「グローバル人材育成」という言葉の利用をもう止めませんか!?:「グローバルな活躍に寄与する人事プロセス」をつくる

 現在、某社との共同研究(調査をともに行って下さっている皆様、心より感謝です!)で「海外で活躍できる日本人マネジャーの見極めと育成」に関する研究をしています。去年の冬頃からプロジェクトを立ち上げ、数ヶ月間のヒアリング調査を終え、現在、定量データの把握に入っています。

 すべてのデータセットが揃うまでには、まだまだ時間がかかるのですが、この仕事をしていて、つくづく思うことがあります。

 それは

「グローバル人材育成」という言葉の利用をもうやめた方がいい

 ということです。

 グローバル人材育成という言葉は、「人材」という言葉が指し示すように、「海外で活躍できる要因」を「個人」に矮小化してしまうような気がします。「個人」さえ変われば、「グローバルで活躍できる」ということです。でも、それは本当でしょうか。

 むしろ、まだまだ不十分ながら、僕らの手持ちのデータの実感からは、

「グローバルな舞台で人が活躍できる人事プロセスをつくりこむ」

 といった方がいいような気もします。

 くどいようですが、前者の「グローバル人材育成」は、介入の対象が「個人」です。
 つまり「ある個人が英語ができない」ということになれば、「英会話を学ぶ機会」を準備することになります。「異文化が理解できない」となれば「個人に対して異文化理解の研修をうつ」ということになります。もちろん、そうした機会も大切なこともあることでしょう。

 しかし、海外で仕事をしている日本人マネジャーの声に耳を傾けるたびに、それで本当に「海外で活躍できるのかな」という思いがしてきます。
 むしろ、大切なのは、もしかすると回り道になるのかもしれませんが、「グローバルな舞台で、人が活躍できる人事プロセスを作り込むこと」にあるように思うのです。つまり「グローバル人材育成」ではなくて、「グローバルな人材プロセスをつくる」ことになります。正確にいうと、これは二者択一の議論ではありませんね。「グローバルな人材プロセスをつくる」の中に、その一部として「グローバル人材育成」が存在する、ということになります。

 しかし、そういうややこしい整理をしなければならないほど「グローバル人材育成」という言葉は強固で、ある固定化した、偏ったイメージを「聞く人」に喚起してしまいます。「個人さえ変われば、何とかグローバルで活躍できる」といった具合に。
 
 だからこそ、敢えて、粗雑な整理だということは理解しつつも、ひと言でいいます。

 「もうグローバル人材育成って言うの、もう、やめませんか?」


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「グローバルな人材プロセス」は「採用」から「育成」「異動」にいたるまで、いわゆる人事プロセスのそれぞれにおいての対処を必要とします。

 たとえば「採用」や「選抜の基準」。
 どういう若手を採用するかは、自社のどういう人材が海外にでて活躍し、どういう人材が海外では仕事が難しくなるかを子細に分析することが必要でしょう。日本の人事部は、各種の個人情報をデータとして蓄積してきました。これらのデータをうまく使えば、ある一定数の海外赴任者が存在する場合に、「あるパターン」が見えてくることはないでしょうか。少なくとも僕の手持ちのデータからは、「海外で活躍できない人」の特性が浮かび上がってくるような気がします。

 例えば「国内での育成」。
 国内での育成体系は、近い将来、グローバルに活躍できる人材を安定的、かつシステマティックに輩出できるような仕組みになっているでしょうか。

 また海外赴任の「最初の打診(注意!内定ではないですよ)」は、どのくらい前に本人に通知され、どのような準備機会を提供しているでしょうか。1ヶ月前に「最初の打診」があった、という事例も、少なくない気がします。

 現代の海外赴任は、僕は「3重苦」だと思います。1)赴任自体が若年化しており、2)ロンドンやニューヨークではない新興国であり、かつ、3)必ずしも英語が通じる国ではありません。

