真面目に働いても貧乏から抜け出せない!
戦後60年、日本の政体、目指すべき方向を暗に決めてきたのは、アメリカと断言しても語弊はないでしょう。日本は常に、アメリカとの距離において、「自国のあり方」を規定しました。それは、翻弄の歴史でもあり、ささやかな抵抗と挫折の歴史でもありました。そのことは、政治学に全くの門外漢の僕が声をあげるまでもなく、多くの論客が既に指摘しており、その論考は枚挙に暇がありません。
もちろん、政治だけではありません。文化においても、我が国はアメリカより強い影響を受けているのは言うまでもないことです。若者たちの着るTシャツの装飾や、巷間に流布する英語、流行の音楽や映画・・・そうしたものを目にするまでもなく、私たちは日々、日本に居ながらにして、「アメリカなるものの」に囲まれて暮らしています。
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政治や文化において、わたしたちはアメリカに強く影響されていることは疑いのない事実です。しかし、わたしたちは、アメリカをどの程度理解しているのか・・・そういう問いを投げかけられたとたん、目を伏せる人は多いのではないでしょうか。
僕個人に関していえば、年をとるに従って、僕は、アメリカという国がわからなくなりました。学生の頃、研究を始めた頃は、憧憬の対象であった国アメリカ。今、僕に、そのようなナイーブさは持ち合わせていません。
もちろん、時にアメリカに魅せられることを僕は正直に吐露しなければなりません。しかし、同時に、現在の僕にとってのアメリカは、決して「後追いしてはいけない国」「前近代的な国」というイメージがつきまとっていることも、また事実なのです。
相変わらず、僕には、アメリカがわかりません。しかし、同時に思うのです。アメリカを過剰に美化するのでもなく、いたずらに歪めるのでもない、等身大のアメリカを何とか見つめられないものか。
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矢口祐人・吉原真理著「現代アメリカのキーワード」を読みました。現代アメリカを理解するための81のキーワードを選定し、そのひとつひとつに関して、数ページずつ解説を試みています。
著者たちは言います。
「アメリカに関する情報は大量に流通しているものの、私たちのアメリカ理解は今日なお、一面的、表層的、さらには因習的でさえある。(中略)9.11同時多発テロ以降、アメリカ社会に起こった深刻な変化を視野にいれ、超大国の現状を最新の情報と明快な分析で提示する」
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僕が、個人的に興味深かったのは、下記のようなキーワードでした。
●摂食障害:
米国の27%の男性は肥満。女性は34%が肥満。
●バーバラ・エーレンライク:
最低賃金で人は生きていけるのか?
●ノラ・ジョーンズ
9.11以降の歌姫
●マイケル=ムーア
ウソの大統領よ、恥を知れ
●ヒップホップ:
ヒップホップの4つの構成要素とは
●ゲイテッド・コミュニティ:
高い堀に囲まれた、安全・安心の郊外<富裕層の街>
●健康維持機構:
営利主義によって、医療の質はどの程度下がったか?
●No child left behind
教育行政組織の変容
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これらのキーワード、すべてご存じですか?
特にバーバラ・エーレンライクの著作は、すぐにでも原著を注文しようと思っていたのだけれども、今日、新聞を読んでいたら、なんと、翻訳が出版されるのですね。
この著作は、1998年から2000年にかけて、エーレンライクが3つの年で「最低賃金レベルの職、ウェイトレス、ハウス・クリーニングなどを得て、本当にその収入で生活していけるのか」を、自ら実験してみた本です。「自動車絶望工場」を彷彿とさせるような、渾身のエスノグラフィーだね。
自動車絶望工場は、著者の鎌田氏が某自動車会社の組み立て工になって、ベルトコンベア作業に従事した話です。「ベルトコンベアは、そばで見ているときと、実際に自分で作業をするときでは、スピードが違う」という記述が印象的な著作です。ジャーナリスティックな視点で書かれてはいるけれど、人によっては組織エスノグラフィーの代表作にあげる人も多い本ですね。
話を元に戻します。
エーレンライクは、捨て身のエスノグラフィーの結果、アメリカでは時給7ドル程度の賃金で自立した生活を送ることは不可能であることを明らかにしました。
低賃金では、アパートが借りれず、多少割高になっても安ホテルを転々とするしかないのです。
また自動車が購入できないため、仕事にも行くこともままならない。
もちろん、病気になっても保険はない。倒れたら、OUTです。
ひとつの仕事では収入が確保できないから、2つ掛け持ちして、体をこわしたり、逆に生産性が低くなったりする・・・まだ読んでないから詳細はわからないのですが、上記のような内容が力強い筆致でかかれているそうです。
(p79より引用、加筆)
「一生懸命に働くことが成功の鍵だと聞いて私は聞いて育った」とエーレンライクは言う。だけれども、現状ではどんなにまじめに働いても、貧困から抜け出せない人々が多数いる。
(p79より引用)
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世界の「富」を独占する超大国アメリカ、これは紛れもない事実です。しかし、その見方すら、アメリカの一側面を表しているにすぎない。
アメリカには複数のペルソナがあるのですね。エーレンライクの著作からは、アメリカの隠されたペルソナが見て取れます。
本書の81のキーワードを通して、わたしたちは、アメリカの一側面を新たに発見するでしょう。しかし、おそらくは同時に「アメリカを理解することは不可能だ」ということを再認識せざるをえないことになるでしょう。その意味で、本書は我々を「絶望」させる。
しかし、絶望とは希望のことです。僕に言わせれば、「アメリカのことを完全に理解したとうそぶき、得意げに語れる人」は、アメリカを全く理解してはいません。
「アメリカを理解できないと悟ること」が、アメリカ理解の第一歩であり、本書のめざすところだったのではないか、と思ったりするのです。
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追伸.
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