人前で喋るコツ
仕事柄、多くの人の前で話すことが、求められます。多い場合には、数百人という方々の前で、話さなくてはなりません。
あまり見た目にはわからないようですが、そういう時の僕は、例外なく緊張しています。
「ヘタうったら、どないしよー」
と、胃はキリキリと痛みますし、手や背中に汗もかきます。
「穴があったら入りたい、そしてすべてを忘れたい」
と思うときもないわけではありません。
ただ、前にでたら、もう「まな鯉」です。もうヤケクソ。「ミスッても、知ったこっちゃねーぞ。オレを呼んだ奴も悪い」と開き直ります。それで、ヘラヘラと余計なことまでしゃべり出す。
でも、なかなか人前でしゃべるというのは難しいですね。ポリティカリーコレクトな表現を心がけなければなりませんし、かといって、オモロイことも言わなアカン。
その上、シンポジウムとか、パネルディスカッションとかは、とんでもない角度から質問がきたり、とんでもない話題を司会者から振られたりするのです。死ぬよ、マジで。
「コラ、おっさん、何聞いとんじゃ。世界人類の難問を、オレに求めるんじゃねー」
「コラ、そんな政治的に微妙なこと聞くんじゃねー」
と心の中では腸煮えくりかえりつつも、笑顔で何かを答えなければなりません。答えられなければ「負け」なのです。
「なるほど、そうですねー。大変ユニークな質問ですね」
と言いながら、考えること1秒。その場で思いついたことを、ササッと語らなければならないのです。
最初はなかなかこういうことができませんでしたが、だんだんとコツをつかんできました。
こういう時にとっても役に立つ言い回しを、3つだけ紹介しましょう。
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1.難しい問いなので直接答えになるかどうかはわかりませんが・・・
2.~と、言える場合もあります
3.それはそうと、実はね、ここだけの話なんですが・・・
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まず1は、おまじないみたいなものです。この言葉を言い訳にして、話題を「自分の土俵に引きずり込む」のです。
たとえば、僕の場合だと、どんなネタを振られても、お得意の「教育ネタ」「学習ネタ」にもっていきます。政治の話題であろうが、経済の話題であろうが、最後は「教育ネタ」です。
自分の土俵以外では、絶対に勝負をしません。「議論では、決して相手の土俵にはのらない」これがポイントなのではないかと思います。
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次に2です。
シンポジウムにしても、パネルにしても、基本的には「断定」を求められます。「Aもあるし、Bもある」は、学者としては真摯な態度です。が、なかなかそれでは話が進まない。
いくつか理由はあるのですが、最大の理由は、「Aも正しい、Bも正しい」という議論は、聴衆がほぼ理解不能だからです。聞いている人は、あなたの話を何の視覚的てがかりなしで聞き取り、瞬時に理解しなくてはなりません。そういう状況では、シンプルな図式や論理展開しか理解されないのです。
とはいえ、ウソもつけません。じゃあ、どうするか。
そこで活躍するのが、「と、言える場合もあります」という発言です。
「~です」といっているのではなく、あくまで「言える場合がありまっせ」です。「言って悪い場合」も当然あるでしょう。その可能性を完全に否定しないことがポイントです。
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3の「それはそうと、実はね、ここだけの話なんですが・・・」という台詞もなかなか効果的です。
まず「それはそうと」で、自分に苦手な話題を避ける。で、その後で、「実はね、ここだけトークなんだけど」と語りかけるのです。
「それはそうと、で話題を避けたのは、別にオレ自身が話題を避けたかったからじゃなくて、もっとオモシロイ、ここだけの話をお話しするためなんですよ」
というニュアンスをこめて、こういうのです。
人は「物語」や「逸話」から理解を進めることが多い。自分の経験やエピソードにねざした「ここだけトーク」はかなり好感触であることが多いです。
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なんか、こういうことを書いてると、「セコイ研究者」にみられてしまいそうですね(笑)。「内容で勝負できないんですか、あなたは」、と。結構、結構けだらけ、猫はいだらけ、おしりのまわりは、クソだらけ。
もちろん!もちろん! 話す内容が重要なことは言うまでもありませんし、不肖中原、内容を常に新しいものにしようと心がけています。
ただ、シンポジウムやパネルというのは、どことなく「格闘技」に似ています。
「自分の話したい正しいこと」を素直に話させてくれればいいのですが、相手によっては、「いかにシンポジストやパネリストを困らせるか」「いかに答えにくいことを振るか」しか考えない人もいます。とんでもないところから「便所スリッパ」でアタマをパコーンとやられるんです。
ですので、レトリックが必要だと思うのですね。便所スリッパでパコーンとやられないための「盾」をもつべきではないでしょうか。
まぁ、そういうレトリックを駆使しても、人に伝えることは本当に難しいのですけれども・・・。
人前で喋ることは、僕の一生の課題だと思います。