玄関は一つでいい
ちょっと前のことになりますが、アメリカの某大財団がOpen Educational Resource(OER : ネットでオープンに公開されている教材)のポータルサイトを開発している、というニュースを、ある方から聞きました。
要するに、自分の財団の資金提供によって開発されたオープン教材を、一カ所で検索出来るようにするデータベースと検索システムですね。いわばポータルサイト。
要は、「教材を検索しながら自分で学びたい人」に対して、いろいろなサイトで別々に教材を見つけてもらうのではないのだ、と。ワンストップサービスを提供したいのでしょう。
このニュース自体は、一応、「高等教育のIT」の人々には、驚きと好奇心の目で迎えられているようです。「最近、アメリカではそうなんだってねー」という感じで、いろいろなところで話を耳にしますね。
ですが、僕としては、それに非常に期待をもつ一方で、「うまくいくのかなぁ」と、つい心配をしてしまいます。
理由の詳細は、3年前に下記のように記していました。どうぞそちらをご覧下さい。
下記の話は、直接、今回の件にあてはまるわけではないです。が、教材の流通、公開という観点で、いくつかの「神話」を書いたつもりです。
教材が流通しないわけ
http://www.nakahara-lab.net/researcheressay03.html
さらに、上記の文章には書いていないけれど、最大の疑問は、この手のデータベースの最も基本的な前提・・・「ネットワーク上にオープン型の教材を検索できる場所を用意すれば、人は学びたいときにそれを使って、教材を見つけて学ぶことができる」ということにあります。そもそも、そんな人いるのか?ということです。そのあたりはちょっと疑問。
「データベースを検索をして自分の学習を組み立てられる人」は、既に学習内容について「わかっている人」であり、そもそも、そうしたかたちで学ぶことは少ないのではないだおるか。
そして、本来ならば、データベースや検索を使って自学自習しなければならない人は、なかなかそうしたサービスでは学ぶことが難しいのではないか。「オープン教材を組み合わせて学ぶ」ということは、自分でカリキュラムをつくることに似ています。それは、ほとんどの人々にとっては無理なのではないだろうか、ということです。
あと、上記の文章では言及していませんが、GoogleなどのGeneralなロボット型の検索エンジンが、あらゆるネットワーク上のドキュメントを検索可能にしていく時代に、領域に特化した非クロール系のデータベースって存在意義があるのだろうか、という疑問もあります。
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いずれにしても、ポータルとは「玄関」のこと。現在、日本をふくめ、世界には様々なOpen Educational Resourcesの「玄関」がつくられています。ですが、玄関は、2つも3つもいらないのです。それがどれになり、何が淘汰されるかは、近い将来にわかることでしょう。
学習者にとって、玄関は1つでいいのではないかと思います。少なくとも、コンテンツ少なくして、ポータル多数、という状態は、かなりみっともない。
国内外をとわずして、ポータルの名前を冠するものが、どのようなものになるか・・・なかなか目が離せません。