「明確なビジョン」だろうが、「曖昧なビジョン」だろうが、ツッコミどころ満載!?

 ちょっと前のことになりますが、経営層の方々を対象にしたある集まりにおいて、ある経営者の方が、「非常に興味深い質問」をしてくださいました。

「先生、質問があります。ものの本には、経営者はビジョンを伝えよという。でも、ビジョンは、どの程度まで明確にして、組織に伝えればいいのか。わたしには、そのさじ加減がわからない」

 ICレコーダを持っていたわけではないので、一字一句同じというわけにはいきませんが、おおよそ、こういうことでした。ご質問は、非常に短いものでしたが、興味深い問い」だと思いました。それは「経営者ならではの質問」であり、また、そこに潜む「ディレンマ」を表現した言葉だと思いました。

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 この方のおっしゃることは、おそらくこういうことです。
 その前にまず、経営者であるならば、「この組織をどのように動かしたいのか / 動かさなければならないのか」という「青写真」は持っていることを前提とします。それがない場合もありえるのかもしれませんが、この記事では、想定しません。

 これを踏まえた上で、この方の提示したかった問題はこういうことでしょう。

 もし仮に経営者が「ビジョン」を、かなり「明確」かつ「鮮明」に示すとすると、組織のメンバー内から、どのような反応が生まれるでしょうか。

 おそらく、

「上から押しつけられても、物事は動かない」
「全部決まっているのは、押しつけがましい」

 という反応が一定数返ってくることに間違いはないでしょう。

 一方、経営者が、意図的にビジョンを、曖昧に、かつ、漠っと伝えようとすると、どうなるでしょうか。そうすれば、「明確」でない分だけ、多用な意見が生まれ得ることになります。
 しかし、敢えてビジョンを曖昧に伝え、組織の中に議論が起こる事をよしとするならば、こんな声も聞こえてきそうです。
 
 「うちのトップは明確なビジョンをもってない」
 「何をしていいのか、わからない」

 つまり、「経営者がビジョンをもつ」とは、「魔女裁判のディレンマ」の論理構造に似ているのです。つまり、どっちにしても、文句を言われ、ネガティブな反応を生まれ得ざるをえない。

 いわゆる、「魔女裁判のディレンマ」とは、裁判にかけられた魔女に拷問を加えていき、そのプロセスで「自分が有罪だと自白すれば」、明確に魔女であることが認定されます。
 一方、どんな拷問にも耐え、自白を行わないのだとすると、「こんな拷問に耐え得るのは普通の人間ではない=魔女だ」ということになってしまう、というディレンマです。ひと言でいうと、「魔女」というラヴェリングが行われ、囚われの身となった時点で、その先の未来は決まっている、ということですね。

 これと似ている論理構造が、ビジョンにおいても張り巡らされています。「明確にビジョンを伝えれば、押しつけがましいので(Pushy)経営者として、いかがなものか」と言われる。一方、「曖昧にしかビジョンを伝えなければ、何をしていいかわからないから、経営者としていかがなものか」と言われるのです。
 すなわち、どちらにせよ、どのみち「組織の中でトップが何かを変えること、メッセージを伝えること」自体に、どのみち「否定的感情」が伴っているということですね。

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 その解では、この方のご質問に、皆さんで議論しました。様々な意見が出ましたが、おそらく、僕はこのようにまとめました。

「この問いに、誰もが満足する解は、おそらくありません。明確に伝えるのであれば、押しつけがましい、という反論がうまれます。敢えて曖昧にして議論を導くのであれば、議論のプロセスに耐えなくてはなりません。どちらにしても、まず一定程度のネガティブな反応がでてくることはやむをえません。

まず、チェックしなければならないのは、「誰」がネガティブに反応しているかを見ることではないでしょうか?どの道、否定的な感情はやむをえません。しかし、ネガティブに反応しているのが、組織にとって重要な人材ならば、それをうち捨てておくことはできません。

もちろん、組織にとって重要な人材以外が、ネガティブに反応していても、それが一定程度生まれたとしたら、ほおっておくことはできません。ネガティブな反応に対して、腹を割って話し合うプロセスを丁寧にもつことしかないのではないでしょうか。

しかし、そうであったとしても、どこかのどこかでは、決断をしなければなりません。たとえ半数が否定的な反応をかえしてくることがわかっていたとしても、それよりもベネフィットが少しでも上回るのなら、決断しなくてはならないときに決断しなければならないのが経営者ではないかと思います。

最後の最後には、経営者が決めること、しかないのでしゃないでしょうか。話し合いのプロセスにおいても、いずれにしても、ブレないことが大切かもしれませんね。」

 答えになっているかどうかはわかりませんが、僕はそのように思います。

 ビジョンとは「明確」であっても、「曖昧」であっても、いつもツッコミどころ満載です。「組織を動かす」とは、大変なことであるな、と今さらながらに思います。

 そして人生は続く

  

投稿者 jun : 2013年9月27日 07:53