世界最大の放送番組アーカイブ:仏・国立視聴覚研究所(INA)訪問

 世界最大の放送デジタルアーカイブ、フランスの「Institut National de Audiovisuel(国立視聴覚研究所)にて関係者とミーティングをもった。

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国立視聴覚研究所
http://www.ina.fr/

 今回の訪問は、マイクロソフト先進教育環境寄付研究部門で進めている「NHKアーカイブスの大学教育での利用プロジェクト」に関係するものである。

マイクロソフト先進教育環境寄付研究部門
http://www.utmeet.jp/

NHKアーカイブスの大学教育での利用プロジェクト
http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_180522_02_j.html

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 INAは過去60年間のラジオ番組と50年間のテレビ番組を、すべて収集・保護・・デジタル化している世界最大規模の放送アーカイブである。現在、300万時間の作品を保管している。

 INAのスタッフ数は955名。その内訳は下記となっている。

 リサーチャー部門  6%
 制作部門      3%
 アーカイブ部門   55%
 トレーニング部門  8%
 技術スタッフ    28%

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 INAの放送番組アーカイブには、2つの種類がある。

 1つめは、1940年から開始された商用アーカイブ、INA MEDIA(イナメディア)。

 INA MEDIAは、テレビ65万時間、ラジオが70万時間の合計135万時間が既に所蔵されており、INAが「ディレクターの権利」を有している。事業者向けに映像資料として著作権料をとって、貸し出している。

 もうひとつは、法定管理のアーカイブ、INA Theque(イナテーク)である。INA Thequeは、ラジオ95万時間、テレビが70万時間の合計165万時間のアーカイブとなっている。

 法定管理(Legal deposit)とは、1992年に施行された「放送番組の政府への納品義務」のこと。フランス国内の放送事業業者は、放送されたテレビ番組・ラジオ番組を、すべてINA Thequeに保存しなければならない。これが法律で決まっている。

 現在、51テレビ局、17ラジオ局、年間53000時間の番組を法定管理している。2010年・・・つまりは今から4年後には、これを100テレビ局、20ラジオ局に増やす予定である。

 INA Thequeに保存された番組は、

1)国立視聴覚研究所が提供する放送事業者向けの専門性向上のため
2)修士号以上を有する研究者が研究を行うため

 に利用される。

 上記2つの目的であるなばら、国立視聴覚研究所内にて自由に閲覧したり、分析したりすることができる。映像は外に持ち出すことはできない。

 INA Thequeの全利用者の内訳は、学生が63%、放送業者が21%となっている。INA Thequeには、利用登録が必要であるが、これまでに登録を行った人の数は1万2000人である。年間1600人のペースで増加している。

 2)の研究利用に関しては、現在、400以上の大学がINA Thequeとリーガル・アグリーメントをかわし、その大学に所属している学生らがINAを利用できるようになっている。メディア研究、歴史研究、文学研究、政治研究などを志す若者たちが、INAを利用しているようだ。

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 具体的に、学生らは、どのようにINA Thequeを利用するのか。
 INA Thequeにおいて、彼らは「映像資料の閲覧・分析システム」を利用できる。

 このシステムを使うと、INA Thequeのデータベースの中から、関連する映像資料を取り出すことができる。

 また、映像にはアノテーションを付与することができ、映像のスナップショットとともに、資料としてそれを持ち出すことができる。

 また映像資料に付与されたキーワードが時系列をおって、どのように増加したり、減少していくか、グラフ化したりする分析ツールも付属している。

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 INA Theque、INA MEDIAの世界最大規模のアーカイブを構築するにあたっては、「ドキュメンタリスト」とよばれるスタッフによって、「人力」でタグ付け、詳細なディスクリプションが執筆されている。

 誰が制作者で、どういう番組なのか。その番組を代表するようなキーワードは何か。ドキュメンタリストは、番組を視聴し、一つ一つの番組にディスクリプションをつけていく。

 こういう地道な作業の果てに、INA Thequeの利用者が強力な検索を行うことができるのである。

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 なお、近年、INAは、インターネットでの映像資料公開のプロジェクトをはじめている。数ヶ月前には、INAの映像資料10万点を無料で公開するというプロジェクトを開始し、話題をさらった。

INA FR
http://www.ina.fr/

 これまで教科書だけの人であった、ミシェル=フーコ、ロラン=バルトなど、構造主義現代思想の礎を築いた、何人かの思想家たちの貴重なインタビュー映像などが公開されている。

 また、INAは、高校生向けに、ある程度セレクションを行った歴史の映像アーカイブ「JALONS」を公開している。こちらの方は、授業での活用等も視野にいれたつくりとなっている。

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JALONS : Selective archive of teaching history
http://www.ina.fr/visite/education/jalons/index.fr.html

 INAが、研究者や放送事業者だけでなく、一般の人に対しても、インターネット公開に力を入れているのは、これらアーカイブの事業に年間7270万ユーロ(113億4000万円)という巨額の運営資金をかけているからである、という。社会貢献のひとつのかたちと位置づけることができるだろう。

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 このように活発な活動を続けるINAであるが、さらに「新しい大学院」まで開設する。

 大学院の名前は、「School of Television and digital media」である。

 1.Television and digital media archives manager
 2.Television and digital media producer

 という2種類の専門家を養成するプロフェッショナルスクールである。ファカルティは、パリ大学など既存のアカデミクスの教員と、INAの実務家スタッフから構成されるようだ。2007年から開始が予定されている。

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 さて、最後に僕の個人的な雑感を。

 今回のINA訪問で、特に印象的だったことは、関係者の口から下記のような言葉が繰り返された言葉である。

 映像は文化遺産(Cultural Heritage)である。だから、我々をそれを残さなければならないし、研究目的のために公開しなければならない。

 こういう理想が何度も何度も語られたことは、本当に印象的だった(もちろん、INAの役割に情報統制などの負の側面があることは承知している)。
 
 
 
 
 
 そうか、文化遺産なんだよなぁ・・・。

 そのくらいの高邁な理想がなければ、途方もない金を使って、様々な専門家を大量に雇い、デジタル化を進めるなんてコトはできないよなぁ、と改めて感じた。

 けだし、フランスは長く世界の「思想」をリードしてきた。

 実存主義は我々に「世の中への関わり方が、認識をつくる」と教え、構造主義は「あなたの認識は、あなたの所属する社会、文化、文化によって規定されている」と教えてくれた。多くの学問分野の規定をなす理論として、これらの理論は、今も新鮮さを保ち続けている。

 そういう最先端の思潮を生み出すことにリソースをさくことに、ある種の社会合意があることが、何だかうらやましかった。フランスは学問の国なのだ、と思った。

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追伸1.

 なお、今回の視察にあたっては、NHKの江原氏、ロドリグ・マイヤール氏に多大なる情報提供をいただいた。

 また、このエントリーを執筆するにあたっては、マイヤール氏の論文「世界最大規模の放送番組デジタルアーカイブ フランスINAとINA thequeの実績」(放送研究と調査 2006年10月号)を参考にさせていただいた。

 なお、新しいデータ等に関しては、聞き取り調査に得た情報をもとに更新した。重ねて御礼申し上げます。ありがとうございました。

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投稿者 jun : 2006年11月16日 05:40