変わりゆくプロフェッサーシップ

 清華大学と東京大学の学術協定によって、今週は・清華大学教育研究所の方々が、東大を訪れています。議論のテーマは、「大学教育の質保証」。大学教育の質を向上させるため、さまざまな取り組みを、相互に紹介していきます。言語は英語。僕もプレゼンしました。

 「講義で学生はどのように学んでいるか」「学生は学外でどのように学んでいるか」清華大学では、アメリカのトップ研究大学・中国国内他大のデータと自校のデータを比較(ベンチマーク)しています。もちろん東大でも、僕の所属しているセンターの先生方が、そのようなベンチマーク調査に従事なさっています。
 清華大学の調査によると、講義の中での学習活動(質問)などに乏しい反面、正課の学外での学習は米国よりも活発だとのことでした。

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 上記の「大学教育の質保証」に関する議論の内容は、また機会をかえてお話ししますが、ここでは、一連の会議の内容を聞いていて、つくづく思ったことがあります。それは、「大学教員の在り方」についてです。

 けだし、この時代に、「大学院に進学して大学教員を志すということ」は、「最初に自分が卒業させる学生は、日本人ではないかもしれないこと」を覚悟している、ということです。そして、「自分の最初の授業スライドは日本語ではないかもしれないこと」を覚悟している、ことに近くなっているな、と思いました。
 一言でいうと、もう、大学は、「未曾有のグローバル時代」に突入しているということですね。もはや、大学教育はドメスティックなレベルで語りえぬレベルに突入しているな、と実感しました。研究分野によっては、「何をいまさら」と思われるかもしれません。つまり、「もうすでに」そうなっている、ということですね。このあたりは研究分野にかなり依存します。
 ともかく、今後は、大学教育全体が、その影響を強く受けて、進展していくであろうことは、間違いないなと実感しました。
 
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 今、グローバルレベルで、大学間の競争が激化していることは周知の事実です。また、大学生・大学院生の移動も激しくなってきました。
 その構造的変動の中で、望むと望まないとにかかわらず、プロフェッサーシップ - いわゆる大学教員の在り方も変動してくるんだろうな、と思います。大学教員への社会的期待も、大学教育の激変の中で、揺れ続け、そして増え続けているのです。

 しかし同時に一方で、大学教員のリソースは限られている。それなのに、教育、研究、社会貢献、産学連携、グラントの獲得、国際交流・・・やるべきことは、善かれ悪しかれ、増え続けていきます。
 誰が、何を、どこまで担うべきなのか。役割分担を行うべきなのか、あるいは、行うのだとしたら、どのようにあるべきか。大学教員を支える組織的仕組みにはどのようなものが必要か。いずれにしても、難問です。

 個人的な考えを述べるのだとすると、「何かをなすこと」は、「何かをやめること」とセットでなければならないと思います。「何かをすること」に注意をとられるのではなく、「何かをしないこと」にもっと焦点があたってもよい。CCCの柴田励司さんの言葉を借りると、「集団皿回しをやめる」ということになります。
 1枚、2枚、3枚・・・回すことを求められる皿の数は、次第に増えていきます。しかも、皿の種類は、大きいものから、小さいもの、丸いものから、四角いものまで多種多様です。そもそも、皿回しは難しい。

 かくして、皿回しがはじまります。1枚、2枚、皿の数は増えていきます。ある程度の限界まではやむをえないのかもしれませんが、だからといって、わたしたちは手足の数が10本あるわけではない。
 だんだんと、皿が回すスピードが遅くなり、最悪の場合、すべての皿を落としてしまうことだってありえます。しかも、集団で皿回しをしていて、ある日突然カタストロフィーが訪れた日には、目もあてられません。
 回す皿の数を減らすこと、あるいは、回す皿の種類をひとつにしぼること。どうしても必要ならば、あるいは、回す人を増やすこと・・・何らかの対策が必要です。

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 誰が、どのような皿を、何枚回すかは別問題として、回してほしいと社会から要請される皿の数自体が、今後近い将来、減ることはないでしょう。
 この時代に「大学で働くこと」は、腹をくくる必要がある、ということでしょうか。それは、望むと望まないとにかかわらずです。そのことだけは、どうも間違いなさそうに思います。

 ・・・そして人生は続く。

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 下記は2010年5月14日・5月13日の中原のTwitterでの発言。

