学習科学の研究会
昨日は、東京大学で学習科学の本読み会が開催された。遠方からも何名かの研究者の方々に参加いただいた。総勢20名弱で、みんなで下記の新刊を読み、ケンケンガクガクと議論をした。
読んだ論文は、どれも味わい深いものであったが、個人的には、Learner-centered designの論文が一番印象的だった。
この論文は、ACM(米国計算機学会)のCommunications of ACMに1996年に掲載された論文をリライトしたものである。
当時、僕は学部3年生。佐伯先生主催の本読み会にオブザーバとして入れてもらい、オトナたちが議論しているのを、「スゲーな」と思いながら、見ていたことを思い出す。
この他、研究会ではいくつかのインプリケーションを得た。
下記、自己メモのために書いておく。
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●学習科学は、1)学習という現象の理解、2)1)をもとにした効果的な学習環境の創造をめざすのだという。そして、2)から得たデータをもとにして、1)の解明を行うことも同時に目指されているらしい。しかし、2)の学習環境からでた知見は、domain specificなものであるはず。どの程度、1)に貢献出来るか、やや疑問が残る。
●学習科学のもうひとつの目的として、2)を行う際のデザイン原則を明らかにすることがめざされている。しかし、この「デザイン原則」というものが、どういうものかをそろそろ明らかにする必要がある。それは、どの程度の理論射程をもったものなのだろうか。「フレームワーク」という言葉で誤魔化すのは、そろそろマズイのではないだろうか。「grand theory - grounded theory - middle level theory」というスケールが仮にあるのだとすれば、どの程度のものか。
●「モダン教育学」は、Teacher proofの教材、学習の原理・原則を研究者が開発し、実践者が実践現場でそれを利用する、という構図で研究が進んでいた。しかし、それが1980年代にはいって批判され、いわゆる「ポストモダン教育学」が生まれる。アクションリサーチ、デザイン実験などは、その系譜に位置するものと考えられる。
アクションリサーチは、極めて臨床的に「その場の、その問題」を実践者と研究者が協働で解決することがめざされる。しかし、一方でデザイン実験は、その立ち位置が不明だ。ポストモダン的に、「その場の、その学習」を支援することをめざしながら、同時にモダンをめざす=デザイン原則の確立をめざす。このねじれは、どのように説明するべきか。
※ちなみにモダン教育学、ポストモダンは僕の言葉・・・。
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あと、個人的には、自分の研究のスタンスを再確認できてよかった。
●僕は研究方法論に全くこだわりがないことが、改めてよくわかった。質的であろうが、量的であろうが、参与観察であろうが、NIRSであろうが、使えるものは使えるべきという立ち位置をとる。
学習という複雑な現象に接近するためには、ひとつの方法論に固執するべきでないと考える。あの手、この手をつくして、少しずつ接近するべきだと考える。
●僕は「教育工学」の研究者である。
もっと大きなくくりでいうならば、僕の専攻は「教育学」だ。
自信をもって言う。
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ともかく、本当に知的にエキサイティングな時間でした。三宅君、館野君、本当にコーディネート、お疲れ様でした。またご参加頂いた方々、お疲れ様でした。
次回は7月26日ですね。次回も楽しみです。学部生、大学院生に限り、まだご参加いただくことができます。もし、学習に関して興味があるならば、勇気をふりしぼって、来てみて下さい。
追伸.
それにしても、教育関連学会で学習科学の知見を参照しつつ研究を行っている、若手の研究者のほとんどが、この研究にいたのではないかと思います。大学院生さんも、学部生さんもいました。きっと10年後、ここに集うひとたちの中から、いろんな研究がでてくるんだおうなぁ・・・。
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魁!学習科学塾
主催:東京大学 中原研究室&MEET部門
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1.下記の日程に3回以上参加できる方。
なお1回でも欠席なさる方は、恐れ入りますが、
文献の担当はこちらからしてさせていただきます。
2.下記にある文献リストのうち、1つ以
上を担当しA4レジュメを作成し、発表でき
る方。なおレジュメは、PDF化し、NAKAHAR
A-LAB.NETにて公開させていただきます。
※研究会は相互貢献の場です。
※オブザーブのみに参加は認めないこと
とします
今回は追加募集のため、申し訳ありませんが、
用意出来る席があまりありません。
お申し込みはお早めに。
■日時
2006年 7月5日(水曜日)
午前10時 - 午後5時まで
2006年 7月26日(水曜日)
午前10時 - 午後5時まで
2006年 9月13日(水曜日)
午前10時 - 午後5時まで
2006年 10月25日(水曜日)
午前10時 - 午後5時まで
2006年 11月29日(水曜日)
午前10時 - 午後5時まで
■場所
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
大学総合教育研究センター
マイクロソフト先進教育環境寄付研究部門
tel:03-5841-1727
fax:03-5841-1729
東京大学本郷キャンパス内 第2本部棟4階
413号室です。
http://www.utmeet.jp/access/index.html
■参加の申し込み方法
参加申し込みは、下記のリストから担当
したい章を4個ご選択の上、下記の申し込み
フォームをつかって、
mmiyake[at]mvg.biglobe.ne.jp
のメールアドレスまで6月1日までにメールを
ください。
ご指定いただいた4つの文献のうち、2つを
ご担当いただければ幸いです。
1-15, 2-4, 2-7, 2-9などという風に番号
でお知らせください。
なお人数の関係で、15名を上限に参加者を
打ち切ります。先着順といたします。
〆ココカラ----------------------------------
申込フォーム
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名前:
所属:
メールアドレス:
文献担当希望:
第1希望
第2希望
第3希望
第4希望
------------------------------------〆ここまで
■文献内容
1.Keith Sawyer ed, (2006) "The Cambridge Handbook of the Learning Sciences"
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0521607779/ref=ed_oe_p/249-5883400-7709928
目次情報
http://www.cambridge.org/catalogue/catalogue.asp?isbn=0521607779&ss=toc
担当
1-1. Intro, 1
1-2. chapter 2,3
1-3. chapter 4,5
1-4. chapter 6,7
1-5. chapter 8,9
1-6. chapter 10,11
1-7. chapter 12,13
1-8. chapter 14,15
1-9. chapter 16,17
1-10.chapter 18,19
1-11.chapter 20,21
1-12.chapter 22,23
1-13.chapter 24,25
1-14.chapter 27,27
1-15.chapter 28,29
1-16.chapter 30,31
1-17.chapter 32,33
1-18.chapter 34,afterword,epilogue
2.Gary Stahl, (2006) "Group Cognition: Computer Support for Building Collaborative Knowledge (Acting With Technology)"
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0262195399/ref=pd_sim_dp_5/249-5883400-7709928
目次情報
http://www.cis.drexel.edu/faculty/gerry/mit/index.html
担当
2-1. preface,1
2-2. chapter 2,3
2-3. chapter 4,5
2-4. chapter 6,7
2-5. chapter 8,preface2
2-6. chapter 9,10
2-7. chapter 11,12
2-8. chapter 13,preface3
2-9. chapter 14,15
2-10.chapter 16,17
2-11.chapter 18,19
2-12.chapter 20,21
※当日、研究会終了後、懇親会をいたします
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研究会幹事:三宅正樹(東京大学大学院 学際情報学府 M1)
館野泰一(東京大学大学院 学際情報学府 M1)
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