未来のデザイン
ここ数年ほど、ホソボソとですが、「企業を対象にした教育学研究を本格化させましょうよ」という主張を、僕はしてきました。
ここからはじまるわたしの研究
http://www.nakahara-lab.net/researcheressay12.html
まず手始めに、ということで、去年、「ここからはじまる人材育成」という本を、中央経済社から出版させていただきました。
ここからはじまる人材育成 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4502375403/nakaharalabne-22
その続編ということではないのですが、今度は、「人材育成担当者が手にするテキスト」みたいなもの執筆しよう、ということが、どこからともなくわき上がり、実は、5名の著者でそれを書いています。
労働経済、キャリア論、コミュニティと学習などに強い荒木さん@東京大学、企業人材育成の実務とIDに強い北村さん@熊本大学、IDとネットワーク技術関係に強い橋本君@青山学院大学、経営学や企業人材育成の現場に明るい長岡さん@産能大学、そして僕の5名です。
通常、こういうテキストの執筆ということになりますと、「最初に原稿を割り振って、あとは持ち寄る」みたいな感じが多いですね。割り振ったあとは、他の人が何を書いているかはわかりません、みたいな感じが多いのです。
ですが、わたしたちは今回違ったアプローチをとりました。「じっくり書く」ことを主眼においたのです。月に2度ほど、東大に集まって、お互いの書いたものを持ち寄り、批評し合いながら書くというかたちで執筆しています。
はっきり言って、これはツライです。よっぽど、いっきに原稿を持ち寄った方が楽。まずは全員超忙しいので、時間をあわせるのも一苦労です。また、定期的に原稿執筆が回ってくるというのは、少しずつボディブローを食らわされてるようで、結構、キクんですね。
いったん原稿ができたとしても、他のメンバーからコメントがはいったり、「じゃあ、ここふくらまして、もう1節増やしましょうか(笑)」という意志決定がなされたりします(ごめんなさい・・・皆さん)。
ですが、このプロセスは、僕にとっては非常に勉強になりました。皆さん、専門性の違う人たちからもらうコメントも、ためになった。
まぁ、それ以上に愉快だったのは、「これから新しい研究領域をつくるのだ」ということを、一緒に本気で語り、時にはその戦略なんかを話し合うことができたのは、オモシロかった。
実は、わたしたちの本の1章に「201X年の人材育成は?」という章があるのですが、先日は、この章のことで大議論になりました。
要するに、あと10年後、「企業における学び」はどうなっているのだろうか。それを、海外の事例(長岡先生はイギリスでPh.Dを取得なさっているので、イギリスの事情にお詳しいのです)や、国内の企業の雰囲気から、予想するといったものです。
その成果は本で、北村さん@熊本大学が、執筆なさるので、お楽しみに。僕らの予想は、結構あたるのではないかな、と思っています。
が、いずれにしても、そういう「企業と学習」のことを、未来志向的に語る場がもててよかったと思っています。
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僕は、自分のめざす<教育学研究>は「未来志向」でありたいと思っています。
他の人はどう思うか知りません。まぁ、細かい議論は、僕に飲み屋で議論をふっかけてください。ここでは、その弊害も限界も知った上で、そう思っていることだけ、述べておきます。
まずは過去を知り、今を知るのです。
ヴァイツゼッカー演説ではないのですが、「過去に目を閉ざすものは結局のところ現在にも盲目」なものです。そして、数ある先行知見の上に、時局をよんだ上で、新たな学習環境や、教育の可能性デザインする。
「今まで教育の問題とは思われなかったものに、教育の視点を導入する」「今まで、誰もが着手しなかった領域に、教育や学習のエッセンスをつたえ、えっ、こんなのもありなん?」と思わせる。
一見場当たり的に見えるかもしれない僕の研究スタイルですが、このポリシーを戦略的に実行し、研究をしているつもりです。
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今回の本は、おそらく来春に、ダイアモンド社から公刊されます。手前味噌かもしれないけれど、「人材育成に関係のある理論」はほとんどが収録されていると思います。
そして、それが終われば、次のチャレンジです。
次は、どんな未来をデザインしようか。
未来を思い描いてくれる人たちとの、まだ見ぬコラボレーション
週末、原稿執筆をしながら、研究室の窓の外に、そんな愉快な光景を<見て>います。