EDUCAUSE2006にいってきた!
えーと、しぶとく、生き残っています(笑)・・・中原です。
(わからない人はこちらをご覧ください)
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ところで今回、僕は、EDUCAUSE(エデュコーズ)という国際会議に出席するためにダラスにきています。
Educause
http://www.educause.edu/
EDUCAUSE(エデュコーズ)は、「大学の情報システム」に関する世界で一番大きな国際会議です。アドミニストレーションスタッフから、いわゆる大学教員まで、1万人ほどの出席があります。一万人だぜ、どっからわいてでてくる?(僕もわいて出てきた一人)
それにしても、Educauseが対象にしている「大学の情報システム」ってほんとうに広いテーマです。
いわゆる、e-learnigから、学務情報データベース、災害におけるITの復旧、セキュリティ、個人情報保護まで、ホントウに様々な話題が話し合われています。
これだけ広いテーマで、かつ、人が1万人もくるのですから、当然、会場もアホほどデカイですね。ダラスのダウンタウンにコンベンションセンターというところがあるのですが、ここを借り切って実施しています。
コンベンションセンターは、きっと東京ドームで10個くらいの広さがあるんじゃないでしょうか。ないかな・・・知らんけど(笑)。
空間はAからDまでブロックにわかれていますが、AブロックからDブロックのセッションまで移動するとなると、ゆうに20分はかかるでしょうね。ウォーキングのよいきっかけになって、まことにヘルシーです。
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さて、僕はウォーキングをしにダラスにきたわけではありません(そこまで暇人じゃない)。一応、東京大学の教育の情報化のプランニングをしているので、「なんできた?」と聞かれると、「仕事できたんだよ」ということになります。
飽きもせず、だいたい朝から晩までセッションにでていますが、かなりオモシロイセッションもありました。
今日は、ちょっと難しくなるかもしれませんが、僕がオモシロイなぁと思ったものを紹介します。
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まず、しょっぱなにでたセッションは、ミネソタ大学の「講義自動アーカイビングシステム」についてでした。
なんでこれを見に行ったか?・・・それはね・・・いろいろと事情があるのです。下記をよく読んでみてください。I-3のところにそれらしきものがあります。ぎゃぼ。
東京大学アクションプラン
http://www.u-tokyo.ac.jp/gen03/pdf/actionplan0811.pdf
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ミネソタ大学では、「No operator Low end class capture」というコンセプトで、教室のいくつかを改造しているそうです。
ミネソタ大学 office of classroom management
http://www.classroom.umn.edu/
要するに、「カメラ操作する人をつけないでも、教員が自分でチョコチョコと操作をして、自分の講義を撮影し、公開できるシステム」を、なるべく多くの教室に実装していくことにしているそうです。
費用はひとつの教室あたり250万から300万程度と言っておりました・・・。まぁ、1講義撮影・編集してプロに頼めば、どんなにやすくても8万円程度はかかります。それを考えれば、長期的な視野にたてば、まぁ、リーゾナブル値段ということになるのかもしれません。
もちろん費用がリーゾナブルなだけに、「それなりのクオリティの映像」しかつくることはできません。
映像ソースは2つ。いわゆる「パワーポイントの画面」と「講師の顔」だけです。具体的には、パワーポイントの画像を背景として、講師の顔が右下にちょこんと合成された映像がストリーミングビデオとして蓄積されます。これをオペレータなしでやっちゃう。
じゃあ、なんで、こんなシステムをつくるのか?生徒は、このシステムを使って収録された映像を使って、「class recall」をするのだそうです。要するに、テスト勉強や復習をするときに、使っているということでしょう。
セッションでは、このシステムを構築するTipsと、生徒から寄せられたフィードバックが紹介されていました。実務的で参考にはなりました。
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このシステム、確かにシンプルすぎる嫌いがあるのですが、僕は、かえって、「バランスはいいなぁ」と思いました。
これは発表していた人も言っていたんですが、必ずこういう話になると、ハイテクを使いたがる人が、でてきます。いわゆる「AVオタク」が口角泡を飛ばしはじめる。
「今からいれるのなら、ハイビジョンがいいよ。自動追尾カメラもぜひつけよう。アーカイブされた講義は、同期でも、非同期でも使えるといいよねー・・・」
概してテクノロジーの世界では、「カッティングエッジなテクノロジーというのは使いにくいもの」です。これはマーフィーの法則でしょう。まだ「こなれてない」からね、、、だからカッティングエッジなのです。で、そういう最先端テクノロジを山盛りにした仕様をつくりがちなのです。だから当然使いにくい。
で、そういうテンコモリ仕様で「えいや」で発注しちゃって、目がとびでるような費用をかけた教室が1つできる。豪華一点主義というやつです。こういう事例はホントウに多い。
でも、ミネソタ大学の発表者は、これに異を唱えていました。