 特に1)は深刻です。赴任者が若年化するということは、必然的に赴任地での役割が「はじめての管理職」になることが確率として高いこと、さらには「子どもが義務教育段階にあるような家族をともないやすいこと」を意味しています。

 このような状況下で、少なくとも「1ヶ月前の最初の打診」は、あまりにも酷ではないでしょうか。それで、安心して、海外で活躍することができるのでしょうか。

 つぎに「現地での仕事」。
 現地での仕事は、現地法人の代表のマネジメント、現地の状況に、多くの場合、委されますが、その状況はヘッドクォーターが把握・モニタリングできるシステムになっているでしょうか。

 海外勤務を終えた日本人マネジャーから、よくお話しをお聞きするのが、「もっとも最悪なときに現地に塩漬けにされ、もっとも仕事がノッてきたときに本国に返される」という異動です。

 また、困ったときのメンタリングシステム(支援システム)は存在するでしょうか。
 どの文献の指摘を見てもそうですが、現地のマネジャーが困ったときにもっとも助けになるのは、「本社」でもなく、ましてや「社外のメンター」でもなく、「同じ境遇にある同じ方面に赴任している信頼のおけるマネジャー」です。こうした接点をいかにつくっていくか、が問題になるのだと思います。

 最後に「帰任」。
 帰任後の評価やそれにともなうキャリアは、海外での活躍を加味したものになっているでしょうか。

 損得勘定してみると、国内で仕事をしていた方が特であった、という人事システムが完成しているのなら、人は「合理的選択」の結果として、グローバルな舞台で活躍しようとはしません。それは「合理的選択」の結果です。

 帰任後のショック、あと、帰任後に巻き込まれる様々な「やっかみ」は、海外勤務時のリアリティショックと同レベルであるという研究も存在します。いずれにしても、対応が必要な気もします。

 特に、現在、日本企業が取り組んでいるグローバル関連の人事施策は「若手」が中心です。こうした現状に対して、中堅以降の方々が、どのように反応するのか - ネガティブな感情を持たないのか - が課題であるような気がします。

 これはサイバーエージェントの曽山さんの言葉ですが「どんな人事施策でも、必ず、誰かに白けが生まれます」。「今日もどこかで、誰かが白けている」。そして、その「白け」を検出し、芽をつむことが、人事の仕事でもあります。

 あなたの組織のグローバル関連施策が、誰に「光明」を与え、誰に「白け」を与えているのかを考えてみることは、無駄なことではないのかもしれません。

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 今日はツラツラと、思っていることを述べてきました。

 今日の僕の話の趣旨「グローバル人材育成」ではなく「グローバルな人材プロセスをつくりこむ」という観点は容易なことではないのかもしれません。しかし、長期的視野にたった場合には、どうしても、それから逃れることは難しいのではないか、という印象をもっています。
 その観点にたった場合、「採用 - 選抜 - 赴任 - 帰任」、それぞれにおいて考えるべき事、やるべきことは多いような気がします。もちろん、いわゆる「グローバル人材育成」もそのひとつです。しかし、それがすべてではありません。
 
 ともかく、現状は、たとえば「英語」や「異文化理解」といった、万人にとってわかりやすい、いわゆる「個人を対象にしたグローバル人材育成施策」が、これらの「プロセス」とは独立して存在しているような印象をもっています。

 つまり、

 「採用」は「採用」
 「育成」は「育成」
 「キャリア開発」は「キャリア」

 そして、それらとは別に

 「グローバル人材育成」は「グローバル人材育成」

 といった具合に。。。

 これらをいかに統合するかも、大きな課題でしょう。

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 いずれにしても、またデータが揃いましたら、この議論をデータをもとにしていきたいと思っています。今は印象論しか語れないので恐縮ですが、地に足がついた議論ができればと思っています。

 そして人生は続く。

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■2012/10/10 Twitter

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投稿者 jun : 2012年10月11日 10:34