと。彼女の気持ちは痛いほどわかる。

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 このblogを日々読んでいただいている方には、「アンタ、いつも同じこと言って、もうクドイよ」と言われそうだけど、また言おう、「学校だけが学びの場」ではない。

 アタリ前田のクラッカーであるが、学校以外にも学びはある。否、人は、何人たりとも学ぶことなしでは、一日たりとも生きていけぬ存在である。もちろん、医師とて学ぶ。医学の臨床現場は、まさに彼らにとっての学習環境でもある。

 学びの学、教えの学が教育学である。しかし、これまで教育学は、たとえば医学のような「学校外の学びの場」で、いかんなく力を発揮することは、それほど多くはなかったのではないか、と思う。

 医学、企業、組織、IT業界・・・外部からは密かに、教育学に対して熱い視線が送られているのに、その視線に対して気づいてきただろうか。気づいていても、答えようとしてきたのだろうか。僕には、そう思わざるをえないことが少なくない。

「誰か、教育がわかって、うちの領域でやってくれる人知りません?」
「教育の人が今すぐに欲しいんです」

 そんな声を、これまで何度耳にしただろう。

 僕の究極の夢のひとつは、こうした現状、つまりは教育学と周辺領域との「つながり」をつくることにあると思っている。あるいは、もし、その「つながり」が既にあるのなら、「教育学と周辺領域のコリをマッサージする」・・・・。教育学のマッサージ師と呼んでくれ。

 教育学を学んだ人がこうした現場 - つまりは従来、なかなか理論的かつ実践的貢献をなかなかできなかった<学びの場> - に出かけ、力を発揮する基盤を整備することに取り組みたい。そういう活動を通して、僕は、「世の中を学びの場ナイズすること」に、力を傾けたい。

 もちろん、これは壮大な夢である。というより妄想かもしれない。でも、そういうのって重要だと思うんだよなぁ。

 ふだんは、セコセコと本を読んだり、チマチマと論文を直したり、ヒェーと叫びながら論文査読したり、コチョコチョと統計いじったり、小さい問題に小さく小さく答えようとしているけれど(嗚呼・・・)、でも、その小さな所業の果てには、いつかたどり着きたい地平があるんです、実は。

 まぁ、いいです。夢はなかなか実現しないけど、この世は、夢しか実現しないんだから。

 最後に、この場を借りて大出幸子さんには感謝いたします。お忙しいところ、手弁当で講義をしてくださいました。本当にありがとうございました。