■2010年5月14日の発言

  • 18:01  考えさせられたこと:大学教員のリソースは限られている。教育、研究、社会貢献・・・やるべきことは増え続ける。何をどこまで担うべきなのか。役割分担は必要なのか。ファカルティを支える仕組みにはどのようなものが必要か。
  • 18:01  天野郁夫先生の総括コメント2。米国大学は、潤沢な資金リソースがあるうえ、機能的に様々に校種分化している。これによって、1)大学教員の役割分担が生じており、かつ、2)多くの学習サポート部隊を抱えることで、学部教育を支える。
  • 18:01  天野郁夫先生の総括コメント1。東大と清華大学の教育課題がなぜ生じているか:1)留学生の急増、2)研究科・大学院生の拡大、3)研究機能が活発化によって、学部教育を圧迫。さらに学部教育に対して社会から求められる要請は多様化。大学教員は研究をかかえる一方で、学部教育に対応できていない。
  • 17:40  清華大学の開発したTsinghua Education Online(e-learning環境)は、現在中国の200の大学で用いられ、毎日100万人が各大学から利用。20万のコースがセットアップされている、とのこと(韓先生のご発表)。
  • 17:34  調査結果的には、そのような傾向が見いだせるそうです。RT @clione: 意外RT @nakaharajun: 東大の学生は、他の旧帝大、私立大学、公立大学の学生と比べて、ディスカッションやグループラーニングへの参加が低い(劉先生のご発表より)。
  • 17:27  おっしゃるとおり。分野によっては、もう「今」ですね。RT @yuatast: それ以前に、研究室の構成員がすでに外国人率が高いですから。もう今の話ですよね。RT @nakaharajun...
  • 17:26  東大の学生は、他の旧帝大、私立大学、公立大学の学生と比べて、ディスカッションやグループラーニングへの参加が低い(劉先生のご発表より)。
  • 16:33  RT @clione: RT @nakaharajun: RT @kobayashikoichi: 確かに。就活フォローも、日本の市場だけを見るわけにいかなくなってます。特に中国ははずせませんRT 「大学院に進学して大学教員を志すということ」は、「最初に自分が卒業させる学生は・・
  • 16:11  各大学ベンチマーク比較。収入はHarvard : 3211M$, 東大 : 2005M$。寄付金はHarvard : 34.9B$, 東大 : 0.5B$。留学生率はHarvard : 15.7%, 東大 : 8.9%, 清華 : 5.3%(2005年)。(小林先生のご発表)
  • 15:23  「講義で学生はどのように学んでいるか」「学生は学外でどのように学んでいるか」・・・清華大学では、アメリカのトップ研究大学・中国国内他大のデータと自校のデータを比較(ベンチマーク)している。講義の中での学習活動(質問)などに乏しい反面、正課の学外での学習は米国よりも活発らしい。
  • 15:11  RT @kobayashikoichi: 確かに。就活フォローも、日本の市場だけを見るわけにいかなくなってます。特に中国ははずせません。RT この時代に「大学院に進学して大学教員を志すということ」は、「最初に自分が卒業させる学生は、日本人ではないこと」を覚悟している、ということ
  • 14:51  この時代に、「大学院に進学して大学教員を志すということ」は、「最初に自分が卒業させる学生は、日本人ではないかもしれないこと」を覚悟している、ということだよなぁ。そして、「自分の最初の授業スライドは日本語ではないかもしれないこと」を覚悟している、ことのように思う。
  • 14:32  大学の質保証に関する議論。東京大学 - 清華大学。「教育環境の改善」について、僕も、ちょっとだけ発表の予定。
  • 14:10  よく覚えていますね(笑)。ありがとう。RT @hari_nezumi: この視点をもらえたのは@nakaharajun さんのプレゼンを聞いたからだから感謝している。実感わいたのはM1の秋以降だった。大切な経験は後できいてくる。RT...
  • 13:37  清華大学の方々とランチ。日本語、英語、中国語が飛び交っている。
  • 11:09  今日はとにかく会議が多い。現在、文化人間情報学コース会議。このあと、清華大学からのお客様との会議。ひさしぶりにスーツを着た。
  • 10:05  RT @akira_amano: 形式知はコピーできない(というよりコピーしても意味がない)。だからこそコンテクストを共有した者同士が集う学びの場は今後も要請されていく。その場を耕し維持していく役割を担うことでナレッジワーカーはメディア化していくのだと思う。 #cresys
  • 10:04  RT @akira_amano: ナレッジワーカーとして生きること、そのヴィジョンを受け取ったのが今日の最大の収穫。従来の組織の枠組みが液状化していく中で、越境的知的実践者として「研究のエコシステム」を整えそこで生きるためにはどうするべきか、その工夫が聞けました。 #cresys
  • 10:02  昨日のまれびとハウスでのスピーチにご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。皆さんのまえで、話すことで、僕自身のvisionも、また少しだけクリアになりました。企画をしてくれた@yohei917 さんにも感謝です。See you !! @mare_bito #cresys
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■2010年5月13日の発言

