The Long & Winding Road - 2001/11


2001/11/01 先週の悪夢

 先週は悪夢のような忙しさだった。

 英語の論文を書きつつ、科研書類を作成し、NIMEで開催されていた国際シンポジウム(ほとんど英語)に参加し、英語プレゼンを作成。手がすこしでもあいたら、研究予算の調整。

 研究的には、2つのサイトの実証実験が始まったので、サーバのセットアップとユーザ登録に明けくれた。これらすべてをこなした週末には、原田宗典的表現ならば、シオシオーのパー。

 次週以降は、来年度の研究計画策定がそろそろ近づいており、さらには査読論文なんかも帰ってきて、研究会で静岡出張、国際学会のため韓国出張、工学会の鹿児島出張が続く。

 そういえば、先日YAHOO!の方が3名来研した。コーポレートYAHOOの教育的利用の可能性について話した。ポータルの設計等について、いろいろと勉強になったなー。なるほど、なるほど。

 11月は忙しい。


2001/11/04 インストラクション・デザイン

 先日、カリフォルニア在住の方からメールあり。「eLearningやWBT等の設計を勉強できるeLearningのコースは日本にはあるか?」とのこと。聞いたことがなかったので、たぶんないのでは、と答えました。

 その方いわく、海外には「インストラクション・デザイン」「WBT設計」を学べるeLearningコースっていうのがあって、その方はある大学の修士号をめざしているのだとか。

 インストラクション・デザイン、WBT設計に関して、本とかだしたら社会的意義はとっても高いのではないでしょうか。先日ある出版社から一冊出たけれど、ちょっとバタクサい気もしてしまいます。僕はやってみたいんですが、どなたかコラボレーションしていただけるかた、いらっしゃいませんか?


2001/11/05 IPテレビ電話

 山内さんと新幹線移動中のうち合わせ中、話題になったことにIPテレビ電話がある。NTT-MEが発売を発表したんだけど、これはブレークするかもしれない。

 http://www.ntt-me.co.jp/news/news2001/nws011105.htm

 というのは、テレビ電話をするのにISDNをひかなくてもよくなっちゃうし、今までNetMeetingとかには抵抗が会った人でも、これなら電話なんだから抵抗無く使えるかもしれないからねー。

 フェニックスとかって、少しずつ、こちらにシフトしていくんだろうな。


2001/11/06 スカパー

 先日、いろいろかんがえたすえ、おうちにスカパー(Sky Perfect TV!)を導入した。英語の練習もあって、CNNとかDiscovery channelを見たいっていうのが直接の理由。

 それにしても、アンテナとかって、安いんだよね、今。なんと9800円でアンテナとチューナーのセットを購入できました。月会費だって、最初のつきは2500円くらいかかるけど、次の月からは380円くらいの基本料と見たいチャンネルの料金だけだからね。

 衛星アンテナをセットして、ようやくマンションのかべにケーブルを通して、仮登録をして、次の日にさ、よーやく映像が見られるのになーとおもっていたら、期待していたちょっとがっかり。2週間の無料視聴期間なんだけどね、例外があるんです。よーするに、見られないチャンネルがある。

 100番台と900番台のチャンネルを例外にすんなってーの。


2001/11/07 横浜トリエンナーレ

 ちょっと前になるかな、カミサンが、いつもお世話になっているディレクターの大房さんに横浜トリエンナーレの招待券をもらったというので、行って来ました。

 横浜トリエンナーレ。3年に一度の現代アートの祭典です。これね、結構深かかった。一番好きだった作品は、秋本きつね氏のCGアニメ。あの作品は、見ていると何だか勝手にカラダが動き出すほどウキウキします。

 第二位は都築さんという人の作品で、「秘宝館」っていうのがあるんだけど、これがね、スゴイ。フェミニストが見たら、「便所スリッパで作者のアタマぶったたきたくなる作品」なんだけど、何だか退廃的な雰囲気がいいですね。

 不思議な空間でした、横浜トリエンナーレ。素敵な休日をくれた、大房さんに、この場を借りて感謝します(そういえば、前もVJイベントでお世話になった)。


2001/11/09 僕の信じざるもの

 ヨノナカには、資格試験とかあふれていますね。昨日、eLearing系のコースウェアをいろいろ渉猟していて、そのコースに参加する学習者が取得をめざす資格の多さに少々辟易しました。

