博士論文とは「U字谷の旅」である
今年は、僕の指導する大学院生が、揃いもそろって、数名、博士論文にチャレンジする段になりつつあります。今年は忙しいな、と思いつつ、指導教員として、気が引き締まる思いで一杯です。
というわけで、今日は博士論文の書き方のお話をすることにしましょう。
「てめーごときのペーペーが、D論を語るんじゃない」
と便所スリッパで後頭部をスコーンとやられそうですが、ま、気にせず(笑)、自戒をこめて書いてみましょう。
学問分野によって違いはあるでしょうが、少なくとも、僕の分野では、こんな書き方が典型的だよ、ということでお読み下さい。
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一般に、最近の課程博士論文とは、個々にこれまで書いてきた論文をまとめ、一本のストーリーとすることで成立することが多いのではないか、というお話は、以前にしました。
その難しさは、「構造を書くことであることではないか」という問題提起は、以前、このブログで書かせていただいたことがあります。
博士論文とは「構造を書くこと」である!?
http://www.nakahara-lab.net/blog/2012/11/post_1907.html
すなわち、ひとつの大きなRQ(Research Question)を、小さなRQに分割し、それらをまとめつつ、One Conclusionを導く。博士論文の最大の課題とは、この「構造を描くこと」であると、僕は思います。
今日は、以前お話しした課題とはちょっと違った角度から、博士論文を「別のメタファ」で語ってみたいと思うのです。
曰く、
博士論文とは「U字谷の旅」である
「U字谷(ゆうじだに)」とは、文字通り「Uの字のかたちをした谷」です。要するに、下記のイラストにあるような博士論文のストーリーの流れのことです。
今日、僕が、究極言いたいことは、博士論文とは、このUの谷を下って、上がってくる「旅」に似ていますね、ということですね。
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博士論文の最初は「一般・理論・抽象的な議論 / 社会背景 / 歴史的背景」といったような「高み」からはじまります。それは「高み」の世界です。
そして、そうした「高み」にこれからやるべきこと、すなわち、自分の研究を意味づけ、位置づけながら、「個別・実践・具体」の世界に「下っていく」。この「下り」は「先行研究を批判的に吟味する / 自分の研究のオリジナリティを主張する」とよぶこともあります。
「下界」におりたら、ただちに、RQをかかげて、いくつかの研究知見を積み重ねなくてはなりません。ここは個別・具体的に研究を積み重ねるところです。
問題は、ここからです。下界で得られた知見は、そのままにしておいてはいけません。そこで「旅」を終えては「谷底で遭難」です(笑)。
「下界」で得られたものを、もう一度持ち帰るべく、谷をはいあがらなくてはならない(笑)。
「下界」で得られた知見を、「一般・理論・抽象な議論」といったような「高み」に「意味づけなおし」「位置づけなおし」を行わなくてはならないのです。それができて、ようやく「高み」に戻ることができました。やったー、無事終了です。
よくある失敗ケースは、2つです。
ひとつは「高み」の世界から「下界」に降りられない。つまり、自分がこれからやりたいことを、うまく位置づけられない。「急ぎすぎて降りてしまって」、スピードがありすぎて、止まれない。これでは事故がおこります。
もうひとつのケースは「下界」から「高み」にはいあがられない。つまり、個別・具体的に、自らがやったことを、もう一度、理論的世界、抽象的世界に位置づけられないことです。下界の世界も悪くないな、と居着いちゃうとか(笑)、あるいは、這い上がろうとして、ケガをしてしまう、ということでしょうか。
以上、自戒をこめて書きましたが、おわかりいただけますでしょうか? うーん、うまくたとえられていたかな。またヘンテコリンなメタファを出してしまいましたが、気にしないで、真に受けないでね(笑)
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博士論文をお書きになる大学院生の皆さんが、無事、Uの谷の旅を終えられることを願います。
ご安全に、素晴らしき旅を
大丈夫、終わらない旅は、ないものです。
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追伸.
雑誌「プレジデント」で「しごとの未来地図」という連載を一部担当させて頂いております。今週号は「資格取得のこと」を枕にしながら書かせて頂きました。編集担当の九法崇雄さん、構成の井上佐保子さんには大変お世話になっております。ありがとうございます!
投稿者 jun : 2013年7月22日 09:14