  • 20:34  まずは正課が基本でしょう!RT @fumi_d: まずは,大学外での正課ですか・・・ RT どのような大学生活を過ごすと、大学生は成長できるのか?:溝上慎一(2009)はこちらです! 大学と大学外の活動をバランスよく配分できた学生が、伸びる! http://ow.ly/1KuHg
  • 20:33  ラーンライフバランス!? RT @cosmicfizz74: ラーンライフバランス?RT どのような大学生活を過ごすと、大学生は成長できるのか?:溝上慎一(2009)はこちらです! 大学と大学外の活動をバランスよく配分できた学生が、伸びる! http://ow.ly/1KuHg
  • 18:16  パッションです!RT @chihiroparis: 先生のHPの「趣味・雑考」はすごいですよね(笑)RT 大学生研究の第一人者、京都大学の溝上慎一先生 http://ow.ly/1Kuzk
  • 18:08  どのような大学生活を過ごすと、大学生は成長できるのか?:溝上慎一(2009)はこちらです! 大学と大学外の活動をバランスよく配分できた学生が、伸びる! http://ow.ly/1KuHg
  • 18:03  ちなみに、、、どうでもいいことだが、溝上先生は「撮り鉄」である。電車好きな愚息TAKUZOは、溝上先生を尊敬している。RT @nakaharajun: 大学生研究の第一人者、京都大学の溝上慎一先生 http://ow.ly/1Kuzk
  • 18:00  大学生研究の第一人者、京都大学の溝上慎一先生より、彼の、最近の「論考」が送られてくる。熟読。そのたびに、「ちんたらしてらんないな、俺も、頑張らなきゃな!」と思う。溝上先生のパフォーマンスとパッションを見習いたい。溝上先生のWebページ http://ow.ly/1Kuzk
  • 17:52  猛烈な勢いで案件を処理中。Learning barの今回の演出は、吉村さん(@lalaharu)・舘野君(@tatthiy)を企画中。海外案件では、アシスタントの阿部さんがハンドリング。中国からのお客様では、@shigejam先生。皆さん、ありがとう!
  • 13:11  福島規子(2009)高次なサービス構造と学習理論に基づくサービス学習 日本観光ホスピタリティ教育学会の抜き刷りを読む。「おもてなし」をモジュール化理論で記述しつつ、その学習のあり方を考察。
  • 11:25  やりましょう! 詳細は後日御相談させてください。よろしくおねがいします。RT @fukuikensaku: 是非。私は秋に貴学(大学院・文化資源)で『情報と法』の講義を持たせて頂くので、ゲストでご出演頂くとか、どうでしょうか。RT 大学と著作権について議論できるとよいですね
  • 11:22  ハードな法律論にもかかわらず、所々に、遊び心と笑いがある、よい本です。笑RT @shimomayu: これ、いい本ですよね☆ RT @fukuikensaku著「著作権の世紀」の書評。著作権の概要、著作権訴訟の事例、平易に解説 http://ow.ly/1Ko9d
  • 10:17  何か機会をえて、大学と著作権について議論できるとよいですね。RT @fukuikensaku: 『「新しい知識や技術を常に生み出す大学」という組織は、「著作権」と本気で向き合い、世界の大学と切磋琢磨する時代に入っている。』 同感です。RT http://ow.ly/1Ko9d
  • 10:14  福井先生、大変勉強になりました。感謝です。RT @fukuikensaku: そして、中原淳さんが書評を書いて下さいました。RT 「著作権の世紀」の書評。ディジタル化・ネット化の中で、世界的に広がるコンテンツ産業の再編。その中核は著作権 。http://ow.ly/1Ko9d
  • 09:25  研究室のWebページには、どんな情報をのせたらいいのか?@ikiikilab 研究室ウェブページ作成の心得?! | いきいき研究室増産プロジェクト http://bit.ly/aeeGeH
  • 09:22  ブログ更新。福井健策著「著作権の世紀」の書評。ディジタル化・ネット化の中で、世界的に広がるコンテンツ産業の再編。その中核は、「著作権」をめぐる戦いです。本書では、著作権の概要から、実際の著作権訴訟の事例、そして、最新の理論までを平易に解説。 http://ow.ly/1Ko9d
  • 07:10  本日の「まれびとハウス」での、大学生・大学院生向けのスピーチの資料、なんとか完成しました。オール書道で つくりました。@yohei917さん、参加なさる皆さん、どうぞよろしくお願いいたします。 書道http://ow.ly/1KlEE 概要:http://ow.ly/i/1wt6
  • 07:09  本日の「まれびとハウス」での、大学生・大学院生向けのスピーチの資料、なんとか完成しました。オール書道で 、フロムスクラッチでつくりました。@yohei917さん、参加なさる皆さん、どうぞよろしくお願いいたします。http://ow.ly/1KlAS
  • 06:54  最近、@tatthiyさんは、早起き大学院生だそうですね。みんなが登校してくる前の研究室は、研究・仕事、はかどりますよ!Keep up!RT @tatthiy: 今日も順調に早起きして通学中。天気がよくて気持ちいい。
  • 06:51  なるほど、旅が「内省」の機会になるのかもしれませんね。RT @cake_miya: 私は「最近主体的に生きてないな」と思う時に一人旅に出たくなります RT : かわいい子には旅をさせろですかね RT @saoino: 先日知ったのですが、「旅育」という言葉もあるそうですよ。
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投稿者 jun : 2010年5月14日 16:41