 資格(credential)というのは、メリトクラシー(業績主義)を中軸原則とする社会には必須の装置で、それが理想的には専門的知識や技能をおさめている証明として機能するのだけれども、問題も多い。

 第一に、誰がどういう基準で資格を配分するか、という問題は、実は公平なようでいて、そうでないことが多い。基準が曖昧だったり、公平に運用されなかったり、いわゆる属性原理がそこに介入することもある。第二に、そうであるが故に、資格をもっているものが、発揮すべき専門的知識や技量を発揮できるかっていうと、必ずしもそうでないことが多いわけです。

 そうかといって、近代の属性主義による社会編成というのは、それよりも不公平だから、まぁ、しゃーないか、ということになっている。

 というわけで、僕はあんまり資格を信じていません。まー、業務遂行上取らなければならないものは、いやいやでも取らなければならないので、それは仕方がないとして冷めた見方をするとして、意味はそれ以上でもそれ以下でもないと思っています。「ふーん、そういう一面もあったのね、おすまし屋さん!」的に資格を見るのが一番よろしい。

 今、ここで、あなたに何ができますか?

 僕が信じるのは、もがきながらも、たとえそれができなかったとしても、この問いに答えようとする人だけです。そして、同時に、こういうことを己に常に問い続ける研究者、そんな研究者に僕はなりたい。


2001/11/11 - 15 ICCE2001Korea

 今回で2度目の国際学会になります、韓国ソウルで開かれた国際学会ICCE2001に出席しました。この学会、AACEという学会が開いているもので、僕は去年も参加したのですね。

若手な人々、KERISの先生方と
 

  

   
 右は、教育工学若手なヒトタチです。村上君@京都大学大学院、亀井さん・稲垣くん@関西大学大学院でした。左の写真は、KERISのキム先生・クー先生のご紹介でのお食事記念写真。右から、三輪くん@関西大学大学院、僕、亀井さん、キム先生、田口さん、永岡先生、植野先生@長岡科学技術大学、ポク先生。
  

一緒に行った先生方
 

  

   
 今回は、このメンバー+田口さんで一緒に学会にいきました。ごめん、田口さん、切れてるわ。右の写真は、竹谷先生@拓殖大学。
  

食い物シリーズ
 

  

    
 韓国の食べ物たち。右はサムゲタン。薬につかった黒い鳥が、そのままはいっている餅米入りのおかゆ。左は、プルコギ。ちなみに、プルコギとは「プル(火で焼くこと」+「コギ(肉)」という意味。要するに、焼き肉。
  

分断の悲劇
 

  

   
 最終日、ヒマがあったので学会で用意されていたツアーに参加。38度線の非武装地帯にいくというもの。右の写真は、遠くに北朝鮮が見える。第三の都市ケソン市です。左の写真は、非武装地帯にはいる直前の写真。ここから先は、写真撮影はいっさいできません。
  

 僕の発表は、14日だったのですが、今回はセッションのチェアマン(議長)を突然拝命することになってしまいました。発表とチェアの仕事は、まぁ、何とか合格点だったかなと思っています。英語ヒアリングを一年続けていたカイがあったね、よかったね。

 調べ学習にもずいぶんいきました。特に圧巻だったのは、西大門にある博物館の調べ学習でした。ここはね、ふだん僕らが何もかんがえずにやり過ごしつつ生きているナショナリティというものを可視化するというのかな、ハイライトしてしまうソーシャルメモリー(社会的記憶)的装置という意味において、ものすごくデカイ哲学的課題をはらんだ場所でした。何言っているのかわかんないと思うけど、いろいろ理由があって、詳しくは喋りたくないです。

 今回の学会はいろいろな人とお話ししました。KERISのキム先生、クー先生らとのお食事会など、外国の方とも話す機会があって嬉しかったのですが、ふだんはなかなか話す時間がない日本の研究者の人ともたくさん話をすることができました。

  • 三宅なほみ先生@中京大学、吉岡先生@豊田高専との認知科学等に関するディスカッション
  • 永岡先生、竹谷先生@拓殖大、植野先生@長岡科学技術大との教育工学に関するディスカッション
  • 鈴木さん@茨城大学と舟生さん@東京理科大学との状況的認知に関するディスカッション
  •  などは特にインスピレーションにとんでいて、アドレナリンがよく飛んだとさ。

