押しつけられたポジティブシンキングのもたらすもの:バーバラ=エーレンライク著「ポジティブ病の国、アメリカ」書評
ポジティブシンキングとは、「コップがこなごなに割れて床に散らばっていても、コップの水はいまだ半分あると思い込むこと」に似ている。(中略)そして、アメリカという国では、「ポジティブであること」はふつうであるにとどまらず、「規範」にさえなっている。「そうあるべきだ」とされているのだ。
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バーバラ=エーレンライク著「ポジティブ病の国、アメリカ」を読みました。本書は、「ポジティブであること」が「規範」として人々を呪縛する、アメリカという国のダークサイドを論じた書籍です。
著者のエーレンライクは、第一級のジャーナリスト。彼女は、かつて米国の低所得者層の仕事であるウエイトレス、清掃婦、ウォルマートの店員を自ら体験し、そこでの経験をもとに、低所得者層の人々の悲哀と苦しみを『ニッケル・アンド・ダイムド』で世に問いました。『ニッケル・アンド・ダイムド』は、当時の人々の幅広い関心をよび、ベストセラーになりました。
エーレンライクの筆致は、とどまるところを知りません。次作では「低所得者層」から「ホワイトカラー」へ。彼女は、かつて、貧困とは無縁であった米国のホワイトカラーに焦点をあて、その求職活動を問題にしました。
リストラクチャリングされたホワイトカラーは、どこい行き着くのか。自らがホワイトカラーとして求職活動を実践し、その求職が「ラクダが針の穴を通ること」よりも難しいことを体験します。そこには、一度、落ちていけば止まらない、いわゆる「滑り台社会」の実態があります。
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本書「ポジティブ病の国、アメリカ」で、エーレンライクが選んだ対象は、一言でいえば「ポジティブシンキング」です。
曰く、
アメリカ人にとってポジティブであることは、「気分」や「状態」というよりも、「イデオロギー」の一部だからである。
そのイデオロギーとは「ポジティブシンキング」であって、この言葉には二つの意味がある。ひとつは、一般にいう前向きな思考のことで、次のように要約できる。「今のところ、状況はまずまずだ。少なくとも希望のきざしや不幸中の幸いを積極的に見つけようとすれば。今後はもっとずっとよくなるであろう」。(中略)「ポジティブシンキング」のもうひとつの意味は、「前向きに思考する練習」、あるいは「訓練」である。
誤解を恐れず要約するのであれば、、米国は、「前向きな思考、つとめて明るく振る舞い、考えることを、練習と訓練によって、すべての人々が、実践せざるをえない社会」であるということです。人間には「ネガティブさ」はあってはいけない。それは練習と訓練によって乗り越えなければならない、ということでしょうか。
こうした底抜けの「ポジティブさ」は、それは米国人生来の気質というよりも、意図的に構築されたものであるとのことです。エーレンライクの歴史的考察によれば、アメリカ人はもともとポジティブな思考の持ち主ではなかったそうです。「少なくとも根拠のない楽観主義と、それを見につける手法の症例については、建国から数十年たって表にあらわれ、まとまったかたちになった」としています。
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もちろん、「物事を前向き」に考えることは、ある側面では必要なことでしょう。人はどんなに「絶望」していても、「希望」や「明るさ」を失わないかぎり生きていけるものです。
もちろん、気分ややる気ののらない瞬間、ネガティブな日は、たくさんあります。でも、どうせ生きていくのならば、僕個人は、ネガティブであるよりは、ポジティブな気分をもてる瞬間を増やしていきたいと願います。そのことは、肌感覚としては、多くの人々から共感いただけることなのかな、と邪推します。つまり、自らポジティブに思考するそのことが「悪い」わけではない、のです。
しかし、問題は、そこではない。
彼女が問題にしているのは、おそらく、そういうことではないのです。
エーレンライクが本書を通して一貫して批判しているのは、自ら個人がポジティブになることを選んで、ポジティブに振る舞うことではありません。
「ポジティブシンキング」という意図的に構築された「イデオロギー」が他者から、明示的であれ、非明示的であれ強制され、そのことを通して「市場経済の残酷な側面」や、「社会の矛盾」が「隠蔽」「温存」され、そこで生まれた様々な悲惨な出来事が、すべて「個人の責任」にされてしまうことでしょう。
あるいは、ポジティブシンキングという個人の姿勢が、第三者(多くは権力と経済資本のある者)によって「規範」として強制され、現在の社会体制を維持するために狡猾に利用されることです。
エーレンライク曰く、
「物質面での成功を得るためのカギが楽観主義であって、楽観主義がポジティブシンキングの訓練によって習得できるならば、失敗したときには言い訳できない。ポジティブ思考の裏を返せば、容赦なく、個人の責任を強調されるということだ」
