社会科学を学ぶことの意味:概念装置という考え方
先日、ふとしたことから経済学者・内田義彦さんの晩年の著作である「読書と社会科学 」(岩波新書)を読みなおす機会を得ました。本書は、一言でいえば読書論・学問論。「本を読むとはどういうことか」「学問をするとはどういうことか」を非常に平易な言葉で論じています。よく新入生などにおすすめされる本なので、懐かしく感じられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
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改めて読み返し、特に印象に残ったのは、「社会科学における概念装置」という考え方です。
内田さん曰く、理系の自然科学研究者が、電子顕微鏡などの「物的装置」を使い、自然や物質を「見つめる」のと同じように、人文社会科学にも、社会を見つめるための「装置」が必要だと説きます。それが、「概念装置」というものですね。
たとえば、何でもよいのですけれども、「ジェンダー」「再生産」「カリキュラム」「学習環境」・・・人文社会科学には、そういう「概念装置」がたくさんあります。
一見、とっつきにくいようではありますけれど、その背後には、豊穣な意味体系がそれぞれ広がっています。
社会科学を学ぶということは、こうした「概念装置」というものを「脳内」に組み立て、それを用いて「物事」を見ることができるようになる、ということです。さらには、最後には自分の「概念装置」を「構築」することが目指される、ということです。
例えば、同じ物事を見る場合でも、「概念装置」がある人と、ない人では、そこには全く異なった「光景」が広がるということになるのでしょうね。
綺麗な星空を見に行くときに、肉眼で観察するのか、高精度の望遠鏡を用いて観察するのか、ほどの違いがあるのでしょうね。
面白いですね。
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近年、「大学で学ぶ意味」が揺れている、といいます。特に人文社会科学においては、すぐに役に立つわけではないし、効果はなかなか実感できない。
こうした学問論から、「大学で学問することの意味」をもう一度捉え直してみるのもいいかもしれませんね。
また、社会人の方にとっては、「あなただけ絶対に儲かります的なビジネス書」を手に取るよりは、もう一度、「古典」に帰ってみるのもよいかもしれませんね。できれば、一緒に読むことのできる仲間を見つけて。
自分の概念装置を組み立て、新たな世界を見るために。
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(僕は経済に疎いので明確なことは言えないのですが、「あなただけ絶対に儲かります的なビジネス書」というものがあるのだとしたら、それを「マス」に広めるということは、自己矛盾しているように感じてしまいます。「儲かる」という現象が、「一部の人の、特徴的手法による、富の独占」と考えるのであれば、「儲かる方法をマスに広める」ということは、そうした特徴的手法の有効性を無化してしまうことにつながるような気がするのです。つまり、「儲かる方法をマスに広める」ということは、「その方法では儲からないようになること」を同時に進めてしまう、ということですね。あんまり自信はないけどね、なんか腑に落ちないんだよな。)
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■2011年4月13日 Nakahara Twitter
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- 21:28 人文社会科学を学ぶ意味とは何か?内田義彦先生の晩年の著書。自然科学研究者が電子顕微鏡などの「物的装置」を使うのと同じように、人文社会科学では「概念装置」を学び、かつ、それを用いて物事を見ること、さらには自らの概念装置を構築することが重要。http://ow.ly/4zd0P
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投稿者 jun : 2011年4月14日 08:19