もう年なんだから・・・の錯誤

 ここ数年、「英語論文を読んでレジュメをつくるのが遅くなったなぁ」と鬱になっていた。学生の頃なら、20~30ページの論文でもササッと読んで、シコシコッと要約することができた。

 些細なことなんだけど、英語論文の読書会の準備をするたび、気が滅入っていた。僕の脳はどうなっちゃったんだろう、と真剣に悩んだり、(小生、ウソつきました・・・たいした悩んでない)、ちょっぴり気にかけたりもした。

 でも、今回の海外出張でたくさんの英語論文を持ち込んで、仕事をしていて、少し理由がわかった気がした。

 要するに、最近の僕は、「学生の頃、論文を読解するのにかけていた時間」を、実は、ちゃんと確保できていないのである。

 東京での僕の時間は、細切れに分断されている。
 研究会議、論文指導、講演、発表、プレゼン・・・その合間に電話、電話。少なくとも、大学にいる間は、ゆっくりと時間をかけ、集中して何かに取り組むことができない。

 そんな中、スキマ時間を何とか見つけて、何度も何度も英語に取り組む。何度も何度も取り組むので、あたかも長時間かけたような錯覚を起こす。しかし、なんてことはない、全部合計しても1時間にも満たない時間しか、かけられていない。

 典型的な錯誤である。加齢に基づく脳機能の低下云々よりも、僕が課題をこなさなければならない状況が変化している、ということなんだろう。

 なんだ、そんなことかと思ってちょっと喜んでいたら、先日、ある本を読んでとき、こんな話がでてきた。「最近物忘れがひどいんです」というのは、ウソだ、という話である。

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 僕(筆者・脳科学者の池谷裕二先生)はまわりの人があきれてしまうぐらいに、物忘れをしてしまいます。

 たとえば、僕が学生に「こういう実験をしてみたらどう」といったはずなのに、一週間後にその実験をしている姿を見て、「なんでそういう実験をやっているの?」と聞いたりする。

 あげくの果てには、「その実験にはあまり意味がない」みたいなことさえも言ってしまう。

(中略)

 (でも)痴呆のような病気をのぞけば、「年をとったから物忘れをする」というのは、科学的には間違いなんです。

 物忘れやド忘れが増えると思えてしまう理由は、いくつかあります。子どもの頃に比べて、オトナはたくさんの知識をアタマの中に詰めているから、そのたくさんの中から知識を選び出すのに時間がかかる。

(中略)

 実は、子どももたくさんド忘れをするんです。(中略)ただ、重要なことは、子どもはそのド忘れを気にしていない。

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 なるほどね・・・。

 僕も「最近忘れっぽい」と思っていたけど、必ずしも加齢とは関係ないかもしれないのね。

 そうか・・・知識の増加で検索に時間がかかっていたのか・・・。あと、子どもは「気にしてない」だけだったのね。

 あとは、オトナになると「課題と時間が細切れに分断される」。よって、「突然検索を行わなければならない状況では、常に自分は違った領域知識の処理をしているため、なかなか該当する知識を想起できない」ってのもあるかもしれないですね。

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 というわけで、やや短絡的ではあるけれど、僕の脳はまだ健在みたいです。31なんだから、アタリマエか。

 ダハハハハ、急に元気になってきたぞ。