「問題を精神や心に押しこめてしまうと経済や社会の問題がないがしろにされ、個人の責任のみが問われてしまう。精神主義やポジティブ・シンキングが推奨される社会というのは社会構造や社会問題が無視され、隠蔽される危険があるのである。すべて精神や心が悪いとなり、搾取や権力の問題から目隠しをされてしまうことになる。」
本来問いなおされなければならないもの、社会の構造、会社の中の権力関係、既得権益が問われることなく、すべての問題が「個人の責任」として帰属されてしまう言説というものが、リベラリズムの台頭するこの世の中においては、生まれては消え、消えては生まれます。
エーレンライクが問題提起するポジティブシンキングも、また、その一つである、ということになるのかもしれません。
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このようなリスクを内在しながらも、いまや、「ポジティブシンキング」は「産業」として成長しています。
彼女によれば、企業が従業員用に購入する広い価格帯のモチベーション商品も、そのひとつだそうです。モチベーション商品は、巨万の富を動かす大規模産業である、といいます。
「社員をふるいにかけてリストラの犠牲者をえらびだし、他人とコミュニケーションをとらないようにしてまわりの人からいっそう遠ざけて追い込む。そのあとは、会社に残ったショックをうけ、不安をかかえる社員をどうにかしなければならない。CEOはモティベーション産業に頼る」
確かに、組織の中のモティベーションや感情を管理・維持・活性化するとする試みが、私たちの世の中にはあふれています。あるいは、モティベーションを向上させるということを目的に、チームビルディングを担う試みが、世の中にはたくさんあります。かくして、モティベーションや感情といった、個人の問題も、いまや第三者によって組織化される対象になりました。このことによって、個人が抱えているリスクと矛盾を、エーレンライクは指摘しています。
ポジティブシンキングは「産業」であるだけではありません。いまや、米国では「宗教」もポジティブシンキングを担う機関に変わりつつあることを彼女は指摘しています。キリスト教の一部の協会、目がチャーチが、ポジティブシンキングと結びつき、「陰鬱な説教」を人々になすのではなく、ポジティブさを全面におしだしたコーチングを提供するようになりました。
「あなたの態度こそが、これからの自分の人生を決めるのだ」
「神はポジティブである!」
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本書は、このように、米国最大のタブーである「ポジティブであること」に疑問を呈しています。その筆致はジャーナリスティックなものであり、時に扇情的ですので、論争を巻き起こさざるをえないと思います。
しかし、「強制されるポジティブさ」が、リベラリズムや自己責任論と共振して、既得権益や体制の問題を隠蔽し、それを維持することに荷担してしまう、という指摘は、非常に興味深いな、と思いました。
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■2010年5月19日 中原のTwitterでの発言
- 20:44 RT @sasokunitake:アクティブ発信は1%?@keiko_a twitterの利用「現在利用している=9.7%」「以前利用しているが現在はしていない=4.5%」「知っているが使っていない+知らないし使っていない+全然知らない=85.8%」n=1500 宣伝会議5/1号
- 20:40 RT @YukiAnzai: 学習を伴わない行動は致命的である。行動を伴わない学習は無益である。(メリー・ビアード)
- 20:30 ほほー、ありがとう!RT @hakonyan: 先生「お薬のめたね」はご存知ですか?http://bit.ly/9IB9M5 RT @nakaharajun: TAKUZOと帰宅。この薬は苦いので苦戦するぞ、と思ったらやっぱり苦戦。断固拒否15分。
- 18:44 面白そうだなぁ RT @yuuhey: SPSS Twitter分析モデル http://bit.ly/azdCNM
- 18:20 視聴回数と視聴者の数字を比較することが妥当かどうかわからないけど、とにかく急成長してますね。YouTubeが5周年、視聴回数は1日20億回~米3大テレビネット視聴者の2倍規模 http://ow.ly/1MYny
- 18:04 創造に興味をもつ人に、自分が創造する現場に参加してもらうことが、意図せざる結果として、創造する姿勢や志を理解してもらうことになるかも。。。RT @YukiAnzai: 本来、創造行為は他人に教えられない。だが、創造する姿勢、志を伝えることはできる。(今村昌平)
- 16:12 RT @aki_acco: @nakaharajun 以前勤務していた会社が、だいたい大卒新卒2~3年目から同期の5割以上が海外赴任するようなメーカーでした。赴任を望まない人もいましたが、早く行きたい!という人も多数いたように記憶しています。