     国際学会は、発表を聞くだけじゃなくって、そういうふだんは忙しくてなかなかできないディスカッションなんかができていいですね。非常に勉強になります。

     来年はどこに行こうかな、帰国後、さっそく作戦を練ろうと思っています。ちなみに写真は、「食ってる」ところと「遊んでいる」ところしかないけど、キチンと仕事はしたよ。


    2001/11/16 関心空間

     三菱総研の浦島氏にオモシロイサイトを教えてもらった。

     関心空間(http://www.kanshin.com/)

     プレスリリースによると、以下のようにある。

    株式会社ユニークアイディ(本社:東京都港区 代表取締役:前田邦宏 )はネットユーザーが持つ多様な趣味嗜好を“立体的”につなぐ掲示板システム『関心空間』を開発し、無料で自由登録が可能なサービスをhttp://www.kanshin.com/で開始しました。

    ユニークアイディでは、個人発信の情報を掲示板システムで集積し、コンテンツ化した『関心空間』を開発しました。『関心空間』が通常の掲示板との違うのは、ユーザーが入力したコンテンツを「ひと」「分野」に加え「関係性(つながり)」という三軸で構成し、検索することの出来る立体的なデータベース構造とした点です。これによりコンテンツがスレッド(議題)に対し、一元的に属するメーリングリストや掲示板と違い、自分の関心に沿っていながらも“意外な情報のつながり”を楽しむことができる新しいコミュニケーションが可能となったのです。

     さっそく登録してみたが、なかなかオモシロイ。掲示板じゃないんだけど、これは掲示板なわけで、それでいて人とつながっている感覚が何ともいえない。ビジュアルも結構僕好みだ。

     浦島君、いつも貴重な情報をありがとう!


    2001/11/18 研究方法論をキチンと学ぶ

     先日、ある大学院生の方と話していて、オモシロイ議論になったことに「日本の大学では研究方法論をキチンと教えない」というのがあった。

     恥ずかしいからあんまり言いたくないし、「オマエ、そんなの自分でやれ」と言われたら困るから声を小さくするけど、「研究方法論、キチンと身に付いていますか?」と聞かれると、僕も非常に心許ない。一時期、結構勉強した気はするんだけど、それに専門性はあるか、と聞かれると、「うーん、どうだかねー」という気になってしまいます。

     月並みな言い回しだけど、アメリカの大学はこれに対して、徹底的に研究方法論を教えますよね。何冊も何冊も方法論に関する本を読まされると言います。

     まぁ、だからと言って、「日本の大学=ダメ・アメリカの大学=マル」というのは典型的に陥りやすい2分法で、必ずしもそうとも言えない。

     日本の大学はどちらかというと、研究方法論とかは講座内の徒弟性に基づいて、暗黙知的に伝承されるという特徴をもっているように思います。でも、正規のカリキュラムにはなっていないから、どこか「危うさ」が残るというか、伝承がうまくいっているときには、いいんだけど、ちょっと研究室にディスコミュニケーションが存在すると、とたんに知識伝承がとまってしまう。そういう危うさをもっているような気がします。

     それに対して、アメリカの大学は、クレジット制度、学位ライセンス主義ですから、そういう曖昧なところは残すわけがなく、キチンとカリキュラムに統合されているわけです。そして、そのクレジットを習得したものに、学位が授与され、それがプロフェッションにつながっていくというわかりやすい図式が存在しているのではないでしょうか。

     じゃあ、どっちがいいのかってことになるのですが、ハッキリ言って、どっちもどっちな気がします。アカウンタビリティという観点から見れば、アメリカの大学の方がいいのでしょう、たぶんそれは間違いない。「クレジット - 学位 - プロフェッション」という図式が確立されているっていうのは、当該の学問にとって経済的かつ政治的に非常に強力なことでもあります。
     でも、正直言って、国際学会等の発表を見る限りにおいて、それほどパフォーマンスの差は見られない。研究方法論は非常に厳密なんだけど、ホンマカイナと言いたくなるものもあるし、研究方法論は破天荒だけど非常にオモシロイものもあります。

     うーん、何を言いたかったのかわからないんだけど、ひとつ確実なのは、スゴイ先生というのは、スゴイです、どちらの大学をでていても。この問題、皆さんはどう思いますか?


