グローバル時代の人材育成
ある出版社の方のご紹介で、某大手企業(仮にA社と呼ぶ)の育成担当者の方とお会いした。
A社は、アメリカ、ヨーロッパなどに生産拠点(工場)をもっているグローバル企業。「グローバルで活躍できる人材をいかに育成するか」が、大きな経営課題になっている。
伺った話はどれも考えさせられるものだったが、特に興味をもったのは、「日本人なら誰しも持っているメンタリティや、ドミナントな思考形式を、いかにして、海外の人間に伝えるか」という話であった。
たとえば、今仮に「OJT=仕事をしながら学ぶ」という考え方を、海外の従業員に伝えたいのだとする。
最近は機能不全になっているは言われているけれど、日本人にとって、「上司は部下を指導するものであり、部下はその中で学ぶ」といったことは、程度の差こそはあれ自明である。
ただ、相手が異なった人種であるとそうはいかない。「文化の衣」が全く異なるからである。
たとえば、アメリカ人の場合、上司のジョブディスクリプションの中に「部下の指導」が明示されていない場合、それを敢えて行う必要がないと考えるし、それにはextra badgetが必要だと考える傾向があるそうだ。
まして、部下の方も上司から「仕事をしていて、何か気になることがあったかい?」と聞かれると、「No problem!」と答えることが、コレクトだとされている。業務を遂行する上での自分の課題を相談したりすることは、ほとんどあり得ない。「Problemがあった」なんて安易に答えようものなら、責任をとらされてしまうからである。
部下も上司もこんな調子であるから「OJT=仕事をしながら学ぶ」ということを伝えようとしても、文化的コンフリクトを起こしてしまい、なかなかうまくいかない。
しかし、そうは言っても、手をこまねいて見ているわけにはいかない。グローバル化を推進する企業にとって、その企業がもつ価値観やマインドを伝えられないことは、企業としても、クライシスを意味する。何とかして伝えなければならない。
それではどうするか?
ここで採用されるのが2点突破戦略だ。つまり、「物語」と「データ」という2点をもって説得するのである。
ひとつは、創業時からの物語やエピソードを徹底的に語り、「A社がなぜ、今のような状況になっているか」をゆっくり時間をかけて理解してもらう。
一方でアメリカ人、ヨーロッパ人にもわかるように、ロジカルに数字で訴える。「OJTをやれば、長期的にどの程度パフォーマンスが向上しうるのか、短期的には損でも長期的には必ずメリットがあること」をデータをもって語る。
A社では、そんな2点突破戦略を駆使して、日本人にとってはドミナントな思考や価値観を、伝えようとしているそうだ。ブルーナー風に言うならば、ナラティヴモードと、パラディグマティックモードの両面から、説得を試みるわけである。この話が大変興味深かった。
畢竟、グローバルの人材育成とは、「文化的コンフリクトとの果てしない戦い」である。A社はその最先端をいく企業であるが、今後、様々な企業が同じようなことを経験するんだろうなぁ・・・と思った。