クリエィティブオフィスで人を育てる!?:2009年1月Learning barが終わった!
2009年1月のLearning barは、日本コムシス株式会社の潮田邦夫さん、東京工業大学 妹尾大先生を講師にお招きし、
「職場のオフィス環境を見直すことで、人材育成を促すことはできるのか?」
について全員でディスカッションいたしました。
今回、Learning barの開催場所を工学部2号館から、情報学環福武ホールにうつしました。今回も多くの方々にご参加いただきました。
5時30分、会場です。足下の悪いなか、会場と同時に、多くの人々が詰めかけました。いつものように、サンドイッチ、ビールなどが用意されています。
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まず、最初に僕の方から「趣旨説明」をさせていただきます。いつものように、Learning barについてご説明。
Learning barは、
1.聞く
2.聞く
3.聞く
4.帰る
という場ではなく、
1.聞く
2.考える
3.対話する
4.気づく
ような場であるということをご説明いたしました。
また、現在非常に流行している「オフィスを変えよう」という考え方の背後には、
1)コストダウン
2)ペーパーレス化の推進
といった理由以外に、
3)知識創造理論の影響
4)アフォーダンスや学習環境デザインといった理論の影響
があるということをご説明いたしました。
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早速、潮田さんの発表です。
潮田さんは、これまで、NTT東日本、NTTドコモ、そして現在は日本コムシスにおいて「クリエィティブオフィス」という新たなフリーアドレス型のオフィス環境を提案・実装し、仕事のやり方の改革を進めてこられました。
現在、その考え方は政策レベルに影響を与え、経済産業省主催「クリエイティブ・. オフィス推進運動」に結実しているそうです。
潮田さんによると、20歳-60歳のあいだに平均的なサラリーマンは、下記のような時間を経験するそうです。
105,600時間(30%)ビジネス
102,200時間(30%)自由時間
142,600時間(40%)睡眠
一般的なサラリーマンにとって、オフィスで過ごす時間は決定的に長い。よって、オフィス、職場を「コミュニケーションの場」「新しいアイデアを生み出す場」「人を育てる場」に変える必要があるということです。
ご発表の中では、クリエィティブオフィスを導入することで、どのようにコミュニケーションの変容が起こるのか、非常に詳細にご紹介していただきました。2名でのインタラクションではなく、3名がコミュニケーションをとると、様々な効果が生まれるそうです。
クリエィティブオフィスは、「自分で意図をもって、自席を選ぶ環境」です。自分で「意図」をもって、自分で「選択」する。このことを通して、「自分の仕事」や「自分のコミュニケーションのあり方」を考えて欲しい、という願いを、背後に感じました。
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潮田さんの2セットのレクチャーの後は、東京工業大学の妹尾大先生のご講演です。
妹尾先生によりますと、現在の企業が競争優位を獲得するためには、3つのアプローチがあるそうです。よく知られているように、「ポジショニング視点」「資源ベース視点」「動的能力視点」です。
1.ポジショニング視点(Positioning View)
○利益を生み出すうまみのある市場・
セグメントを発見し、自らを位置づける
○M.E.Porter
○業界構造分析(PIE, 魅力度)、戦略マップ、移動障壁
○競争優位を得るには:
「戦いを避ける」
2.資源ベース視点(Resource-Based View)
○他社が持たない独自の資源・能力を強みとする
○C.K.Praharad & G.Hamel
○コア・コンピタンス、模倣困難性
○競争優位を得るには:
「真似されにくい武器を持つ」
3.動的能力視点(Dynamic Capability View)
○既存資源を進化させていく能力や
新しい資源を創造する能力を培う
○I.Nonaka
○組織的知識創造
○競争優位を得るには:
「戦って、勝って、また強くなる」
(妹尾先生のスライドより引用)
このうち、クリエィティブオフィスは、3の「動的能力視点」に位置づくそうです。
要するに、人が思いつかない「破壊的なイノベーション」をもたらすような人材、組織知をいかに獲得するかがポイントである、ということでしょう。
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妹尾先生のご講演のあとは、Learning bar恒例の「お隣ディスカッション」に入ります。
様々な背景をもつ人々で、今日はじめて出会った方々が、潮田さん、妹尾先生のお話をネタに30分間、「自分の気づき」を共有していきます。
お次は、携帯フィードバック。
今回は、総数30件のメールが寄せられました。質問は下記のようなものでした。
○どのようなインパクトがありましたか?
○社員からはどのような反応がでていますか?
○社員の方から抵抗はなかったのですか?
○部課長の反応はいかがでしたか?
