オンラインコースは、高校生のドロップアウトを救うか?
先日のEDUCAUSEに続いて、e-learnという国際会議に参加しています。行政、健康福祉領域、高等教育、企業・・・様々な領域のe-learningをテーマにした国際会議で、毎年全米各地で開催されています。荒削りではありますが、そのときどきの最新の動向が把握できるよい機会だと思います。
朝っぱらからキーノート(でも時差ぼけで、いつも僕が起きるのは4時・・・だから朝っぱらでもない)。今日は、北米オンラインラーニング協議会(North America Council for Online Learning)のCEO、Susan Patrickさんの発表でした。
NACOLは、オンラインラーニングに関して、リサーチやトレーニングなどの推進活動を行うNPO(Non Profit Organization)です。
NACOL
http://www.nacol.org/
ミッションは、
どんな生徒にも、地理的条件や、社会的背景、経済的状況にかかわらず、「最高の教育」を提供すること
だそうです。
このミッションを実現するために、Online learningという手段を活用したい、ITを用いたい、ということでしょう。
ところで、行政と現場を「つなぐ」役割として、アメリカの教育業界では、NPOがそれを担っていることが多いです。そうしたNPOは、多くの場合、Ed.MやPh.D.をもって専門的な助言が行えるようなスタッフを抱えています。NACOLもそうした団体のひとつということになります。
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今日のSusanさんのお話で、もっとも面白かったのは、
「アメリカのe-learningは、これまで高等教育での利用を中心に注目されてきた。そちらの方はもう安定期にはいっている。しかし、急速に拡大しているのは、実は、k-12の領域だ。それは、年30%以上の割合で、まさにExplosionしている」
という話でした。
まず高等教育の現状からいいますと、
・短大・大学のうち56%はオンラインコースを提供している
・現在、アメリカには127000のオンラインコースが存在している
・現在、307万人がオンラインコースを受講している
・90%のコースは、非同期型のWebコースとなっている
・51%のコースは、インタラクティヴなビデオカンファレンスを活用している
だそうです。
そして、これに対して、まだ数は少ないながらも、k-12が注目をあびている。それではなぜk-12でオンラインラーニングが注目されているのか。それは、
1)自前で教材をつくったり、教員を手配することができないから
2)特定の生徒のニーズに応えるため
3)大学入試に備えるため
だそうです。
もちろん、k-12といっても、小学校などは1%しかオンラインコースの受講はありません。最大の利用は、高校でなされている。そして、高校こそが、今、アメリカの教育界において、非常に問題になっているのだそうです。一言でいうと、「大量のドロップアウト(中退)」の問題です。
Susanさんはいいます。
「アメリカの高校生に、質問するとします。「高校」を1語であらわすとしたら、彼らはなんと答えるでしょうか。さぁ、皆さん、いっせーので!
(会場声をそろえて)Boring!。
「高校はBoring、Boring、Boring、それにつきます。そして、大量の高校生が今年も学校を去ります」
現在、アメリカの高校に入学した生徒の68%しか卒業できないそうです。ということは・・・32%は中途退学するのですね・・・日本、各国のデータが僕の手元にないので、何ともいえないのですが、確かにこれは高そうな気がします。
高校生の大量ドロップアウト・・・これに関しては、ゲイツ財団も2006年に調査を行っているようです。結果は、下記のようなものでした。
・43%の高校生は出席が足りず、学校の勉強についていけない
・81%の高校生は、高校卒業は人生の成功にとって重要だと思っている
・49%の高校生は、高校卒業資格がないと、よい仕事を見つけるのが難しいと思っている
・75%の高校生は、個別指導可能な小規模クラスを望んでいる。
ゲイツ財団資料
http://www.gatesfoundation.org/nr/downloads/ed/TheSilentEpidemic3-06FINAL.pdf
またこんな調査もあります。1983年から2000年までの継続的な調査結果によると、アメリカの高校生の「学校に対する意識」は、ネガティヴな方向に下降する一途だそうです。
・学校での勉強は意味がある 40%から28%への低下
・勉強はオモシロイ 35%から21%への低下
・学校は人生にとって重要だ 50%から39%への低下
うーん、日本の現状はどうなんでしょう。データがないので、わかりませんけれども。
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Susanさんは言います。
「悲劇的なのはここからです。多くの中退者は、低所得者層、そして僻地からでています。しかし、現代のアメリカは、彼らにはチャンスを与えません。アメリカのおおよそ80%の仕事は、高等教育を必要とする仕事なのですから」
こうした背景のもとで、オンラインラーニング、あるいは、e-learningによるバーチャル高校が注目されるのかもしれません。
それでは、こうしたオンラインコース、どの程度、高校生たちはドロップアウトするのか、というと、実は、これが驚くほど低いのです。
・Apex learning Inc.提供コース 16%
・Florida Virtual School 提供コース 5%
・Virtual High School 提供コース 10%
だそうです。
そして、こうした提供コースの受講者が、大学にどの程度合格できるのか、といいますと、
・Apex learning Inc.提供コース 66%
・Florida Virtual School 提供コース 70%
・Virtual High School 提供コース 70%
という感じになるのだそうです。
Susanさんによると、一般的に、オンラインラーニングコースでは、通常の授業と比べて同等かそれ以上のパフォーマンスが確保できる、とのことです。教材を見ていないので、何ともいえないのですが、よほどこれらのコースが「よくできている(Well-designed)」なのでしょうかね。
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Susanさんのスライドには、ある高校生の言葉として下記のようなものが引用されていました。
We have technology in our blood
(オレらの血には、テクノロジーがはいってんだよ、わりーか)
現在、アメリカでは、94%の子どもたちが学校の授業の中で、インターネットにふれていると言われています。10代の子どもたちに限って言えば、テレビを見る時間よりもインターネットを使う時間の方が長い、という調査結果があります。
そんな彼らにとって、オンラインで学ぶことは何の障害もないことなのでしょう。
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今日のキーノートでは、アメリカのオンラインラーニングのひとつの側面を見た気がしました。
もちろん、これらの議論を日本にあてはめることは全くナンセンスです。各国の状況にしたがって、Online learningが用いられればそれでよいのです。
ドロップアウトする高校生を「救う」手段として提供されはじめたオンラインラーニング。今後の展開が興味深いところです。
それにしても、”Boring”という一語で形容されるアメリカの高校は、今後、どのようにカタチを変えていくのでしょうか。それとも、変わらないのでしょうか。
そして人生は続く。