- 15:12 RT @k0150: これからは大学ではなくて研究室(あるいは研究者自身)が情報や関係のhubとして機能するのだと思います。様々なhub同士が結びつくとエコシステムの増殖が加速化するだろうと思います。@nakaharajunブログを書きました。「研究室をオープンにすることの意味」
- 15:11 RT @kameishi_ja: ちょこちょこその話を聞き驚いてます。中にいると一部しか見えず。。RT @hoshibay: 私も商社でのその傾向、聞きました。RT @Stakesh : RT @makiko8: 先日商社の人と話していて、最近は海外赴任を拒否する若手がいる
- 14:09 米国低所得者層の仕事現場に潜入取材し、「ニッケル&ダイム」を著したエーレンライクの新著「ポジティブ病の国、アメリカ(http://ow.ly/1MUn6 )」を読んだ。ポジティブであること、モティベーションが高いことが規範として強制され、利用されることの不条理を鋭く暴く。
- 13:57 TAKUZOと帰宅。帰りに薬局、抗生物質はジスロマック。この薬は苦いので苦戦するぞ、と思ったらやっぱり苦戦。アイスにまぜて飲ませようとしても、断固拒否15分。マズイと思うからマズイのだ、と説得して、飲ませた。後で皿についた薬をひと舐めしたら死ぬほどマズかった。マズイものはマズイ。
- 13:00 RT @Tokyo_Wave: 伊藤忠丹羽会長も労多く出世しないと敬遠されると先週講演でお嘆きに RT @clione @makiko8 最近は海外赴任を拒否する若手がいると...商社に入る人でも!? RT @hoshibay 海外赴任に対する抵抗感が50代より20代
- 12:28 Oh No...保育園からお呼出の電話です、、、がーん。覚悟はしておりましたが。午後は年休とるしかないなぁ。保育園へ急げー。
- 12:22 そうか、むずいよなぁ。ま、とりあえずやってみて、悩みながら、答えをさがそう!RT @fumituki85: 中原ゼミアカウントでの発言は、どこまで外に出すのか非常に難しく感じました。 RT 研究室をオープンにすることの意味 http://ow.ly/1MP8K
- 12:17 RT @makiko8: 先日商社の人と話していて、最近は海外赴任を拒否する若手がいると聞きました。商社に入る人でも!? と驚きました RT @hoshibay: さらに海外赴任に対する抵抗感が50代より20代の方が大とは何度聞いても心配になる。うちの息子もそうだけど
- 10:44 RT @mellowfields: 研究室をオープンにすることで、研究者間の距離が縮まる。企業活動をオープンにすることで、顧客との距離が縮まると考えます。RT @ ブログを書きました。「研究室をオープンにすることの意味」です。http://ow.ly/1MP8K
- 10:10 RT @koheimoritani88: 東証1部上場企業の4割弱が「本社で外国人社員を活用したことがない」活用企業でも外国人社員平均比率は0.26%。自分または配偶者が海外で働くことに抵抗感を持つ50代男性は35%。20代男性は39% 0519 日経
- 10:08 ipadに電子雑誌55誌を配信 電通など (asahi) http://ow.ly/1MNyW
- 09:24 TAKUZO、深夜未明には解熱。朝は元気。マイケルのビリージーンをダンス。念のため小児科で受診。やや喉赤いが、大丈夫そう。今、保育園におくってきますた。なんとか、夕方まで無事に持ち堪えてくれるといいけどね。今日一日、携帯電話は手放せないですね。
- 09:13 RT @stebun: 企業研究でも分野やフェイズによってはバチリと当てはまります。RT 同感です!@jinzya: 研究、R&D、人材開発などの領域には、ソーシャルな時代の特性を活かしたエコシステムがあると共感します RT ブログを書き http://ow.ly/1MP8K
- 08:51 同感です!RT @jinzya: 興味を持って拝読しました。研究、R&D、人材開発などの領域には、ソーシャルな時代の特性を活かしたエコシステムがあると共感します RT ブログを書きました。研究室をオープンにすることの意味です。http://ow.ly/1MP8K
- 08:09 ブログを書きました。「研究室をオープンにすることの意味」です。メディアと時代の変化とともに、大学の研究室のあり方も変わってきています。かつて研究室は、今よりもずっとずっと閉鎖的な空間でした。研究室をオープンにすることの可能性とリスクについて。http://ow.ly/1MP8K
- 04:40 ありがとうございます。拝読させて頂きます。RT @toshinoriito: M&A研究で、個人に焦点をあてた事例ほとんどないですが、エルピーダの事例は非常におもしろいです(特に外様の関与)。 http://bit.ly/aOUpBx
投稿者 jun : 2010年5月20日 12:09