○定着するにはどの程度の時間がかかるのか?
○経営陣はどのように納得させたのですか?
○誰も近くによってこない人はいないんですか?
○発言の固定化を招きませんか?
○人材育成部門はどのように関与したのですか?
○総務部門はどのように関与したのですか?
○大学の教授室はクリエィティブオフィスにならないのですか?
質問のすべてを扱うことができたわけではありませんが、皆さん、ご協力、ありがとうございました!
質問コーナーの最後に、潮田さんがおっしゃっていた一言が印象的でした。
「人材育成に関係する人たちは、オフィスのことは、自分の仕事とは関係ないと思っている。でも、それは違う。
今回、このような研究会に呼ばれたことは、僕は嬉しい。なぜなら、はじめて、人材の問題とオフィスの問題が関係あると、思われたからだ。
今までオフィスとかファシリティのいろいろな場所で講演を行ってきたが、そこでの話題は"コストダウン"とかに関するものが多い。でも、重要なことは、もっと大きなことなのだ。人の働き方を変える、人の行動を変える、人の学び方を変える、その環境を準備することが重要だ」
テープレコーダーをもっていたわけではないので、一字一句、同じではないと思いますが、このようなご主旨の発言をなさっていたのが印象的でした。
実は、潮田さんがオフィス改革にのりだすきっかけになったのは、今から20年前、「人材育成」を担当したことなのです。「人を育てること」に対する潮田さんの「パッション」が感じられました。
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最後に僕がラップアップをします。
ノンテリトリアルオフィス研究に関しては、僕の研究室の野澤さんが研究を進めています。野澤さんによると、その評価はポジティブなもの、ネガティブなもの、いろいろな意見がでているそうです。
先行研究に僕の意見を足したノンテリトリアルオフィスのネガポジは下記のようになると思います。
○ポジティブな効果
・コミュニケーションの活性化
・リラックス
・知識創造
○ネガティブ
・自席のテリトリー化・固定化
・プライバシーの侵害による
- 職場満足度の低下
- クリエイティビティの低下
- 騒音・作業効率低下
・二極化(クラスター化)
- 出来る人とできない人の二極化
- クラスター内のコミュニケーションは
- 活性化するが、クラスター間のコミュ
- ニケーションは不活性になる可能性
このあたりに関しては、しっかりとした社会調査、定量・定性的研究が実施されなければならないでしょう。
潮田さんのお話をお聞きして、僕がまっさきに思ったのは、このオフィスは、「自分の仕事のあり方をフィードバック(見えちゃう化)し、働く個人に内省をうながす環境である」ということです。
1.仕事のあり方への「自己内省」を促す
なぜ、自分はここに座るのか?
なぜ、自分はここを選ぶのか?
2.仕事のあり方への「自己反省」を促す
なぜ、自分の隣にはこの人が集まるのか?
なぜ、自分の隣には来ないのか?
一般に、人間が個人の独力で自己内省を駆動するのは難しいと言われています。ですので、通常は他者の力を借りて、共同的な内省(Collaborative reflection)を可能にするような環境を構築するわけです。潮田さんのオフィスは、もしかすると、これをオフィス自身が担う役割をもっているのかな、という感触を得ました。
もちろん、これを明らかにするためには、今後、しっかりとした調査が実施されることが重要です。
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最後に、今回、お忙しいところご出講いただいた潮田邦夫さん、妹尾大先生に、心より感謝いたします。本当にありがとうございました。
また、Learning barは東京大学大学院の院生諸氏によって運営されています。
今回は、M2の口頭試問が金曜日・土曜日に予定されていることもあり、M0・M1のの皆さんが中心になって手伝っていただきました。坂本事務局長、福山君、我妻さん、野澤さん、劉さん、大城さん、岡本さん、坂本君、牧村さんにお手伝いいただきました。感謝です。
さらには議論に参加してくださった皆様に感謝いたします。雨の日の金曜日、足下の悪い中、お越し頂き感謝です。
本当にお疲れ様でした。
すべての人々に感謝を込めて
ありがとうございました。
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次回のLearning barは、3月から4月を予定しています。一度、「やる気」を取り上げてみたいのですが、どのような方にお話しいただくかで、少し悩んでいます。Learning barらしい会になるとよいのですが。もう少し時間をください。
どうぞお楽しみに。
詳細は、下記メルマガからお知らせいたします。ご参加希望の方は、ぜひご登録ください。
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http://www.nakahara-lab.net/learningbar.html
See you soon at Learning bar!
投稿者 jun : 2009年1月31日 17:00