「たとえローエンドなテクノロジであっても、どの教室にも実装されてて、誰もが使えるかたちで操作できる方が、結果としては長続きする」
まさにそのとおりです。アンタ、わかってるよ。
そもそも利用用途が、生徒の復習素材ですしね。テレビ番組になるわけじゃない。あくまで、通常授業の補完(サプリメント)としての位置づけです。
「その程度の目的であれば、このくらいのクオリティの教材、であるならば、このくらいのシステム」・・・何もかも「テンコモリ」にするのではなく、ある特定の目的に従って、仕様の割り切ることができる・・・これが重要かと思いました。
ちなみに、学生からは携帯情報端末(ipodのような)で見られる、ダウンロード型のコンテンツを自動で生成して欲しい、という意見が、多数寄せられているようです。やはりそうくるか、という感じですね。
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さて、次に印象深かったのは、ノースカロライナ大学の発表です。
この発表は、未来予想図みたいなものだった。「21世紀の大学生の学習経験は、どのようなものになるか」みたいな、新春大放談大喜利状態です(笑)。
彼らによると、今後のびてくる大学情報テクノロジーとしては
1.ユビキタステクノロジーの利用が増える
2.コンテクストアウェアな情報提供が行われる
3.ソーシャルネットワークを用いた電子学習共同体が構築される
4.ロケーションベースのシステムが実装される
だそうです。
まず、「1.ユビキタス」に関してですが、これは、もう説明を待たないでしょうか。ユビキタスの提唱者であるマーク=ワイザーによれば、ユビキタスとは、
「Making many computers available throughtout the physical space」
(どのような空間でも、コンピュータを使えるようにすること)
という意味ではありません。一般にはこう思われているかもしれないけど。
そうではなくて、
「Making many computers effectively invisible to user」
(コンピュータをユーザに見えないようにする)
という意味だそうです。
ちょうど数年前、ドナルド=ノーマンが予見したように、ユビキタス社会のコンピュータとは、「Invisible computer」なのですね。
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次の「2.Context aware」ですが、これは「Smart space(賢い空間)」といわれる概念に近似しています。
要するに、センシング技術・WIFI技術を用いて、ユーザの動作を検知する。で、そのユーザにあった情報を、適切なタイミングで、空間からプッシュする、という考え方です。
英語でいうと、
「Contextually adaptive inflastructure , right service, right time and right place」
ということになります。「Come to me service」とも言われますね。
ノースカロライナの人たちは、これが大学の様々なところに実装されていくだろうと予想しているようです。これは確かにありえるかな、と思います。
が、この手の議論 - ユビキタス環境研究といってもいいかもしれない - で一番見えないのは、「そこまでコストをかけて、どのような内容の情報をプッシュするのか」ということです。
「できること」はわかるのですが、「コストをかけてまで、できる状態にする必然的な理由」がどうも理屈がつきません。そこを見いだすことが重要でしょうか。
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「3.Social network」ですが、これは説明をまたないでしょう。今もずいぶん利用されていますが、SNSやLMSにおけるコミュニティ機能の利用ということになりますでしょうか。
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「4.location-based」は、要するにgoogle mapとマッシュアップサイトを思い浮かべていただければと思います。一言でいえば、子ども向けケータイ電話の「今どこ」サービス。
「2.Context aware」な環境ができれば、「誰がどこにいるか」という情報が、すべてトレースすることができます。
今回の発表では、「今、共同学習をやっている○○ちゃんはどこかな」とか「先生はどこかな」みたいのをWebで表示していました。
つーか、そんなもん、いるか。
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ノースカロライナの発表者たちは、こうしたものが大学の情報環境として今後追求されるようになるだろう、と言います。で、究極的には、生徒の学習経験をすべてトラッキングして、e-portfolioとよばれるような巨大な情報貯蔵空間に蓄積して行かれるようになるだろう、と予想します。
昔、ヴァネバー=ブッシュという人が提唱した、まさにMemexを一人一人の学習者がもつようになるだろう、と。
Memexっていうのは、書籍、書類、レコードなど、個人のもつすべての情報を蓄積し、必要なときに発信する仮想の機械のことです。大学がひとりひとりの学生のMemexをもつようになる。
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・・・とまぁ、いろいろ夢物語なところもありますし、ツッコミどころ満載、「オレはいやだな」と思わないこともないですが、まぁ、「想像力を働かせること」は重要です。
隣の白人さんは、こんなことを言って、彼らの発表を非難していたけど、アンタは甘い。