    2001/11/20 村木先生のレクチャー

     ACTの研究者で、テスト理論の第一人者の村木英治先生が、NIMEにいらっしゃってレクチャーをなさるとのことで、僕も参加しました。

     数式がガンガンでてきて、途中からは「すみません状態」になってしまいましたが、なるほど、最初の方は理解できました。ありがとうございました。

     この領域はComputer-Based Testing(CBT)と言われるらしいですが、TOFELとか、マイクロソフトの資格試験とか、ずいぶんと実用化されているところもあるようです。認証とかなりすまし、とかの問題は残るんだけど、すぐに結果がわかるっていうのはいいかもしれないなーと思いました。


    2001/11/21 実践

     東京都の経営する大学の改革がいよいよはじまった。

     東京都立大学、都立科学技術大学、都立保健科学大学、都立短期大学の4大学について、「東京都大学改革基本方針」に基づいて統合するという計画である。基本方針が示すのは統合だけじゃない。東京都が提供する高等教育サービスの近い将来が語られている。

     http://www.metro.tokyo.jp/INET/ETC/DAIGAKU/GAIYO.htm
     http://www.metro.tokyo.jp/INET/ETC/DAIGAKU/INDEX.htm

     改革の目玉には、プロフェッショナルスクールの整備もかかげられている。たとえばビジネススクールは平成15年4月、ロースクールは16年4月に開設が予定されている。 前者は新宿の都庁舎にキャンパスをつくるみたいで、都市再開発の動きをさらに加速させそうだ。

     いわゆる大学ビックバンはもうはじまっている。必要なことは、これからの未来を予言することでもなければ、今起こっている変革を批評することでもない。今、ここでなしえることをなす、実践するしかないのだ。


    2001/11/25 近況報告

     最近、あまりに忙しすぎて日記が更新できませんでした。出張から帰ってきたと思ったら、本の締め切りやら、論文の脱稿やら、学会やらで、しばらくアタマから湯気がでていました。

     学会は大変オモシロかったです。僕だけなのかな、今年の学会はディスカッションがとっても有意義だったように思うんです。本音の話が結構聞けた。とにかく今回で4回目の学会だったけど、一番楽しく愉快でした。

     今、密かにやっていることと言えば、来年度はじめようとするプロジェクトの立ち上げにひどく時間がかかってるってこともあります。微妙な交渉が続くので、結構神経を使います。でも、もうこちらの方は、やるしかない。まぁ、プロジェクトの中でいろんな葛藤があるのは慣れているから、いいのだけれども。今日も中島みゆきの「地上の星」とか「ヘッドライト・テールライト」とかの鼻歌を歌いながら、プロジェクトの研究計画と予算見積もりをしていました。酔ってるねー。

     来週も忙しそうです。そういえば、翻訳の締め切りもあったような・・・。


    2001/11/28 プロジェクト・メイキング

     山内さんと僕の新・共同研究プロジェクトのメイキングが今佳境にはいっています。ファンドの獲得とか、協力スキームの確立とか、いろいろとネゴシエーションが必要になる。

     このプロジェクトは、拡張性にとむ分散型のバーチャルユニバーシティをつくるプロジェクトです。システム開発は、おそらく僕と西森さん@NIMEと松河さん@大阪大学大学院、一色さん@来年度東京大学大学院があたることになります。たぶん、データベースをゴリゴリすることになるんでしょう。

     今日は、NTTラーニングシステムズの小松さん、山内さんと打ち合わせにいきました。お二人とも非常に気さくな方で、タメになるお話もきけました。是非、コラボレーションできるといいのですが、ものすごく期待しています。

     同時に、先行研究を少しずつ調べています。結構やられているところもあるけれど、まだまだやられていない部分もありますね。特に、テクノロジー的にはプアなのかもしれませんが、学習とか教育とかという側面での工夫はまだ余地があると思いました。できれば、ここに第三世代ケイタイなどもくっつけて、素敵な学習環境をつくりたいものです。

     あと、同時に大学にアクセスする社会人なんかを対象にした調査もやりたいと個人的には思っています。これまでにも、同様の調査なんかはあったけど、ハッキリ言って、そこに参加している人の顔が見えない、生活が見えない。彼らは、どういうことで学ぶことを決意し、今後、どういう自分を夢見ているのか。そういう部分を見ていく調査にしたいです。

     大変ですが、充実しています、最近。

     未だプロジェクトの名前は決まっていなくって、Project Xと呼んでいるのですが、この「X」にはきっと、このプロジェクトのウリを反映した名前が入るんでしょう。そして、そのウリはメンバーのコンセンサスのもと、決定されるんでしょう。名前をつける日が楽しみです。


     NAKAHARA,Jun
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