組織開発(Organizational Development)を下支えする理論と価値観
先だって開催された、南山大学人文学部・中村和彦先生の組織開発(Organizational Development : OD)に関するレクチャーを聴講させて頂く機会に恵まれました。以前より、中村先生にはぜひ一度お会いできればと思っておりましたので、誠に嬉しいことでした。ご聴講をお認め頂いた中村先生、神戸大学経営学部・金井壽宏先生には、心より感謝いたします。本当にありがとうございました。
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聴講させていただくにあたって、中村和彦先生のお書きになった論文や、おすすめくださったBurke, W.の最新の論文を拝見させて頂きました。
論文を読み、講義をお聞きしたおかげで、アカデミックな場における組織開発論の現在、そして過去の系譜について - まだまだおぼろげながらですが - 理解をさらに深めることができました。
中村和彦(2007)組織開発(OD)とは何か?. 人間関係研究. Vol.6 p1-29
http://www.ic.nanzan-u.ac.jp/NINKAN/kanko/bulletin06.html
Burke, W. W. (2004). Organization development. In C. Spielberger (Editor in Chief), Encyclopedia of Applied Psychology (pp. 755-772). Oxford, U.K.
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/B012657410300355X
cf. Burke, W.W. (2011). A perspective on the field of organization development and change: The Zeigarnik effect. Journal of Applied Behavioral Science, 47, 143-167.
組織開発が何たるかは、上記の専門の論文や書籍に詳細に記されておりますので、そちらをご覧頂くとして、個人的には中村先生が「組織開発」という用語を、「組織の有効性を高めるのための多種多様な理論と手法が入っている"ハコ"のようなものである」というメタファで語っておられたことが印象的でした。
これは、組織開発を「何か特定の定型化されたひとつの手法」と捉えてしまうことの危険性を述べられている、と感じます。
組織開発を「何か特定の定型化されたひとつの手法」と狭くとらえ、その単一の技術に固執してしまうことを、中村先生は「枝葉専門家」とおっしゃっていましたが、非常に痛快で、かつ、耳の痛い喩えであると感じます。
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「枝葉=手法」の前に、結局「幹=思想的なもの」になるものが大切だということでしょうか。
それは、組織開発を下支えする「組織と人間に関する諸理論」でしょうし、また、組織開発の依拠する価値観(Value)なのでしょう。特に、後者の価値観(Value)は大切ではないでしょうか。
中村先生は、ODの依拠する価値観として、民主制(参加・関与・体験を重視する)、人間主義(人間への信頼)、データ主義(アクションリサーチ)、システム志向性(組織をシステムとして見る)、協働性(当事者ー外部介入者ー当事者の協働性)の5つを述べられておられました。
個人的には、特に一番目の「民主制」、二番目の「人間主義」が印象深いな、と感じました。もし、これらを毀損してしまいますと、ODは、もともとODがもっていたものとは、別物に変質してしまう可能性がゼロではないな、と感じたからです。
ここでは詳細を述べませんが、組織開発は、60年代に本邦に受容されますが、よく知られているように、その後の歴史は必ずしも平穏なものではありませんでした。
受容期にともなったいくつかの重要な概念のねじれた受容、組織開発の専門家の不足、教育研究機関の不足、しかし、それでいてブームとしての普及。当時の組織開発は、様々な艱難のもとにありましたが、混乱のひとつの要因としてあげられるのは、この価値観の受容にこそあるのではないか、と思いました。
言葉を選ばずに述べるのならば、組織開発は、実践する側にも、参加する側を「選ぶ」のかもしれません。それを実践し、参加するには、「組織開発の前提になるような価値観の共有と理解」が大切であったということです。
授業終了後、中村先生、金井先生とは、短い時間でありましたがお話しする機会を得ました。この当時の歴史のことを、お話できたことは、非常に嬉しいことでした。
中村先生は、最も理想的な組織開発のあり方は、「何か特定の定型化されたひとつの手法」を「どかーん」と導入すること「ではなく」、結局、「日頃の仕事現場で、みなが、自分たちの仕事現場をいかにOD的にしていくか」ということだと述べられておりました。
このひと言で、僕は、これまで抱いていた数々の疑問が溶解した気が致しました。それは、組織内の各レヴェルにおいて、本来は、価値観を共有した人によって分散して担われるソーシャル・ムーヴメントのようなものなのかもしれません。
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それにしても、中村先生の講義をお聞きして、かえすがえすも感じていたのは、組織開発に関係していた研究者は、経営と教育・学習の「越境者」であった人が多いということです。
Argyris, C.(クリス・アージリス)は、Harvard Bussiness Schoolの教育・組織行動論の教授で、当時、経営大学院でも、教育大学院でも授業をしていました。
先ほど論文を示したBurke, W.は、Columbia Teachers Colledge(コロンビア教育大学院)の教授であられます。
そして本邦における組織開発の第一人者のおひとりである中村和彦先生も、もともと学部時代は教育学をご専攻なさっておりました。また、金井先生も教育学部のご出身です。
非常に興味深いことです。
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久しぶりに「学び手」の立場に専念し、濃密な時間を過ごすことができました。学ぶ時間とは、まことに貴重なものです。最後になりますが、中村和彦先生、金井壽宏先生、そして受講生のみなさまに心より感謝いたします。本当にありがとうございました。
そして人生は続く。
投稿者 jun : 2013年10月11日 05:39