「彼らの発表は、全然学問的じゃないわね。」
いいんです、「学問としてコレクトじゃなくても」。研究論文を通すわけではないのだから。
Any useful statement about the future should at first seem rediculous
(未来予想ってのは、どんなものでも最初はバカゲタものに見えるものさ)
というじゃないですか。
ただ、Memexには、少し恐ろしいモノを感じました。これは詳しくのべ始めると100年かかりそうですので、また違うときにでも。
ちなみに、僕個人としては、この想像力の果てには、大学の未来はないんじゃないかな、と思っています。
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次にオモシロイなぁと思ったのは、スタンフォード大学の発表です。ここは堅実でした。
スタンフォード大学のstudent computing部門では、大学の各所にCollboaration用のスペースを実装しているのですね。Groupspaceというものを開発している。
Groupspace
http://academiccomputing.stanford.edu/groupspace/
もともとは、テリー=ウィノグラードのところで開発していたiworkというプロジェクト、ウォーレンバーグホールで行われていたTeam Space projectが発展してできたようです。
iwork project
http://iwork.stanford.edu/
彼らは言います。
「僕らの大学には、ぞくぞくとNetGenがはいってきている(Net generationのこと)。Mobileを生まれたときからもち、24/7時間つねに情報をやりとりしている、この世でもっともテクノロジーにたけて、ソーシャルな人種をね。
彼らは変わる。それならば、彼らにフィットするよう、学習モデルだって変わらなければならない」
Groupspaceをキャンパス各地に配置し始めている彼らですが、課題も素直に指摘していました。ズバリ、マーケティングだそうです。
彼らは言います。
If we build it, Will they come?
If they don't come, What will we do?
(そういうスペースをつくっても、誰が使いにくる
使いにこなかったら、何をすればいいんだろう?)
そのくらい考えておけよ、と言いたいところですが、素直で痛烈な叫びだよね(笑)。さっきいったような一点豪華主義ファシリティは、どこの大学でもありますが、その利用率があがらないのは、共通の悩みなのでは?
もちろん、彼らは手はうっています。これが面白かった。
LDTプログラムの学生を3週間のpaid internとして受け入れ、彼らを通して、まずリエゾン役を養成します。で、様々な学部の教育プログラムに働きかけている、とのことでした。
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Educauseには、エキシビジョンも併設されているので、見に行きました。ホントウにスゴイ盛り上がりです。「祭り」だね、「祭り」。
興味をもったのは、iTunes Uでしょうか。東大もipodにコンテンツ配信を行っていますが、ここは盛り上がっていましたね。
iTunes Uって何?
http://journal.mycom.co.jp/news/2006/01/26/006.html
東大テレビポッドキャスティング
http://todaitv.ep.u-tokyo.ac.jp/podcasts/index.html
UT OCWポッドキャスティング
http://ocw.u-tokyo.ac.jp/podcasts/index.html
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あと、今、アメリカの大学でもっとも流行しているのは、「clicker」「personal response system : PRS」なのだそうです。2003年からブームがはじまったとのこと。ほんとかよ。
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さて、最後になりますが、ひとつ重要なことを書こうと思います。
僕は、「Educasuseでもっとも重要なことは、ここで発表している人たちの多くは、ファカルティ(教授・助教授)じゃない」ってことだと、思っています。
いや、ファカルティも中にはいますよ。でも、マジョリティではないことは確かです。
彼らは、日本でいうと、学生部や教務部のスタッフたちです。でも、彼らは日夜スペシャリストとして、この場合ですと、「IT & educationの専門家」として、学部や研究科に対してコンサルティングをおこない、プロジェクトをたて、問題解決し、そして、その成果をEducauseで発表しています。
彼らにとっては、こうした場で発表することが、のちのキャリアアップにつながります。ここで、jobハンティングが起こることも多いと聞きます。
アメリカの大学は強い。
それには、いろいろな理由がありますが、このスタッフィングの層の厚さと、専門性の高さ。これこそが、強さの源泉のひとつであることは間違いありません。
じゃあ、ひるがえって、日本はどうでしょうか。
いろいろな課題が見えてきます。
そして人生は続く。
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追伸.
ダラスの街はホントウに空気が乾いています。あと寒暖の差がホントウに激しい。唇はボロボロになるし、のどは渇くし。もう二度と来ることはないかもしれません。ちょっと僕の体には、この環境は過酷すぎるかも。